東京ダンジョンスフィア (電撃文庫)

【東京ダンジョンスフィア】 奈坂秋吾/柴乃櫂人 電撃文庫

Amazon
Kindle B☆W

最新のVR技術が暴走し、使用者の脳内世界がダンジョンに!そのダンジョン攻略を行う『冒険者ギルド』に、高給&様々な特典を目当てにして、軽い気持ちで入隊した赤峰光。しかし、入隊後すぐに突入したダンジョンでは、右も左も分からず、武器の具現化にも苦労して後れを取るハメになってしまう。パーティーを組むのは、長剣と氷を操る蒼倉、精霊を杖で使役する桜白、スナイパーライフルで戦場を支配する緑の三人。リーダーに指名され、何か深刻な事情を抱えている様子のメンバーたちと攻略に挑む赤峰は、仲間と協力してダンジョンの秘密を解き明かす!ダンジョン創造主の脳内世界を攻略せよ!

この現代日本において極めて危険な職業である冒険者として成功しなければならないだけの、ヘヴィな理由を抱えている仲間三人に対して、主人公の赤峰くんはぶっちゃけ後戻りできるところにいるんですよね。あらすじでは軽い気持ちで、とは書いてあるのだけれど母子家庭で金銭的に非常に苦しく母親が過労気味、という彼の家庭環境はそんな軽い気持ちで冒険者をやろうとしているものではない。実際、共に試験に挑んだ学友たちは実戦の恐ろしさに怖気づいて辞退してしまっている。
決して軽い気持ちではない。相応の覚悟、というものが彼にはあった。それでも、後に引けない仲間となる同期の三人に比べれば、冒険者を辞めて危険のないアルバイトで頑張る、という選択肢はあったはずなのだ。
彼の母親も、息子がどれほど高い報酬と引退後の社会的な立場が優遇される特典があったとはいえ、危険な職に就くことは望んでいない。
そんな退路が用意されている状況で、彼自身冒険者として仲間たちに比べて才能に乏しい結果も思い知らされて、それでもなおそれこそ軽い気持ちで、安易な英雄願望で、赤峰くんを前に進ませることなく、ちゃんと悩ませ躊躇わせ怯ませた上で、強制ではなく誘導でもなく、ただ彼の意思をもって選択させた展開は、こう言っちゃ何だけれど「頼もしい」ものでした。
力で突出してるわけでもすごいカリスマがあるわけでもない、ちょっとお調子者であんまり自信をもって言葉を発することの出来ない彼が、リーダーとしてみんなを引っ張っていくだけの「ナニカ」をはっきりと見せてくれてるんですよね。命を預けることができるだけの信頼を。彼の言葉に従えるだけの信用を。
特別な力も才能もない、性格も凡庸である本当に平凡な少年である彼が見せるリーダーとしての振る舞い、責任感、仲間を思う心。シンプルで平凡な在り方だけれど、その見せ方の堅実さはばっちり読み応えとして返ってくるものだったんですよね。
ダンジョン化したマンションの、核となった人物の背景や執心しているものを反映したダンジョン内部の様子や、ボスキャラの隠れ場所や正体など、それぞれダンジョンによって特徴があって、攻略も力押しではなくある種の謎解きみたいなクエストになっていて、登場人物たちの切実な人間関係も相まってか、なんか味のある面白さのある作品でした。
今回は初対面だし、仲間として繋がるための踏み込み具合だったキャラクター同士の関係だけれど、続くなら今度は個々人同士の関係として新たなものを見せてってほしいところですねえ。



それぞれ冒険者