なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。 (ビーズログ文庫)

【なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。】 汐邑 雛/武村 ゆみこ ビーズログ文庫

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転生幼妻、夫の胃袋より先に――真相つかんじゃいました!?

夫ナディルの遠征中、アルティリエの侍女リリアが攫われた!
一連の事件の鍵を握る人物からの呼び出しだと悟ったアルティリエは、自作の菓子と【夫の手紙】をお守りに「絶対出るな」と言われた王太子宮を抜け出すことに。
そんな彼女の前に現れた驚きの人物とは……!?
アルティリエ出生の秘密も明らかに!?
元お菓子職人(パティシエール)転生幼妻の餌付け計画第一章クライマックス!
これ、改めて見ても凄まじいまでの血の継承の因縁なんですよね。ただし、そこに人の意思、願い、情念が絡むことによって加速度的に闇が深くなっていく。アルティリエを苦しめ追い詰めていたものの正体は暗い情念を結晶化したような代物で、それはもう歪んだ狂気の産物のようにも見えるし実際その通りなんだろうけれど、それを形作ってしまったのはそれこそ連綿と続いてきたこの国を維持するシステムであり、王家の人間―王族というものはそれを構成する歯車に過ぎず、そこに公はあっても私は無いとばかりにどうやったって逆らえないものがあった、という冷厳とした現実があったわけですよ。
えげつない以外の何者でもないのだけれど、同時にソレは国家を安定させ平和を維持してきたシステムでもあるんですよね。それを無視する、壊す、破壊するというのは国そのものを崩壊させ、動乱をもたらし、平和を破壊することそのものでもあるということになってしまう。
それでも、人は歯車であり続けるにはあまりに人すぎて、想い抱く生き物すぎて、そこに破綻が生じてしまう。歪みをもたらしてしまう。
なぜここで生きるのか。
生まれ変わり、アルティリエとして再誕した「彼女」が常に自分に問い続けている命題であると同時に、システムの歯車として組み込まれながらもそこに逆らおうとし、同時に義務を果たそうとする矛盾の苦しみの中から問いかけてくるその命題の重さたるや。
愛とは、なんたるや。
形骸と化した中にも残るものを、アルティリエは掬い上げる、その一点を以って彼女はまさに傑物なんだよなあ。そのままでは失われ行くはずだったものに、温もりをもたらす。それは、呪いを解くのと殆ど同じ意味だったんじゃないだろうか。お茶の温かさとお菓子の甘さ。ほんのひと時のお茶会が、真相の暴露と或いは弾劾になろうかという場を、一つの家族のうちの話へと落とし込んだという意味でもなおさらに。
いやもう、秘密が明らかになっていくにつれて、すべての辻褄と因縁と伏線が繋がっていく上に、呪詛めいた王家の在り方と、アルティリエという少女がどれほど重要であるか、の真実が見事にこれ以上無くわかりやすく詳らかにされていく展開は、ちょっと背筋が寒くなるほどでした。これほど宮廷の闇、血の継承の闇を色濃く導き出す話だったとは、サイド読み直しても来るものがあります。
アルティリエが、王太子ナディルすらよりも換えの聞かない最重要の存在である、というのは比喩でもなんでもない、ただの事実だったのか。
そんな途方もない真実を真っ向から受け止め、ナディル王子の王妃として、彼の妻として、家族として、守護者としてやっていく決意をまるっと固めたアルティリエ。幼女にして、実にこう、肝っ玉かあさんの貫禄すら伺えるのでありました。頼もしいったらありゃしない。

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