村人Aと帝国第七特殊連隊<ドラゴンパピー> 1.ヒュドラ殺し (オーバーラップ文庫)

【村人Aと帝国第七特殊連隊<ドラゴンパピー> 1.ヒュドラ殺し】 二村ケイト/葵藍兎 オーバーラップ文庫

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Kindle B☆W

【テンセイ者】が変革をもたらし、凡人の村人が銃で魔物を討伐するセカイ。
"最弱"の兵士・アヤセは、部隊の小隊長として日々を過ごしていた。
吸血鬼の討伐戦で『衛生兵(クレリック)』の少女・レミと出会ったアヤセは、見事吸血鬼討伐を果たす。
《怪物》ヒュドラ出現の報を受け、アヤセは帝国第七特殊連隊――通称『ドラゴンパピー』の編成を命じられ……!?
"勇者"カエデ、"衛生兵"レミ……アヤセはとるにたらない仲間と共に、セカイの平和を目指す。
非英雄による英雄譚。『村人A』が『怪物A』を倒す。これは、そういうファンタジーだ。
む、おお、ふおお!? 
おもしろい、面白いぞ!! いやもう、なんちゅうかこれ、すっごい面白いんじゃないですか?

本作って、ファンタジー世界なんだけれど中世を通り越してもう近現代へと差し掛かっている時代背景なんですよね。そんでもって、「テンセイ」者なる異界からの来訪者たちのもたらした様々な概念によって社会構造改革が成されようとした矢先に、そのテンセイ者たちが全員煙のように消え失せてしまって、残された元の世界のものたちは彼らが遺した概念や社会システムを手探りながら世界に組み込もうとしている時代。かつて、少数の英雄たちがパーティーを組んで魔物たちと戦っていた時代は終わりを告げ、何の力もない村人Aたちが銃を手に取り、近代軍制によって新たに構築された「帝国軍」を編成し、伝説の魔物たちに戦いを挑む物語。
何気にこれ、思いっきりミリタリー方面に振り切ってる、一兵士たちの戦争ものなのである。アヤセが率いるドラゴンパピー隊も十人構成の小隊編成ではあるけれど、彼ら十人だけが戦うなんて場面はなく、戦場のおいて数百、数千規模のモンスター相手にこちらも大隊規模以上の兵士たちがドンパチやるさなかを、彼らも一兵士として駆けずり回ることになる。
それはさながらオマハビーチの「プライベートライアン」であり、ソマリアの市街を敵兵に囲まれたまま抗い続ける「ブラックホークダウン」さながらの、一兵士の視点から描かれた迫真にして大迫力の戦争映画の光景だ。
英雄たちの時代が終わりを告げた後の、一兵士たちの英雄譚。それは主要メンバー構成にも如実に現れていて、メインとなる三人。同じ小隊のメンバーとして戦うアヤセとレミとカエデ。士官学校で同期であるアヤセとカエデは、時代が時代ならただの村人であり片割れは勇者と呼ばれたであろう人間で、レミに至っては戦場とは縁がなかったであろう貴族のご令嬢さまだ。それが三人共特別でもなんでもない一兵士として肩を並べて戦友として戦っている。一緒にドロに塗れ、地べたを這いずり、敵の弾を掻い潜りながら、怒鳴り合い、罵り合い、励まし合いながら一緒に戦うのだ。
アヤセにも、レミにも、カエデにも、それぞれに生まれや立場、境遇から生まれる大きなコンプレックスを抱えて生きてきた人間であり、それが図らずもこの時代に誕生した、出自や天禀に左右されない機会均等の社会システムの一つであるこの近代軍制度によって、村人・勇者・貴族という立場に左右されない出会いを得て、同じ舞台で戦う機会を得て、それぞれの中にある考え方や想いを通じ合わせる縁を得て、コンプレックスに押しつぶされずに支え合える関係を手にしたのである。それは、新しい時代ゆえの新しい関係。様々な立場や出自や能力を持った者たちが、一致団結して、かつては特別な力を持った特別な人間の力や犠牲を持ってしかなせなかった、伝説の怪物と真っ向から戦って、これを倒せる時代。
村人ひとりひとりが、自分の国や街や村や、世界や大切な人を守れる時代の黎明期。名も無き兵士たちの、尊い日常と戦場の物語である。
金賞作品? そりゃもう、大いに納得だわさ!