軍師/詐欺師は紙一重 (講談社ラノベ文庫)

【軍師/詐欺師は紙一重】 神野オキナ/智弘 カイ 講談社ラノベ文庫

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父親が亡くなり家を失うことになった語利カタル。最後に住み慣れた家の中で見つけた謎の抜け道を通ると―ファンタジー世界のような場所に出た。そこにやってきたのはドワーフとミノタウロス!さらに竜を駆る少女までやってきた。戸惑うカタルに少女は言う。「お前、軍師の血族か。ならさっさと来い、女王陛下と国難がお待ちだ」と。連れて行かれた先で聞かされたのはこの国は危難を迎えると「軍師の館」が現れ、そして驚いたことに、詐欺師だと言われていたカタルの祖父はこの世界では軍師だったらしい!カタルは決意する、祖父の後を継いで軍師として活躍することを!祖父の残した詐欺の道具と知略で国の危機を救えるか!?
メインヒロインの子、空賊みたいな姿で格好いいなあと思いつつも、どちらかというと国と敵対しているか距離を置いてそうな雰囲気の子だなあ、と思ってたんだけれど、あれ竜騎士の装束だったのか! いや、防寒対策にゴーグルにとレシプロ時代以前の航空機パイロットの服装っぽい格好は確かに竜騎士のユニフォームとしては最適なのか。
でも、このアグレッシブな格好で身分は女公爵とかなかなか新鮮である。
それはそれとして、主人公のカタル。もう名前からして現世日本では名うての詐欺師としてブイブイ言わせていた来歴なのかと思ったら、むしろ親の急死にかこつけられて親族から全財産むしり取られてしまった、という詐欺じゃないけれどとにかく被害者側じゃないか! ということで、別に「凄い詐欺の技術」で異世界の連中を騙しまくる、というたぐいの話ではないのですね。伝説の軍師だった、という祖父も別に詐欺師ではなかったみたいだし。
話聞いている限りでは、祖父の異世界での活動も別に詐欺を働いていた様子もなく、これってシンプルに優秀なネゴシエーターのお仕事ですよねえ。そりゃもちろん、ハッタリと錯誤を利用した騙しや誤魔化しなんかは入ってますけれど、人間心理を巧妙に就く精緻な詐欺の技術かというと。まあ、祖父にしても、カタリにしても口先だけで自分も他人も集団もコントロールするようなタイプではなく、覚悟と信念と自己犠牲で事実も真実もぶっこ抜いて結論を押し通す、みたいなわりと力技っぽいタイプなので、詐欺師とも軍師ともあんまり合ってない感じなんですよね。
実際の所、詐欺師にしても謀略家にしても、歴史上の著名なそれらは胡散臭い人間どころかむしろ誠実で他人から信頼を寄せられるタイプだった、という話をよく聞きますけれど、そういうのともちょっと違いますし。
カタリの場合は祖父の遺産が残っていた、という意味で多少の幸運はあったんだろうけれど、逆に考えると軍師の伝説があるとはいえ、ゼロからこれだけのものを遺していた爺様は雷名に相応しい人物だったんだろう。あとはどれだけ、この祖父の雷名を利用して今のうちに自分の名前をはったりに使えるだけ高めるか、なんだろうけれど。自分の程度をあまり高く見積もっていないからか、カタリのやり方って自分を削るのをまったく厭わないんですよね。詐欺師や軍師のスマートさとは程遠い泥臭さ。それが当人のスタイルなのだから、詐欺師や軍師や云々外野から言われても煩わしいだけだろうけれど、肩入れしちゃったラウラがこれ傍にいて心配も尽きないだろうししんどそうなのがちと可哀想である。

神野オキナ作品感想