終末の魔女ですけどお兄ちゃんに二回も恋をするのはおかしいですか? (ダッシュエックス文庫)

【終末の魔女ですけどお兄ちゃんに二回も恋をするのはおかしいですか?】 妹尾 尻尾/呉 マサヒロ ダッシュエックス文庫

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魔力枯渇の禁断症状。それは――。
「大きくなったら、私をお嫁さんにしてね、昴(すばる)お兄ちゃん」
 昴は人類最強の歩兵としてかつて従軍していたが、いろいろあって今はふつうの男子高校生。 ある日、四女・紅葉(もみじ)が魔力が枯渇(こかつ)して禁断症状――【欲情】が出た状態で昴のもとへ降ってきた。 魔力の供給方法は、供給源の昴との肌と肌での肉体接触…というか、撫でたり揉んだり摘(つ)まんだりすることで…。
 「これは医療行為、これは医療行為、これは医療……」
 あの日交わした妹との“約束”を果たすため、人類の敵と己の理性に力の限り立ち向かう! 限界ぎりぎりエロティックアクション! 第5回集英社ライトノベル新人賞《特別賞》受賞作!!
これ、お兄ちゃん完全にPTSD患ってたんじゃないですか。いろいろあって今はふつうの男子高校生、って普通の生活に戻れただけでもまだ幸い、という状態なんですよね。むしろ、ここまでよく復帰できたな、というくらいで。
単にヘタレたとか心が弱くて逃げた、という程度なら妹たちを放り捨てて、と言われても仕方無いかもしれないけれど、あの状態だと殆ど廃人に近い有り様だったわけですからねえ。
それよりも、仮にも義兄である彼の状態がまったく妹たちに伝わってないという時点で魔女の家系の扱いの酷さが窺い知れるのである。まともに人間扱いされてないんだもんなあ。
終末の魔女、なんてタイトルで大切な妹が人類の敵になってしまい、妹のために世界を敵に回すかいなか、みたいな悲恋めいた話かと思ったら、実態はもっとグロテスクで人間の悪意がこれでもかと敷き詰められた地獄への一本道、みたいな話でしたからね。仮にも人類の存続を脅かすような異次元からの侵略者に唯一対抗できる魔女の家系のものたちが、完全に実験動物扱いですもんね。それも、平気で実験で使い潰されるような、人権どころか人格すら認められていないような。いや、さすがに公的にも色々と隔意がある扱いをされているとはいえ、ここまで人倫無視しまくってるのはあの頭のおかしい快楽殺人者の上司が原因なんだろうけれど、それでも彼の行動が人類存続の利益として認められているという時点で十分イカレた世界である。十分、敵に回していっそ滅ぼしてしまえ、と思えるほどには。
ここまで胸糞悪い徹底した醜悪にして邪悪な悪役、というのも珍しい。
これで公安が味方にまわってサポートしてくれるという展開がなかったら、さすがに絶望感振り切ってたでしょう。孤立無援、世界から見捨てられたという想いほど後先をなくしてしまうものはないですからなあ。たとえ、世界に唯一二人きり、という相思相愛の想いがあったとしても。
記憶が失われても、なお魂が求め辿り着いた義兄のもと。彼が見てくれているのは記憶を失う前の妹である自分だとしても、今彼を愛したのは過去を持たないただの女である自分である。
愛するが故の葛藤。記憶が戻ることで今の自分が喪われることへの恐怖。今抱いている愛情が、なかったことにされることへの絶望。或いは、それは世界から憎み疎まれ滅ぼされようとしている現状に対する絶望よりも深く痛い恐れであったのかもしれない。
自分を見て。今の、この自分を見て。そんな焦がれる少女の必死さと、大切な妹を今度は絶対に守るのだという兄の決意との僅かな齟齬。もうちょっとそのへん、掘り下げて描かれるのを見てみたかった気もする。
何気に界獣の設定とか、作者の別レーベルでのもう一つのシリーズと若干似てるところがあるなあ、と思ってたらまさかまさかの展開で、あっちとこっち、リンクしはじめた!?