天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~ (GA文庫)

【天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「こんな国、さっさと売って隠居生活だ!」

完全に詰んでる国家の運営、無茶ブリされました!

「さすが殿下! これが狙いとは!」
「どこまでもついて参ります!」
「殿下!」「殿下!」「殿下!」「殿下!」
『(一体どうしてこうなった!?)』
資源も人材も兵力もない弱小国家を背負うことになった若き王子ウェイン。

文武に秀で、臣下からの信頼も厚い彼にはひそかな願いがあった。
「国売ってトンズラしてえええ!」
そう、王子の本性は悠々自適の隠居生活を目論む売国奴だったのだ!
だが、大国に媚びを売ろうと外交すれば予期せず一方的に利益を手にし隣国との戦争で程よく勝とうとすれば大勝利。名声は上がるが売国は遠のき、臣民はイケイケ状態で退くに退けない!?
天才王子による予想外だらけの弱小国家運営譚、開幕!
いわゆる「勘違い系」、本人の意図や能力関係なく、周囲が勝手に誤解して解釈したり都合よく物事が転がって成功してしまう類いの話かと思ったら、この王子マヂでスゴイガチの天才カリスマじゃないですかー!!
一番の難点は彼が自分の能力と信望を過小評価してしまっているところなのでしょう。過小評価と言っても無能なダメ王子と認識しているわけではなく、ちゃんと相応に高く評価してるんですよね。
その上で、周囲との国際関係やパワーバランスを考えて極めて現実路線な戦略、政治目標を立てた上で常識的な範疇での妥協点で決着させようとするわけです。
ところが、現実が思惑通りに転がらないのは常のこととして、彼の場合は何気に悲観論者、というよりも上手く行かなかった場合を想定して作戦立てているので、かなりリスクを加味した前提を持って慎重さと入念な段取りを用いているので、全部思惑通りに行ってようやく目的に達する、くらいの期待値なんですよね。都合よく物事が展開する、という想定をしていないのである。
まあその考え方もわからなくはなくて、元々あんまりこのウェイン王子、運がいいという経験してこなかったんじゃないだろうか。変に期待値込みで想定回すとそれが根底からポシャってしまう、というむしろ運が悪い経験を度々してきたんじゃなかろうか。鉱山の一件とか、事前にかなり皮算用してたのがえらいことになってパアになってしまったのを見ると、そう考えてしまうのである。
なので、最初から期待値低くリスクは常に降りかかるもの、という前提であれこれ作戦組み立てている、と思われるわけですが、元々能力値高いところに慎重で油断なくスキのない失敗しても破綻しない戦略を立ててるわけで、それだけ入念にやったら上手く行かないものも上手く行ってしまうわー! ということで、往々にして想定よりも上手く行ってしまうのである。
ただ、問題は下手に勝ちすぎると予定外の展開や相手の反応を引き出してしまう、ということでより情勢が悪化してしまうケースが多々あるんですよね。そして、なまじ勝っているものだから味方サイドは危機感を抱くどころかむしろイケイケ状態になってハシゴを外してくるわけです。
表向きには華麗かつ劇的な勝利を重ねて名望は高まるばかりの王子様なのだけれど、実態を見るとどんどんドツボの泥沼にハマっていき、それから逃れられない悲惨な有様になってってるのがなんともはや。
表向きには完璧なカリスマ王子を演じきっているウェインですけれど、唯一補佐官のニニムにだけはだらし無い素顔を曝け出しているわけです。そのニニムの前でひたすら「ぴぎゃーー」と想定外の連続に頭抱えて泣き言漏らすわ、FXで全財産溶かしたみたいにヘタれるわ、となかなかにみっともない真似を晒しまくるのですが、それがまたなんというか愛嬌なんですよね。
ニニムの前だけ情けない顔を見せつつも、やるとなったらとことんやってのけるそのギャップ。泣き言漏らしながらも、実際問題二進も三進もいかないような状況に追い込まれながらもそれでも想定外を踏み越えて、次々に閉塞を打開し打ち破っていくのですから、いやマジでガチの天才じゃないですか。
件の売国云々も、国を売って自分だけ悠々自適の身分を手に入れようというのじゃなく、どう抗っても巨大な帝国の侵攻に飲み込まれざるを得ない国際情勢の中で、最終的にナトラ王国が解体されるにしても、穏当に帝国の一部となって搾取される非支配地になるのではなく、ナトラ王国だった土地の人間が帝国内でも不当に扱われないどころかなかなかに重要に扱われるポディションを得る、というプランに基づいてのもので、滅亡必至の状況の中での最良の国家戦略だったんですよね。
それなのに、帝国の方で政変が起こってしまい、平和的国家解体プランは見事に瓦解。ナトラ王国は何かしらんうちに漁夫の利を得てしまい、しかし結果として大陸戦乱のさなかに放り出されるはめになり、王子頭丸抱え、である。王子、損して得を取れ、という方針を遵守しているにも関わらず、目先で得して未来のより大きな得を取りこぼしそうになる、という都合よい展開に見えて実際はえらいことになる、という状況ばっかりだなあ、ほんとに。
にも関わらず、より大きな難題が降り掛かってきた上で最終的にも得をもぎ取るというところがえげつないというかスゴイ。
とまあ、そんな感じの綱渡りばかりの王子様なのですが、ニニムとの気心の知れた関係が本当に良いんですよね。
絶対的に信頼できる側近にして、愛する妹にすらなかなか見せない無様な素顔を遠慮なく見せる幼馴染の関係。そして、諸国では被差別民であるニニムを侮辱されると、絶対に許さないという苛烈な一面。普段のカリスマ王子な顔とも、ニニムとの間に見せるすっとぼけた顔とも違う、自分の大事なものを汚された際の絶対零度の憤怒。激情を一切見せること無く淡々と、しかし確実に絶殺する凄絶さ。
ほんま、色んな面がある王子様で、魅力的で面白いキャラクターですわ。見ていて飽きない主人公でありました。
これから彼が率いるナトラ王国がどうなるかも、戦乱の度合いが増していく中での国家の舵取りの行方も非常に興味深いですし、先々楽しみなシリーズの開幕編でした。