世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫)

【世界の終わりに問う賛歌】 白樺みひゃえる/須田彩加 ガガガ文庫

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魔導と科学が共存する世界で――。

魔導が衰退し、それに代わる科学技術が発達した世界。魔導師の存在が稀少なものとなるなか、天然の魔力鉱石から魔力を抽出する「発魔炉」の登場により、人々は依然として魔力の恩恵を享受していた。
小国ローゼンブルクのマフィア「ヴィルトハイムファミリー」の構成員である特殊交渉人ブルクハルトのもとに、とある任務が舞い込む。それは近い将来、魔力鉱石が枯渇するという『魔力危機』に端を発する国家プロジェクト――魔力鉱石ではなく、魔力を自己生成する魔導師から直接抽出するという「次世代型発魔炉」の開発にまつわるものだった。「肉体的苦痛」を発魔条件として莫大な魔力を生み出すことができる『トネリコの蛇』の末裔の少女、ヘレナ・ヘレーゼを「炉心」とする次世代型の長期運用。弱者を守る古きマフィアの教えに感銘を受け、組織の誰よりも騎士道精神を重んじてきたブルクハルトは、罪なき少女を痛めつけなければならないことに苦悩しながらも最良の手段を模索していく。
わからん! つまり、この作品は何を描きたかったんだ? 何を伝えたかったんだ? どんな想いが込められていて、その結末に何を見い出せばよかったんだ?
痛みによって、膨大な魔力を発生させる少女。その少女をなるべく長く「使う」ことで一国家の消費エネルギーを支える動力源、発電所のようなものか、として活用しようという発想自体が狂ってるのだけれど、天然の魔力資源が枯渇しつつある世界でインフラを支えるエネルギー源のもとになるモノに関して、誰も是非は問わない。
無垢で何の罪もない少女を痛めつける、何かを得るために痛みという交渉によってそれを引き出すことを拷問という特殊交渉と考えている拷問官のブルクハルトにとって、その行為はただの虐待としか思えず、彼は苦悩し続けるのだけれど、その苦悩の中にこんな事は間違っている、という考えだけは見当たらないんですよね。一人の少女を犠牲にしなくては保てない社会なんぞ間違っている、という考えはどこにも見当たらない。唯一、一人だけが彼女を救おうとするものの、それも彼女を犠牲にしなければならない社会への反発というよりも、それが必要と考えながらも少女が犠牲になることに耐えられなかった、という感じなんですよね。それも、少女自身の拒絶によって潰えてしまう。
では、本作では結局何を描こうとしていたのか。少女を犠牲にする社会へ何かを訴える物語ではないようだった。自己犠牲の塊である少女に、何かを訴える物語でもなかった。少女ヘレナは、特に何か特別な出来事があったわけでもなく、生来の優しさで社会の安定が、みんなが平穏に暮らすためのエネルギー源となることを自ら望んで選択する。挙句の果てに、起こった戦争を早期に終わらせるために最終兵器と最終決戦兵力全般のエネルギー源となることを積極的に望み、平和の為に勇躍して犠牲になろうという勇ましい聖女のような姿を見せるようになる。
彼女の心は最後まで折れず、考え方は変わらず、誰もそれを否定せず疑問も呈しない。
彼女の在り方の是非を問うような話でもないようだった。
じゃあなんだ、というと結局の所ひたすら、ヘレナが壊れないように長期に渡って、出来れば永続的に彼女に痛みを与え続ける方法を、ブルクハルトが結成されたチームのメンバーと共に討論を繰り返し、ディスカッションし、その方法を発見し或いは手繰り寄せるために、考え、話し合い、資料をあさり、過去に立ち返って思索する。そういう話だったんですよね。
ヘレナを死なせずに、心折らせずに、どうやって痛みを味わわせて魔力を抽出するか。その技術的な結論を見出すための物語、そういう事だったんだろうか。ラストのラストになって、ようやくその方法を見つけ出しました、めでたしめでたし、という以外の何かがあったのか、自分にはついぞわからなかった。
生かす、死なせない。そんなブルクハルトの結論は、最初からあったものだ。そのために、彼女の自己犠牲を自分も分けてもらう、という考えは拷問官としては革新なのかもしれないけれど、それでブルクハルトは何か変わったのか、ヘレナが何か変わったのか。社会が、世界が何か変わるのか。
つまり、なんだったのか。なんだろう、これだけ重厚な世界観と切々とした内面描写が描かれながら、そこから何も汲み取れなかった作品というのはあんまり記憶にない。
決して中身がない物語ではない、そのはずである。でも、自分にはこの箱の開け方が皆目わからなかった、という事なのだろうか。中身もジロジロと眺め回して透かし見ることが出来たし、手に持って重たさを感じることも、振ることでその中身の感触も伝わってきた。でも、開けることができなかったから、結局それが何なのかさっぱりわからなかった。そんな感じなのだろう。
これに関してはちょっと☆の付け方が判断できない。
話は決して難しいものではなかった。一貫していてブレもなく最初から最後まで筋の通った物語であった。でも、つまるところどういう話なのかよくわからなかった、率直に言ってそんな感じである。