奈良町ひとり陰陽師 (メディアワークス文庫)

【奈良町ひとり陰陽師】 仲町 六絵 メディアワークス文庫

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古都・奈良にあって、歴史的な趣きを残した町家が立ち並ぶ「奈良町」。奈良町の一角にある「くすば菓子店」の息子・楠葉シノブは、奈良ではもう最後となる、由緒正しい陰陽師だった。シノブが取り仕切るのは、奈良で起こる不思議の一切。祭りの夜を待つ青衣の女人、ご機嫌ななめな女神様、走る大黒様まであらわれる奈良町で、猫又の墨香や幼馴染のゆかりに見守られながら、シノブは今日も不思議を解きほぐす―歴史薫る古都から贈る、優しいあやかしファンタジー。
陰陽師というと、本場は京都。時点で帝都たる東京であり、それ以外となると奥まった古い伝統を今も残す村落、なんて場所が活躍の舞台となる事が多いんだろうけれど、なるほど意外と奈良は聞いたことが無い。古都としては京都よりも歴史ある都市なのにねえ。まあ陰陽師というと、やっぱり陰陽寮のある都市がメインだろうし、在野ですら播磨とかあっちの方が有名で、奈良というとどうしても興福寺の影響が強いせいか、お寺の国という印象が強いんでしょうねえ。それ以外というと、葛城山の役小角と言ったところで修験道のイメージもあるのかも。
調べてみると、奈良は奈良で陰陽道との縁は十分深いものがあるようなのですが。
ともあれ、そんな陰陽道の本流からはやや外れた奈良の街で、廃れゆく伝統工芸の唯一の担い手、みたいな感じでたった一人陰陽師として働くシノブくん。まあ陰陽師は裏稼業で、本職は和菓子店の跡継ぎって感じではあるのですけれど。とはいえ、別に陰陽師の需要が減っているわけではないようで、おらが街の陰陽師さんの元には幽霊やら妖怪の成りかけやら神様の端くれなんかがひっきりなしに困りごとの相談に訪れてくるので、結構忙しいご様子で。権威ある存在でも異能の術士でもなく、気軽に相談事に乗ってくれてマメに解決のために走り回ってくれる便利屋さん、という風情でこれはこれで使いっ走りみたくも見えるのだけれど、深い信頼が寄せられないと任されないだろう打ち明けられないだろう相談事だったりもするので、シノブくんは若いなりになかなか頼られてるんですよね。
幼い頃に爺ちゃんの教えを話し半分に聞き流していたお陰で、肝心な時に幼馴染を危険な目から守りきれずに悔しい想いをした経験から、物事に対する取り組み方は非常に真面目で穏やかな物腰でしっかりと話しを聞いてくれ、サクサクっと動いてくれるその様子は、確かに若さに似合わぬ頼りがいがあるんですよね。そんな彼に全幅の信頼を寄せて、颯爽とした女子大生生活を送りながら、彼の日常にふんわりと寄り添ってくれる幼馴染のゆかりとの関係がまた、ほんわかとした甘さが漂っていていい雰囲気なんですよね。彼女も、過去の事件からシノブくんと同じ世界を見ることの出来る目を持っていて、同じ世界観を共有している、というのも大きいんだろうけど、大らかで快活で物怖じしない好奇心たっぷりのいい子でねえ。ただ、シノブくんの方がちょっと引け目持ってるんですよね、彼女に。引け目というほどのものでもないのかもしれないけれど、遠慮があるというかなんというか。
もうお酒も飲める歳なんだし、ほんのりとした甘さをもうちょっと積極的にしても良さそうなもの。まあそのままでも、ほんのりとくっつきそうではありますけれど。
キーキャラクターであるシノブくんのご先祖様の陰陽師。また別の作品の登場人物なのか。陰陽師にして、中東の方から来た妖術師というのはなかなか色っぽくて良い出自じゃないですか。そっちの作品もそのうち目を通してみたい。
ともあれ、ほのぼのとして安心して読める地元に根ざした街の物語でした。奈良のことが観光宣伝とかじゃない地元視線で見れるのも良かったなあ。