バビロン 3 ―終― (講談社タイガ)

【バビロン 3.―終―】 野崎まど 講談社タイガ

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日本の“新域”で発令された、自死の権利を認める「自殺法」。
その静かな熱波は世界中に伝播した。新法に追随する都市が次々に出現し、自殺者が急増。揺れる米国で、各国首脳が生と死について語り合うG7が開催される!人類の命運を握る会議に忍び寄る“最悪の女”曲世の影。彼女の前に正崎が立ちはだかるとき、世界の終わりを告げる銃声が響く。超才が描く予測不可能な未来。
「終」って、そういう意味だったのか! そんな意味だったのか!!!
単にこのシリーズが終わるという意味での「終」であるとしか想像していなかっただけに、この巻がシリーズ完結ではない、と聞いたときは「?」が浮かぶばかりだったのですが、そういうことだったのか。振り返ってみると、このバビロンのサブタイトルはどれも一文字でありながら、強烈なほどにその巻において語られるべきすべてを集約した一文字になってるんですよね。

「―終―」

まさに、シリーズの行方を決するかのような一文字である。

そもそも、いきなり冒頭から舞台が日本ではなくアメリカ合衆国へと飛んでしまって、いったい何が始まったのかと面食らわされたところからグイグイと引っ張り込まれてたんですよね。
まず最初のサプライズ。「うぇ!?」と本気で混乱したそれは、まさに意表を突かれたという他ない驚きでした。
本巻の主人公は、アメリカ合衆国大統領。うん、これまで様々な媒体で様々な「プレジデント」を見てきましたが、この大統領はちょっと今まで見たことがない人だった。
そして何より、「凄い」人だった。アメリカの大統領がこんな人だとは、というよりも人類における政治媒体の指導者として、こういう人が選ばれたというのは途方もないことなんじゃないだろうか。
最強でも最高でもない大統領で、側近からも政治家として完全に失格、とまで言われる人であり、自他共認める凡人なのだけれど、ともかくこの人が指導者だというのは本当に凄い。この人が指導者として機能しているという時点で、アメリカという国家機構の凄まじさに敬服してしまう。これだけの人を国家元首として活かせるって、このヒトが国家元首として力を発揮できる人材とシステムがある、というのはちょっと憧れてしまうくらいに凄い。
でもなにより、この大統領が凄い。どうやったって、アメリカの大統領って東海岸の上流階級とかマッチョイズムの権化とかその方向なんだけれど、この大統領は既存の大統領像を根底から覆しているにも関わらず、非常にアメリカ的とも言える人物なんですよね。インテリジェンス、或いは思慮深さか。アメリカという大国における象徴ともいうべき「力」ではなく、フロンティアスピリッツという前に進む意思や性急さでもなく、成功を掴むアメリカンドリームという上昇志向でもなく……。
新しい国であるが故のしがらみの無さ。大きな国であるが故の懐の広さ。寛容さ。思慮深さ。最善を選択しようとする貪欲さ。そう、人は考える葦である、といったのはパスカルでしたか。最大にして最新の人造国家であるアメリカの頂点である大統領が、まさに考える葦である、というのは実になんというか、まさにアメリカの一面を体現しているようじゃないですか。
そして「考える人」と呼ばれる大統領は、一連の「自殺」が法的に権利として認められる世界的な流れに対して、まったく違う側面からアプローチすることによって、恐らく人類の中でも最も、今起こりつつ在るパラダイムシフトの本質へと近づいたはずなのである。
人としても、素晴らしい人だった。ほぼ闇落ちしかけていた正崎を人へと戻したのは間違いなくこの人の言葉であり思慮であり心である。どう考えても、この人が政治家であるということが信じられないくらいなんだけれど、この人を大統領に選んだ、というだけでこの世界におけるアメリカ合衆国は信じがたい奇跡を成した傑出した国家として人類史に語り継がれるだろう。
彼は、考える人は、人類文明の可能性そのものだった。

なぜだ!? 何を見た!? 何を知った? なぜ、そこに至ったんだ? わからないわからないわからない。その思慮の果てがその答えなのか? 人の可能性は、人間が人間である根源が、敗北したということなのか?
わからない。理由は、原因は、意味はあるはずなのだ。ただの理不尽なんかじゃない、確かな因果があるはずなのだ。
一つ一つ、紐解かれていく。なにが善くてで、なにが悪いか。その一つの定義があがった。だからこそ、蛇よ。バビロンの大淫婦よ。智慧の実の味を、その甘美さとは何なのかを、次でこそ語ってくれ。
でなければ、これほどの「悪」を許せるものか。終わって、たまるものかよ……。

野崎まど作品感想