図書迷宮 (MF文庫J)

【図書迷宮】 十字静/しらび MF文庫J

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足掻いてください、あなたが人間足りうるために。

あなたは思い出さなければなりません。心的外傷の奥に潜む父の仇を探し出し、奪われた名誉と失った魔法を取り戻すのです。吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)の少女、アルテリアと共に。そのために図書館都市を訪れ、ありとあらゆる本が存在する図書迷宮に足を踏み入れたのですから。あなたには一つの大きな障害があります。あなたの記憶は八時間しか保ちません。ですが、方法はあります。確かにあるのです。
足掻いてください、あなたが人間足りうるために。全ての記憶を取り返すために。
第十回MF文庫Jライトノベル新人賞、三次選考通過の問題作、ここに刊行―――。

二人称小説!!? いや、まさかまさかの二人称小説ですよ。自分も数作しか読んだことがない。そもそも滅多にお目にかかれない形式である。
二人称小説って、なかなか読みにくい代物なんですが、いや本作に関しては全く読みづらさを感じなかったですね。この辺のバランス感非常に難しかったと思うのですけれど、よくぞまあ仕上げたなあ、と。後半の叙述トリック満載の展開も合わせて、書く側の難易度本当に凄まじかったんじゃないだろうか、これ。それでいながら、読み手の方には殆ど難解という不可を掛けない構造や書き方になってるんですよね、これは正直凄いと言わざるをえない。絶妙のバランス感覚ですよ。よっぽど微細な調整を繰り返さないと、なかなかこの綱渡りなラインに載せることは難しい。
本作って、第十回の新人賞の投稿作品ということで、現在第十四回の投稿が募集されているのを鑑みると、三年近く改稿を繰り返していたそうなんですよね。それだけ根気よく完成品へと辿り着いた作者も然ることながら、編集部もよく粘り強く付き合ったものです。それだけ作品を見込んだ、というのもあるんでしょうけれど、昨今の作っては投げ作っては投げ、という出版事情を思えば、この編集部の姿勢は嬉しい限りですよ、ほんと。
それにしても、目次のあの記憶喪失まで※※ページ、という表記には面食らうと同時に引っ張り込まれたものですけれど、初っ端からのつかみとしては強烈な代物でしたし、その事情が明らかになっての緊迫感もぎゅと引き締まるもので、最初のアルテリアを背負って逃げる主人公の見開き挿絵からして物語の開幕としては素晴らしいもので、この段階的に事実や謎が明らかになるだけではなくて、読み手側の感情の盛り上げ方も計算しつくされたような作り方には感嘆しきりでした。
完成度の高い作品によくある忙しなさ、ある種の物語としての「一拍の間」。余裕がないのも確かなんですけれど、あと一匙キャラクター間の関係の醸成が進んでたら完璧に近かったんだけどなあ、という些細なところに思いをはせてしまうのは、それだけ良い作品だったからこそあとちょっと、もうちょっとという欲が出てきてしまうからなんでしょうね。
聖堂についても、明確にぶん殴れる相手として出てこなかった分、黒幕をぶん殴ってすっきりするカタルシスが得られにくかった、という点もちともったいなかったなあ、という気分ではあるんですけれど、そこを押しのけても純粋な二人のラブストーリーとして遂げたかったのもわかるだけに、これは仕方ないか。
続きが出るなら、これだけかっちりと設定や世界観、キャラの土台を固めただけに、あとはもっと自由に動かせるんじゃないだろうか、という期待も湧き上がってくる。怒涛の展開に急き立てられるのではなく、ここで立ったキャラクターたちが自分で考え歩き道なき道を切り開いていく展開を。自身の奥へと掘り下げていく物語を。可能性が溢れかえってて、実に楽しみである。