魔弾の王と戦姫<ヴァナディース>18 (MF文庫J)

【魔弾の王と戦姫<ヴァナディース>18】 川口士/片桐 雛太 MF文庫J

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ティル=ナ=ファを喰らったガヌロンを、ティグルたちは死闘の末に討ち果たした。だが、その代償としてエレンたちの竜具は力を失った。その場にいなかったヴァレンティナのみが竜具を保持し、ソフィーは彼女の凶刃の餌食となる。玉座まであと一歩というところに迫ったヴァレンティナと戦うべく、ティグルは残された戦姫たちと連合軍を結成。ジスタート史上最悪の混乱を鎮めるべく、周囲の後押しも受けて、ついに王となることを決意する。国の枠を超えて、仲間たちの想いを背負って挑む決戦。辺境の小貴族からはじまった弓使いの若者は「魔弾の王」の新たなる伝説を打ち立てることができるのか―大ヒット最強美少女ファンタジー戦記、堂々完結の第18弾!
タヌキー!!
いやもううん、信じた。信じちゃったよ。狐というイメージはさらさらないので、この場合はタヌキだよなあ。タヌキ。
最終巻はある意味、ヴァレンティナの物語でした。最後の敵役であった彼女。面白いことに、というとアレなんだけれど、彼女ってこのシリーズの幕引きを担う相手ではあったんですけれど、黒幕とは足り得なかったんですよね。あれこれと陰謀・謀略・暗謀を張り巡らせてたんですけれど、実際の所彼女の画策したことって何かと上手くいかなかったり、思惑通りにことが運ばなかったり、思ってたのと違う結果が伴ってきたり、と想定外が重なってしまっていて、黒幕というには状況・情勢をコントロール出来ていたかというとかなり怪しいのである。
というか、ダイス目でいうとファンブルばっかりだったんじゃないだろうか、これ。もちろん、彼女自身の判断ミスというケースも多かったのだけれど、運がなかった場面も決して少なくなかったのである。
これをして、ヴァレンティナをすべての展開の黒幕、物語のラスボスと呼ぶのは少々難があると思える。

でもね。
逆に言うと、彼女は黒幕やラスボスなんていう舞台装置にはならなかったとも言えるんじゃないだろうか。

これだけ、想定通りに事が運ばない展開を経ながらも、彼女はそこで立ち止まることも臆することも俯くこともせず、ひたすら楽しげに彼女に降りかかる難局を臨機応変に乗り越えながら、なんだかんだと夢であり野心の賜であった自身の王への登極へのルートをこじ開け、その路線に情勢の軌道を乗せていくのである。
魔弾の王の歩む王道とはまた違う、彼女自身の目指す王への道を、着々と登っていく。
そこに居たのは敵である。
ラスボスでも黒幕でもない、言わば競争相手とも言えるもう一人の主人公であったのだ。
走り始めたその時から、最後の瞬間まで彼女ヴァレンティナは、大仰な黒幕にもならず、さりとて卑小な小物や小悪党にも堕さず、歪まずブレず、最初から最後までその在り方は善でも悪でもないただのヴァレンティナ=グリンカ=エステスで在り通した。
最初から最後まで、彼女はただただヴァレンティナ以上の何者でもなく、以下の何者でもないままに走り抜けたのだ。
その意味においては、実に見事な生き様であったのではないだろうか。
野望潰えながらも、その終端をまんざらでもない様子で迎えられた彼女は、この最終巻においてその魅力を増しましていたように思う。なぜ彼女の竜具「エザンディス」が最期まで彼女を見捨てなかったのか。むしろ名残惜しむかのように寄り添い続けたのか。その理由がわかったような気がする。異端ではあっても、彼女もまた戦姫であったのだ。

さて、エレンを含む戦姫たちとの恋模様や、ジスタート王国の内紛を他国人であるティグルがどう収めることになるのか。どういう形で決着をつけることになるのかとやきもきしていたのだけれど、そうかー、そういう形で来たか。
王家の血筋を持たないどころか、自国の人間ですら無い者が王になる、というのは日本の超血統主義や絶対王政以降の欧州の王政を見てると違和感を感じるのですけれど、もっと古い時代となると決して不思議でも珍しいものでもないんですよね。王権というものがもっと緩いというか、ファジーな時代というものが確かにあり、この世界の時代はまだそのあたりだったのでしょう。
実際、ヨーロッパなんかでも二カ国の王を両者統合させないまま並列で統治する形で就任した例はけっこうあったと思うし、そもそもこのジスタート王国自体、内部に戦姫という血筋による継承ではない形で続く公国が7つも存在する国家だけに、不安定であると同時にそれだけ他国の人間が王位についても許されるような揺らぎを許容できる下地というか土台のある国であったんだなあ、と。
まあどう考えてもティグル、過労死レベルで働かないといけないわけですけれど。実際、エピローグでの超働きっぷりを見ると、大変だなあ、ですまないレベルで働きまくってますし。
とても、ハーレム楽しんでる余裕ないよなあ。嫁さんとなる人たちの殆どが、自分の領地やブリューヌ王国での実務でお忙しい、というのはティグルの体力的にもだいぶ助かる話なんじゃないだろうか。
その分、明らかに側仕えのリムが一番大勝利なんですけれど。まさか、ティッタも傍に侍れずブリューヌ詰めになるとは思ってなかったので、ほとんどリムが公私のパートナーみたいな形になってるし。まさか、正式に戦姫になってよ、と現れたバルグレンに、今忙しいので改めて、と振っちゃうとまでは思わなかったけれど。そりゃ、バルグレン正式に継承したら戦姫として領地も引き受けなきゃいけなくなって、ティグルの側近を辞さなきゃならなくなるだろうし、今宮廷内に味方の少ないティグルの傍をリムがハズレるの相当厳しいという理屈はわかるけれど、あそこまで見事に蹴っ飛ばすとは。実務面だけじゃなくて、嫁としても離れん!というその気概が素晴らしいというか、さすがリム先生である。
前にあった時よりもちょっと沢山話せましたー、とその程度のことでメッチャテンションあがりながら傍役の人に報告して満足してたエリザヴェータさまは、ちゃんとこのリム先生の姿勢とか見習えてるんだろうかw
他の戦姫がなんだかんだとみんな積極的に告白してきたなかで、もっぱらこの調子だったリーザさん。リーザさんところの筆頭家老であるナウムさんが、こっそりティグルにウチの姫さんなんとか貰ってやってくれよ、とお父さん役の人にここまで言わせてしまうアレっぷりが、なんかもう可愛いなあww
そう言えばティグル、女性陣に対してはみんなにちゃんと愛情を持って接してたのは間違いないことなのですけれど、こう「好き好きオーラ」っていうの? もう君たち大好きだなあ、的な気持ち全面に出してたのって……わりと男キャラ相手ばっかりだったような。
いやもちろん友情的な意味で、ではあるんですけれど。このナウムさん相手にしてもそうでしたし、男相手にしている時の方がわりと無邪気に楽しそうだったんですよねえ。ユージェン卿救出作戦の時の男所帯の旅のときとかえらいはしゃいでましたし、何気にルスラン王子との交流やアスヴァール王国のタラードとも、いつ背中を刺されるかわからない関係でありながら、そういう立場とか野心とか抜きにした個人個人の関係だとほんと仲いいですし。
もともと女っ気のない朴訥な性格なので、気遣いしなくていい男との付き合いは気の置けないものなんだろうかねえ、ティグルの場合。その御蔭か、これだけハーレム展開にも関わらず、立場抜きにした男友達が国関係無く広く沢山いる珍しい主人公になってましたねえ。
まあそんな朴訥な男が、これだけ嫁抱えることになるんだから、面白いものである。新しい「エザンディス」の継承者である新戦姫が、初お目見得の際に自分も戦姫になったからには王に抱かれないといけないのでしょうか、と真面目に訪ねてきたシーンは笑ってしまいましたが。そりゃ、現状の戦姫が全員王様の恋人だったら、戦姫になったら王と関係持たないといけないのか、と思っても仕方ないわなねえ。この娘は変に生真面目そうで、面白そうなキャラクターだけに短編なんかあったらみたいものですけれど。イラストの人が出した画集に、ちょっと短編ついているのかしら。そっちも読みたいなあ。

なかなか長期シリーズが出てこない中で、戦記物として18巻を数えた本作。弓を得物とする主人公、というのもまた珍しかったのですけれど、この弓の使い方の描写がまた図抜けて格好良くてねえ。弓矢という武具も、見せ方によってこれほど迫力と見栄えが出るものなのか、と興奮したものです。面白かった。そして、見事な完結でありました。ほんと、お疲れ様ですよ。
また、作者の新しいシリーズ、楽しみに待ちたいと思います。

シリーズ感想