うちの聖女さまは腹黒すぎだろ。 (電撃文庫)

【うちの聖女さまは腹黒すぎだろ。】 上野遊/りいちゅ 電撃文庫

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落ちこぼれ騎士志望のカイが採用されたのは、辺境の国ブラウファルト聖王国。代々清らかなる聖女が治めるこの地で、「聖女様の騎士になれる!」と心踊るカイ。しかしそこで待ち受けていたのは、見た目は天使、中身は悪魔な「ブラック聖女」のフローラ姫だった!? 
「お前の仕事は金儲けだ。余の小遣いを稼げ!」
フローラの命令で金策に走るカイだが、特産品を作るため飛竜を狩って牙を取れだとか、温泉を探して観光地を作れだとか、無茶振りの嵐。姫様ラブなメイドのリーリエも厄介で、果たしてカイは念願の騎士になれるのか!? ブラック聖女と半熟騎士の、おしごと(!?)ファンタジー開幕!
いやいやいや、全然腹黒じゃないと思うんよ、この聖女さま。腹黒って、こう根が黒いというか素が黒い、腹の底で何を考えてるかわからない、常に何か企んでる、というオモテウラの使い分けが上手い人、本音を器用に繕える人というイメージであって、このフローラ姫はむしろ逆なんですよね。
公式用に聖女らしい清楚で優しい仮面被っているのはTPO的に当然として、身近な人間にあれだけあからさまに態度悪いの見せちゃってるのは、単に対人スキルが不器用すぎるだけで腹黒とは言い難いんですよね。先生には外面良いけど、好きな子に偉そうに突っかかるしか出来ない小学生のガキンチョを腹黒とは言わないのと同じように。ってか、フローラ姫、根の方が黒いどころか真っ白すぎて、むしろ腹白なんですよ。リアル聖女様かよ!というレベルの善い子ちゃんなのである。わかってしまうと、ブラックな無茶振りも子供かというような拙い言い訳というか繕い方で、言ってることを裏返しにしたらそのまま本当は何を言いたいのかわかってしまうような代物で、この子謀略能力とか政治的な言い回しとか全然ないんじゃなかろうか、というくらいに。
この娘の辛いところは、それだけ善人でありながら現実に夢を見ることの出来ないリアリストでもあり、しかしその如何ともしがたい現実をどうにか出来るような大宰相としての見識も君主としての辣腕も、そもそも実権からして持っていなくて、その現状と自分の能力についても正しく認識してしまっている、というところなんでしょうなあ。彼女は正しく聖女以上でも以下でもないわけだ。
しかし、それでもなお殆ど立憲君主制となっている国家の君主でありながら、お飾りに甘んじることなく国をよくしようと出来ることを必死に探し続ける責任感。本人は決してアピールが上手いとはいえないどころか、下手くそ極まるのだけれど同時に繕うのも相当下手っぽいので、傍から見てたらそりゃもう彼女がどれだけ頑張ってるのか、というのはあからさまなくらいにわかってしまうだけに、国内の人気というのは高いんでしょうね。それも、国政に関わっている人の方が彼女の聖女としてのガワではない彼女自身の魅力を見る機会も多いのでしょう。
それこそ、現実に即していない夢と希望を胸にいだいて、この聖女さまの下に就職してしまったカイもまた、ドストライクに彼女の聖女っぷりにやられてしまったわけだ。
どれほど熱望しようとも、つまるところふわっとした夢でしかなかった「騎士になりたい」という願い。現実を見れば、物語みたいな騎士なんて平和になった世の中では必要とされず、もし居たとしてもやること仕事と言ったら、剣を振るって悪い魔物と戦いお姫様を護る、なんてわかりやすいものではなく、まあ国それぞれの騎士の用い方にも寄るのだろうけれど、フローラ姫の国ではやることと言えば姫様の雑用係、良いように言うなら執事役。
でも、二進も三進もいかない枯れた国情の中でもフローラ姫が聖女を全うしていたように、どんな仕事内容でも、そこに思い描いていた騎士の在り方を形は違えど体現できる。そも、騎士とはなんぞや。なりたかった騎士とはなんぞや。ふわっとして実体を得なかったそれを、こうして確固たるものとして見出したのだから、カイくんは自分のなりたいものに見事になれたのでしょう。現実に即した形で。それも、妥協ではなくより充溢した産物として。羨ましいことです。ってか、なんだかんだと飛び込み採用の新入社員で姫様、ってか事実上の女王陛下の最側近になれたとか、どれだけ小国でも大成功でしょうに。いや、収入と業務内容は釣り合ってないぽいけれど。でも、もう政略結婚とか関係無さそうな時代に、年頃の姫様の一番身近な男性としてお近づきになれた、というだけで諸々取り返しがつきそうじゃないですか。
それはそれとして、最後の大事件。あれ国際的にけっこう責任問われそうな気もするんだけれど。自分たちで解決できたとはいえ、世界の危機を誘発してしまったわけですし。先々、大変そうだなあ。

上野遊作品感想