ロード・エルメロイII世の事件簿 2 「case.双貌塔イゼルマ(上)」 (TYPE-MOON BOOKS)

【ロード・エルメロイII世の事件簿 2.case.双貌塔イゼルマ(上)】 三田誠/坂本みねぢ TYPE-MOON BOOKS

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双貌塔イゼルマに住まう、双子の姫。至高の美を持つとされる黄金姫・白銀姫のお披露目に、エルメロイII世の義妹であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテも参加することとなった。時計塔の社交会となれば派閥抗争もありえると、ボディガードとしてグレイを連れて行ったライネスだが、そこで起こった事件は彼女の想像をも超えていた。三大貴族。冠位(グランド)の魔術師。ロード・エルメロイII世は、『時計塔』に巣くう闇をいかにひもとくか。魔術と美、幻想と陰謀とが交錯する『ロード・エルメロイII世の事件簿』、第二幕開演。
蒼崎橙子だぁ!! この人、ほんと型月作品に関しては最多出場してるんじゃないだろうか。直接登場しなくても、存在を示唆するようなセリフや描写はありますしね。そう言えば、Apocryphaで獅子劫さんが吸ってた煙草、最後モードレッドと一緒に吸ってたあれも、橙子さんからの貰い物じゃなかったっけか。空の境界で橙子さんが吸ってたのと同じ銘柄だったような。
いや、それはそれとして封印して解除されたの!? なんかしら正史では裏だか表だかわからないけれど進行してるなあ。それに、月姫世界と同じく、やっぱり妹の口座に勝手にツケてるのね。そりゃ青子先生怒るよ。
この橙子さん、エルメロイとは多大な因縁があって、というか先代ロード・エルメロイが聖杯戦争で切嗣に魔術回路ずたずたにされて再起不能になりかけたとき、橙子さんの人形技術、というかもうここまで来ると義体化技術だよね。その御蔭でなんとか動けるようになった、という経緯があって、エルメロイ派は顧客であったという縁があったわけだけれど、まあだからといってそれだけでまたぞろサービスしてくれるほど、橙子さんという人は甘い人ではないわけで……。いや、空の境界では結構いい人だったんだけどなあ。本作では実に魔術師らしい闇属性、どちらかというと「魔法使いの夜」寄りのシャープエッジな橙子さんという感じで、実にヤバげ。
普通、というと語弊があるけれど、ライネスくらいの優秀な魔術師から見ても蒼崎橙子ってそんなヤバイ魔術師なのか。冠位(グランド)というと、昨今流行りのFGOでも特別な階位であるのだけれど、魔術界としても冠位(グランド)の階位の魔術師、封印指定を食らうほどの魔術師、というのは異常極まりないって事なんでしょうねえ。まあ橙子さんはどの作品に出ても確かにあからさまなくらいヤバくて特別な魔術師、という存在感は一切ブレない凄い人なのだけれど。
それが今回はあっち側、というのはちょっと気が遠くなりそうな案件なんですけど、そうするのよロード・エルメロイ二世。

ともあれ、本作シリーズ第二作目は、語り部が前回のグレイから変わって、エルメロイII世の義妹であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテが務めることになる。
彼女こそ、ウェイバー・ベルベットをエルメロイII世へと仕立て上げた黒幕であり、エルメロイII世の首根っこを押さえている繰り手なのだと、そう思っていたんだけれど。
うん、もうちょっとこう、裏でふんぞり返ったままエルメロイII世の苦闘を舌なめずりしながら鑑賞して楽しんでいる、というタイプの人だと思ってたんですよね。ただ、全てを見透かすように見下ろしているフィクサーであって、本編にあんまり絡んでくるようなキャラじゃないんだと。
ところがどうしてどうして。
いやうん、ドS傾向のある娘だし、エルメロイII世に無理難題押し付けて虐めたり弄ったりするのが好き、というアレな趣味のお嬢さんだけれど、なんかもしかして…ライネス嬢って普通にお義兄ちゃんのこと大好きなんじゃね?
没落したエルメロイを、分家の出でありながら当主として立て直しにかかり、ロード・エルメロイ二世の擁立というアクロバットまでやってのけて復旧を図っているその手腕といい、それこそ魔術師としての腕はともかく、政治家としても謀略家としても貴族の当主としても飛び抜けた逸材なのかと思ってたんだけれど、今回の事件における素直過ぎる立ち回りと、罠にても足も出ずに絡め取られてしまった様子なんか見ていると、ルヴィアなんかと比べても、年齢にしては優秀なんだろうけれど決して「異常」とは程遠い、普通の才女なんですよねえ。
でも、その普通の才女が今立て直しているエルメロイの復旧具合はやっぱり図抜けていて、それだけこの娘頑張ってたんだろうなあ、というのが何となく透けて見えてきて、ぐっと来てしまったんですよ。こういう、才能だけでは及ばない領域にまで手を伸ばして頑張っている、というのはそれこそエルメロイII世にももろに被るわけで、彼が何だかんだとこのイジメっ子な義妹のことを親身になって気にかけている理由も何となくわかってくるんですよねえ。
そりゃあ、友達いないだろう、と指摘したら普通に動揺する娘にそんな害意とかモテナイよなあ、彼では。
そしてライナス嬢の方も、完全に詰められて絶体絶命どころか投了を宣言せざるを得なくなるほど追い詰められた時に、颯爽と自分を助けるために現れてくれるというあのタイミングを前にして、あの否定否定否定の折り返しは自分に言い聞かせているようにしか見えなくて、つまるところめっちゃトキメイてるじゃないか、妹様よ!!
大好きかよ!!

冤罪の犯人が確定させられそうになった瞬間に、探偵役が颯爽と現れて待ったをかける、というのはミステリーの王道ではあるのですけれど、こんな格好いい王子様みたいな登場のされ方をされたら、そりゃあクラッと来るのもすごくわかるんですけどね。探偵登場シーンの王道とはいえ、ここまで決まったシーンの演出になるのは早々ないことでしょうし。
実際はめっさ走ってきてようやく辿り着いた、というのはやはりさすがウェイバーくん、というところなんでしょうけれど。
一巻と違って、今回の事件は上下巻構成。殺人事件の犯人はいったい誰で、いや魔術師が絡む事件では誰がとかどうやって、とかは意味がないんだっけか。そもそも、蒼崎橙子がここにいる時点で死体が果たして本物かどうかから疑わざるを得ませんもんね。なにしろ、本人と寸分たがわぬ本物でしかない偽物を拵える封印指定(元)の人形師ですし。
そもそも、この事件はなぜ起こったのか。見事に盛り上げてくるなあ。引き続き、次巻へ!

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