東京ダンジョンマスター2 ~新宿でも社畜勇者(28)は眠れない~ (ファミ通文庫)

【東京ダンジョンマスター 2.新宿でも社畜勇者(28)は眠れない】 三島 千廣/荻pote ファミ通文庫

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水の魔王五星将が、新宿駅を襲う!

異世界ダンジョンから秋葉原駅を守った元勇者の上総は、紅の元で退魔業を請け負っていた。そんな彼が降り立ったのは、欲望渦巻く新宿駅は歌舞伎町! 聖剣を家に置いてきてしまった上総は、突如魔物が現れピンチに陥るが、持ち前の超人的な身体能力と機転の良さで危機を脱する。しかしそれは、やがて新宿を揺るがす新たなダンジョン発生の、ほんの始まりに過ぎず……。おっさん勇者と愉快な仲間達の異世界ダンジョン攻略記、息もつかせぬ急展開の第2弾!
スナックでホステスとして働く異世界のお姫様……。これが歓楽街の客層の派手な店とかではなくて、地元の小さなお店でお客も近所のオッチャンたちや商店街の旦那さん方、という感じのところで、【3月のライオン】の三姉妹の一番上のお姉ちゃんが働いてる感じのお店、てな風情のところが生活感を感じさせてくれて、ギュッとくるんですよね。そんな場末のお店で働くお姫様を、仕事上がりに毎晩迎えにいく上総くん。自分も遅くまで働いて、帰ってきたらメイドのクリスと一度ご飯食べて人心地ついてからリリアーヌのお迎えに家を出て、そうして二人でブラブラとお喋りしながら歩いて時々公園で休んでゆっくり話して、疲れて眠ってしまうお姫様をオンブしてクリスが待っている部屋に帰る日々。
遅くまで仕事で大変でしんどい生活だけれど、それでもこれはこれで幸せな風景じゃないですか。
紅の方も、学業と退魔業の両立で大変そうだけれど、一巻の時のように身も心も擦り切れるのも構わず突進していた頃に比べたら本当に良い方向に充実している状態になってきてるんですよね。無理をする必要はもうどこにもなくなったわけだし、学生生活を楽しもうと考える余裕が出来るようになっただけでも、見違えるようじゃないですか。退魔業の方でも、上総に無茶振りしつつも好意持っている相手と一緒に走り回ることが出来ているわけで。
異世界サイドから、五星将の連中が侵攻してきてあっちこっちダンジョン化される、という面倒は相変わらず降って湧いてくるにしても、何気に主人公サイドのプライベートってある程度の完成を見て安定しちゃってるんですよね。なので、変に新しいヒロインを増やすのではなく、敢えて任侠・黒田龍という男の……漢の戦いをベースに持ってきてしまったのは、賛否在るのかもしれないが私は好きだ、大好きだ!
いやもうこの兄貴、極道も極道で真っ当な人間じゃあまったくないのですけれど、敵対するヤクザ相手に人を殺めてオツトメまで果たしているような武闘派も武闘派なのですが、人品はえらいスッキリとした人物で、暴力を生業としているにも関わらず決して無闇に暴力を振るわないし振りかざさないタイプの男なのである。堅気に迷惑は掛けない、というだけではなく、舎弟に対しても理由のない暴力や理不尽を強要したりは絶対しなくて、化け物と化す薬物の氾濫で怪物化した人間相手にしたときも、真っ先に舎弟の連中庇ってましたしね。ってか、あれで犠牲にならずに普通に生き残ってるあたり、この黒瀬の兄貴無茶苦茶である。普通の展開だと、最初のシチュエーションで真っ先にこの怪物化薬物事件の犠牲者として血祭りにあげられそうな立ち位置だったのに、普通に殆ど無傷で生き残った挙げ句に、最終的に上総たちダンジョン突入パーティーのメンバーとして参加するわけですから、何者!?てなもんですよ。
実質、この巻の物語の主役はこの黒瀬龍、と言って過言ではないくらい彼と、そして無理やり薬物を服用させられて怪物化してしまった彼の舎弟である桑原との話がメインで進みますからね。
ヤクでトチ狂ってしまった身内にけじめをつけさせる、なんていうと組織のメンツだの男の意地だの、という話になってしまいそうなのだけれど、そんな事でダンジョンと化した新宿に潜ってまでケリをつけようなんて、思いませんわなあ。
桑原というやくざ者が全く似合わない頑固で生真面目な若者と黒瀬との馴れ初めから、二人の若干異物で不可解で、でもどこか心通じ合う兄弟関係。慕い慕われた男と男の絆の物語であり、慕うが故に彼のようになりたかった、敬愛するが故に対等に成りたいと望んだ男の、舎弟の、弟の……無理やり怪物と化せられたあとに、もう二度と元に戻れぬと悟ったが故に、その有り様でこそ成せることを望んだ弟分の生き様と死に様に、真っ向から付き合うことを選んだ、これはメンツでも意地でもない、一人の漢の「愛」の物語なのである。
何気に、上総って人生に疲れた男の様相を背負ってるけれど、黒瀬の兄やんみたいな強面の人と相性がいいというか、えらい意気投合してましたなあ。上総も黒瀬もスレた生き方をしているだけに、対等な友人というものを滅多と得られぬ人種なんですよね。だからこそ、得難い相手を得たのかも。最後、肩組んで夜の街に繰り出す男二人の背中に思わず微笑んでしまいました。
にしても、あんまり社畜感はなくなりましたよね。仕事大変だけれど、生活や人格まで犠牲にしてるわけじゃないし、無茶振りしてくる紅だけれど、けっこう気遣って仕事の割り振り考えてくれてるし。そろそろ社畜から解放された宣言してもいいんじゃないかと思われ。

一巻感想