Eクラス冒険者は果てなき騎士の夢を見る 「先生、ステータス画面が読めないんだけど」 (ファミ通文庫)

【"Eクラス冒険者は果てなき騎士の夢を見る 「先生、ステータス画面が読めないんだけど」】 夏柘楽緒/森沢 晴行 ファミ通文庫

Amazon
Kindle B☆W

"ステータス"――それは神が与えし才能を示す唯一の指標である。この世界ではそれが人生のあらゆる場面で重視され、一生つきまとう。騎士団に入ることを夢見る青年ライは、認識できないステータスを持つことでまともな職にも就けず、万年Eクラスの冒険者に甘んじていた。しかし、その剣筋は並の冒険者には視認できないほど疾く、"魔の森"屈指の魔物をも瞬殺する実力を持っていて――。 定められた運命に抗う、最低クラス冒険者の英雄ファンタジー、開幕!


ステータスに記されたスキルという名の才能によって、ほぼ将来が決定してしまう。社会的にも評価基準がステータス表記に基づいていて、それから外れると社会的にドロップアウトしたのと同然になる。というのは、まあこの手のファンタジーでは見る設定なんだけれど、何気に近未来SFのデストピア社会的なものを想起させるのは面白いなあ。尤も、モデルとなる中世世界の職業や身分がガッチリと固定されて自由のない社会に比べるとむしろ才能に基づいて仕事につけたり、わりと職業選択もガチガチではなくて、スキルの成長を見込んだり、表記されたスキルの外側の範囲にも可能性を求めることが出来たり、とけっこう自由度が大きいので、決して窮屈な世界観ではないんですよね。
それでも、評価基準がステータスにあるということは、ステータスがバグって読めないとなると、どれだけ車の運転が上手くても免許持ってなかったら公道での運転が認められないのと同様……と、これは例題がちょっと違うような気もするけれど、ともかく実態が制度上の評価基準と合致しないために不遇をかこつのが、本作の主人公なのである。
尤も、その主人公自身がステータスの価値・評価基準に固定観念を縛られているし、現行社会を逸脱する気、ルールそのものを変えてやる!みたいな事はさっぱり考えずに、今の評価基準に則ったまま憧れの騎士になりたい、と考えているような人なので、まあこの待遇も仕方無いのかな、と思わないでもない。
でも、彼の実力を正確に把握している冒険者ギルドの上層部が、まったく便宜らしい便宜を図っていないのは、なんというか……色々と思わせるところありますよねえ。最低ランクから引き上げることは出来なくても、報酬面とかで幾らでも手当とか出せそうなものなのに。さすがに日雇い仕事でひーくら言いながら生活している姿は可哀想なものがある。イイように利用している、と見られても仕方無い部分があるんじゃなかろうか。受付のリカリアーナさんは出来る範囲で色々とやってくれてるようだけれど。それにしても、ライ自身に自覚が全然ないからなあ。
そもそも、彼が自分の力を正確に把握していないというのが、彼我の実力差もわからない程度、に見えてしまって仕方ないんですよねえ。結局ステータスでしか判断できない、という意味では騎士団入ったクラスメイトの筋肉ダルマとそんな変わらない、という感じですし。なので、あんまり強者的な雰囲気が感じないのがなんともはや。
雰囲気としてよかったのは、あの魔法使いの娘、フレミヤの一族マルドゥナ家にかけられたドラゴンの呪いですか。あれ、西洋ファンタジー的な呪いじゃなくて、むしろ本邦の伝奇風な禍々しいドロっと粘度の高い呪詛っぽいんですよね。それか、宿主の無意識を自分の繁殖の為に操る寄生虫めいたヤバイ感じの。
あの普通のファンタジーな世界観の中にポツリと突然生まれたシミのような仄暗いゾワゾワするような黒点。それがいい意味での「違和感」として首筋を冷たく撫でるような感触が漂っていて、その変に混じったようなまじりきらないように残っている雰囲気が、けっこう好きでした。
ギルドマスターの狂気走った思惑とか、リカさんにつきまとう疑惑とか、なかなか陰惨な要素が入り混じっていて興味深いんだけれど、実のところそういう方向とライのバグった性能と無自覚な性格ってあんまり合ってない気もするんですよねえ。フレミアは、まさにそのライのそれに救われた、と言えばそのとおりなのですが。
あと、聖女さまが完全に自分の男に唾つけようとする相手に喧嘩売りに行ってるようにしか見えなくて笑った。いやこう、一応聖女として意味深に釘刺してる、という体は保ってるんですが、それにしてもアレである、いやはや。