六道先生の原稿は順調に遅れています 二 (富士見L文庫)

【六道先生の原稿は順調に遅れています 二】 峰守ひろかず/榊 空也  富士見L文庫

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文芸編集者の滝川詠見が担当するのは、怪奇を喰って物語を綴る、妖怪で作家の六道〓(そう)馬。なかなか原稿の上がらない六道から、詠見が努力の末にもぎ取った久々の新作が、なんと文学賞を受賞した。ところが六道は妖怪故に受賞式には出られない。詠見が代理で壇上に立つものの、同じ受賞者で気鋭の作家・踊場漂吉に怪しまれる始末…。とはいえ先生を売り出すチャンス!と新作を求めて日参する詠見だったが、またもや怪奇事件に遭遇して…?編集女子と妖怪作家の、怪奇×お仕事物語、第二弾。
これは作家と編集者の関係の理想形の一つだなあ。六道先生って作家としては数十年来の経歴を持つ大御所作家なのだけれど、妖怪としてはまだ若くて自分の生き方、在り方が定まっていない人でもあるんですよね。メンタルは老成していて幼いとは決して言えないのだけれど、それでいてひ弱というか未熟というか、自分にあまり自信を持っていなくて不安定な部分がある。決して頼もしい人とは言えないんですよね。でもやっぱり大人としての落ち着きもあり、しかし見た目はまだ十代後半の子供然とすらしている若者で、とこうしてみると編集者として付き合う滝川さん、大変だなあと思ってしまう相手なんですよね。まあ気難しかったり面倒くさかったりというところが全然なくて、非常に付き合いやすい人ではあるんだけれど、だからこそ繊細に触れなければならない相手でもあるというわけだ。
ここで滝川さんが直面するのは、編集者としていかに作家先生に作品を書いてもらうか、という依頼の段階ではなくて、どんな形で作家とともに作品を一緒に作り上げていくか、というところなんですね。書く作品の内容を要求して丸投げしてはい終わり、というわけでもなく、かと言って必要以上に内容にまで踏み込んでいくわけでもなく、そもそも編集者としてのスタンスとして作家に何を求めるのか。作家との共同作業って、どこまで踏み込んで、どんなふうにやるべきなの?というところで。
これにはもちろん正解なんてなくて、作家や編集者本人の性格や仕事の仕方、出版社としてのスタンス、その時の依頼内容や執筆状況、環境の違いなどによってやり方は全部違うだろうし、唯一の正解を求めるような話でもない。ただ、六道先生と滝川担当編集のビジネスパートナーとしての、そして六道先生の秘密を知る友人としての、そんな関係における仕事のやり方のピッタリとハマる形というのを、今回の話でたどり着くことになったんじゃないでしょうか。
長い六道先生の作家生活の中で、生み出した作品によって人生を変えられた人との出会いがもたらした衝撃。自分の書いた話によって、追いかける夢を見つけてそれに全力で挑んでいる人に出会えた感動。そして、かつて自分が書いたものによって生み出されたものによって、人に不幸をもたらしてしまった恐怖。六道先生は作家生活長いとは言っても、外との接触を極めて制限してきたせいか、自分の作家として世間にもたらす影響力を直接目のあたりにする機会が得られることはやっぱり殆どなくて、それらを直接見知った時の衝撃というのは作家としての経歴が長い文、もしかしたら新人作家が初めて感じるそれよりも、よっぽど密度も重さも濃いものを食らうことになるのである。彼当人のメンタルが打たれ弱いというのもあるのでしょうけれど。滝川さんは、もちろんメンタルケアに優れているという人ではなく、でも担当編集として、彼が妖怪であるという秘密を共有している友人として、それぞれの立場から真摯に親身に彼に言葉をかけることによって、本当に支えになってるんですよね、これ。一方で、作家のことを慮るばかりではなく、ちゃかり編集者としてあれこれねじ込む鬼な部分もしっかり持っていて、甘いだけじゃなくなかなか厳しくどぎつい面も兼ね備えているという根っからの編集者、みたいな側面も見せてくれて、六道先生も苦笑を禁じ得ないのである。でも、これほどやる気を掘り起こしてくれて、手助けしてくれて、弱った心を励ましてくれて、一緒に悩んで苦しんで、一緒に喜んでくれる担当編集が居てくれる、というのは限りない幸せであるんですよね。先生、これ噛み締めてるんだろうなあ。
そして滝川さんの方も、若さや未熟さから暴走したり見当違いのことをしでかしそうになったとき、落ち着きある先生の示唆や言葉によって、一呼吸置いて物事に取り組めたり、結構細かなフォローなんかも先生の側からしてもらってて、まさしく助け合う関係なんですよね。改めて見ても、いいなあと思える関係です。いや、一つ一つ積み重ねてそうなっていっているその過程を余すこと無く描かれている、と言えるのでしょう。今回は、六道先生とまったく正反対のスタンスで作家として活動している踊場漂吉先生の登場と介入によって、色んな意味で話にはずみがついてて、良い新キャラ投入だったんじゃないでしょうか。チャラくて押しの強い風貌とは裏腹にこの人もめっちゃいい人でしたし。良い意味で今後もこの人の介在によって話広がっていきそうですし。

1巻感想