ポンコツ勇者の下剋上 (MF文庫J)

【ポンコツ勇者の下剋上】 藤川 恵蔵/ぐれーともす MF文庫J

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勇者の素養がない少年が、神剣を勇者に届けるだけで英雄に!?

王立士官学校の卒業を間近に控えたクロウ。ある日彼は、選ばれし勇者にしか扱えない神剣――聖光剣エクスキャリバーの声を聞いてしまう! 声の主である聖光剣の精霊・ホリーが言うには、世界を滅ぼす魔王が復活するため、一刻も早く勇者を探して聖光剣を渡さないといけないらしい。クロウは、剣を勇者に届けるというお手軽なお使いだけで世界を救う立役者になれるならと快諾し、勇者を探す旅に出た。ところが問題児のクロウと、性格がハチャメチャなホリーの2人で旅は前途多難! さらに見つけた勇者は、なんと奴隷の幼女で――!? 一体どうやって連れて帰ろう……? 〈あの子の主を、私を使ってぶった切れば良いんじゃないですか?〉「良くねえよ!」
頑張ったなあ! いやこれ、あらすじだと軽い気持ちで神剣の運び屋請け負ったみたいな書き方されているけれど、王家に保管されている神剣を盗み出して、いまいちあてにならない剣の精霊の対勇者レーダーしか頼りがない状態でどこにいるかわからない勇者を探しに行く、というミッションがただ事で済むはずがないと最初から承知していないはずがなく、なんだかんだこのクロウ、相当の覚悟を持って挑んでるんですよね。勇者になれない自分でも、出来ることがあるんじゃないか、と。怠惰で無能で事なかれ主義の彼がこれだけの事をしでかしたのは、身の程を越えた野心でも出世欲でもなく、ただただ魔王が出現して世界が破滅する、という危機感であり、それを知っているのが自分だけという孤立無援の状況であったわけで……いや、それでもなかなかこれだけの事は仕出かせないですよ。下手をすれば、どころか間違いなく神剣を盗み出したカドで処刑されるだろう事を理解しながら。これで自分に自信を持っている人間ならまだしも、彼は自分の無力さ無能さを痛感した上で受け入れている人間である。語りかけてくる剣の精霊は、まあろくでもないことしか言わない糞ビッチで罵倒混じりの放言はやる気をゴリゴリ削ってくるものばかり。
数少ない親しかった人たちも含めて周りの人間、世界そのものが彼を糾弾し、彼に真実を告げた神剣の精霊はろくでなし。世界の危機を知ってしまった自分は筋金入りの能無し。これで、一人で頑張って、勇者の女の子を見つけて、奴隷身分で鬼畜外道に身請けされてしまったのを救い出し、無事王都まで連れて帰る、という偉業を無い能力と機転を振り絞ってやり遂げたんだから、頑張った、本当に頑張ったよ。しかも、見返りを求めず、本当の意味で世界の危機を救うために。
これが、最初から無私無欲の聖人君子みたいなやつだったらそんなもんか、と思うところだけれど、彼はもっと俗人であり、やる気に欠ける面倒くさがりの人間であり、楽して生きていければいいやという男であったのである。そんな、彼なりの人生観を、生き様を、在り方を、信念を投げ捨てて、多くの人に罵られ責め立てられながら、ただ自分でもやれることがあるんだ、というささやかな満足感と引き換えに、そして本気で世界を守るために、頑張ったのである。
こういう、頑張る子は本当に好き。一人で暴走するんじゃなくて、一人で頑張るしかなかった状況で、逃げ出さず投げ出さず、自分の責任を自分で決め、それを成し遂げる姿は、本当に格好いいと思う。神剣精霊は、ぶっちゃけクズだと思うけれど、イケメン勇者じゃなくクロウの頑張りに惚れたのは、見る目がないわけじゃないんだなあ、と。
しかし、このクロウくん。決断の思い切りの良さといい人間観察力といい判断の速さや機転の利かせ方とか、戦う力云々でいうと確かに最下層なのかもしれないけれど、もっと大雑把に「仕事」という括りでならめちゃくちゃ有能なタイプだよなあ。
むしろ、彼がまだ幼く分別のない勇者ちゃんの守り役になったの、多くの人にとって幸いなんじゃないだろうか。いわゆる政治感覚や交渉、組織間のパワーゲームに関する知識や感覚についてもかなりのものがありそうだし。