幼女戦記 3 The Finest Hour

【幼女戦記 3.The Finest Hour】 カルロ・ゼン/篠月しのぶ エンターブレイン

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戦場の霧を見通すは、幼女(バケモノ)ただ一人。

金髪、碧眼の幼い少女という外見とは裏腹に、『死神』『悪魔』と忌避される、帝国軍の誇る魔導大隊指揮官、ターニャ・デグレチャフ魔導少佐。
戦場の霧が漂い、摩擦に悩まされる帝国軍にあって自己保身の意思とは裏腹に陸、海、空でターニャの部隊は快進撃を続ける。
時を同じくして帝国軍は諸列強の手を跳ね除け、ついに望んだ勝利の栄冠を戴く。
勝利の美酒で栄光と誉れに酔いしれる帝国軍将兵らの中にあって、ターニャだけはしかし、恐怖に立ち止まる。
これは決定的勝利か、はたまたピュロスの勝利か。
――帝国は本当に全てを掴んだのか?と。
この回転ドア作戦は本当に見事。美しいとすら言える戦争芸術そのもので、これは人類戦史に燦然と輝く作戦になるのでしょう。
シュリーフェン・プランが完全に成功していたら、こうなってたのか。
まあその肝が、ロケット兵器による特攻紛い、というのが相当に博打も博打なんですけど。いやもうこれ、そこ以外は精緻な戦争計画に基づいた作戦なんだろうけど、この司令部強襲作戦、ちょっと一か八かすぎやしませんか!? ターニャが若干狂乱してたのも無理ないっすよ。頭おかしいもん。せめて実機の実働実験はしとかないと、フライト中に爆死! となっても全然不思議ではなく、そんな危険性を孕んだ作戦を、この戦争の行方を決めるであろう大作戦の肝に据えているという時点で相当アレである。エレニウム九五式の開発のときもそうだけれど、帝国って全体的に自国の開発する技術に対する信頼が、安全マージンという概念が存在しなんじゃないか、というくらいには狂的に存在している気がするぞ。V-1がまともに動くのか、少しでも不安を抱いてたらこんな作戦ゼートゥーア少将みたいな慎重な後方参謀がゴーサイン出せるとも思えないし。機械は壊れないもの、という信仰でも存在するんだろうか。或いは、やっぱり時代が加速度的に進展しているお陰で、機械の信頼性という概念自体あんまり定着していないのではないか、と思ってしまう。
世界大戦や総力戦というターニャが提唱した概念を、結局ゼートゥーアやレルゲンも感覚的にしか把握しきれず、この決定的な場面において旧時代の感性に身を任せてしまったことからも、時代の進展に肝心の人間たちが追いつけていないことが窺い知れるだけになおさらに。
おおよそ、時代の最先端を走っているであろう彼らをしてこれである。時代を切り開いていくのは人間ではなく、むしろ激流のように過去を押し流しミライへと突進していく時代を人間は後から必死に追いかけているだけで、自分たちが居る世界の有り様を渦中の人たちこそ全く把握しきれていないものなんじゃないだろうか。これは、作中の話だけではなく人類史の通史的にそうであり、まさに現代にも通じる話のように思う。今を生きる我々は、我々こそ今の時代の常に変容し未来へと流れていっている有り様に、ついていけてないし、全く把握しきれていない気がする。その一部でも鑑みれるようになるのは、果たして二十年後か半世紀後か、はたまた百年後か。数百年前の歴史ですら刻々とその見解が変わっていくのを見ると、果たして人類が歴史に太刀打ちできる存在なのか疑わしくなってくる。
ターニャ・デグレチャフ魔導少佐こそ、この時もっともそれを痛感していた一人なのかもしれない。神を憎み神を下して人類の世界を成り立たせようとしてる彼女にとって、この時代そのものの激流への抗いがたさはなんとも腹立たしいものだろう。もっとも、彼女の敵である存在Xたちですら、一石を投じるくらいの影響しか及ぼせずに無力を晒しているようにも見えるのだけれど。それも、随分と的はずれな一石ばかりを。まったくもって、旧世界の置き去りにされた存在である。もっとも、そんな存在であるからこそ、投じた一石が迷惑千万なことにもなるのだけれど。
ともあれ、自分が及ぼせる影響範囲にもどかしさを感じているだろうターニャ少佐だけれど、それでも未だ旺盛な出世欲が、自分が全部動かしてやる、という独裁的な野心に発展することなく、通常の組織内でのそれにとどまっているのは、らしいというかなんというか。
周りの評価も相当混沌と化してきてますしねえ。怪物や不良軍人扱いされたりする一方で、理想的な模範的軍人として評価されたりもして、直接相対する人たちの評価も千差万別。そのどれもが、ターニャ・デグレチャフの内面を言い当てているとはイイ難いのですが、一方で彼女の内面に対して彼女が実際に成している業績や実情が見事にすれ違っているのも確かな話で、ぶっちゃけターニャが何考えていようと結果がすべてと見るならば、やっぱり彼女優秀で理想的な軍人で英雄なんだよなあ。
北アフリカ戦線へと投入された彼女の、あの戦術レベルで戦略的に詰みへと至っていた戦況をひっくり返してしまった展開なんぞ、痛快の一言でしたし。ロンメル将軍相当の、あの砂漠狐さんはあれ、ターニャの使い方凄くうまいですよね。いや、放し飼いにしてるだけ、と言ったらそれまでなんだけれど、あれを放し飼いで自由にやらせる。放置じゃなくて、命令として自由にやれ任せる、と言えるのは性格的にアレなところが多分にあるとはいえ、やっぱり将器よなあ。
戦況は、海を隔てた大国すらまだ参戦していない状況なのですけれど、既に泥沼に足を突っ込んでしまってそれを抜いて脱出する機会を永遠に失ってしまったことは痛感させられてる展開なので、いやあどんどん酷いことになってくんでしょうなあ、楽しみ。

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