始まりの魔法使い3 文字の時代 (ファンタジア文庫)

【始まりの魔法使い 3.文字の時代】 石之宮 カント/ファルまろ 富士見ファンタジア文庫

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竜歴637年。研究機関として大学を設立した“私”は、その一歩として、研究成果を後世に残すための紙作りに挑んだ。そして、世界で初めてとなる日記帳を物忘れの多い人魚のリンに贈った。
「書いたこと自体を忘れないようにね」
「うん。大丈夫…多分」
それは有史の時代の始まり。紙と文字は、知恵と、そして―記憶を未来に伝えていくことになる。貨幣や交通が急速に整備されていく中、他の「始まりの魔法使い」を始祖とする村の存在を知った“私”は、転生したアイの可能性を感じて、リンと一緒に調査に赴くが―!?これは、すべての“始まり”を創った竜の魔法使いの物語。
物理法則がそのまま成り立たないって、かなり衝撃的なんですけど!
ファンタジー世界って、魔法という別系統の法則があるものの、それとは別に物理法則はきちんと存在しているものが殆どですものね。この世界の場合、基本的には普通の法則が成立はしているものの、ちょっとでも高度だったり複雑だったりする法則の場合、自然霊……精霊の気分によって簡単にかわってしまうということなのか。
川の流れで水車を回す、というおおよそ文明の基礎に近いであろう水力すら成り立たたないとなると、とてもじゃないけど高度な文明を作り上げられる気がしないのだけれど、一応シリーズ冒頭では文明レベル現代相当にまでは達してるんですよね。それだけ魔法ベースで発展していく、ということなのか。
人類史そのものの発展をたどっていくような物語なのだけれど、これ思ってた以上に一筋縄では行かない様相を呈してきたなあ。
そもそも、既に600年以上経っているにも関わらず集落の規模は村の段階からそれほど大きくなってないんですよね。人類以外の種族との交流は広がっているものの、肝心の人間種に関しては他の地方の集落とは交流すらなく、今回はじめて発見した他の人間の集落はほぼ原始時代と変わらないレベルだったことを考えると、相当偏った分布の発展をしてるんですよねえ。
今の所積極的に交流を広げたり、支配領域を広げたりという事は考えていないみたいだけれど、他の人間たちの中に異種族に対する差別意識が蔓延しているのを見ると、将来的にかなり厳しい展開が待っていそう。
衝撃的というと、エルフと人間との交配についても随分と厳しい設定を持ち込んできたものです。いや、これまで数百年、まったくエルフと人間との間にこういう事がなかったんだろうか。エルフの時間間隔を考えるとふと気を抜くとすぐに人間死んじゃってるし、そもそもタイムテーブルが合う機会が少なかったんだろうかなあ。
これは流石にエルフが人間との交流を閉ざすことを選んでしまうのもわかるんですよね。明確な種の存続の危機でありますし。それはそれとして、人間との間の交配ではああした問題が生じた事は理解できるとして、それは相手が人間の場合に限るのか、それともエルフ以外の存在ならどの種族でも同じなのかは気になるところですよね。相手の種族に合わせる形で変質するのならいいのですけれど。
これ、ニナがどういうポディションに最終的に収まるのか、という話にもつながるところでありますし。先生的にも、精神的に変容しているから悠久の時間に対して特に何も感じなくなっているとしても、そこにニナがずっと一緒にいるのと居ないのとでは根本から話違ってくるでしょうしね。
今回、ようやくリンがファイナルメンバーとして登極したので、パートナーの喪失という点は心配しなくてよくはなったのですが。といっても、現段階では問題だらけでアイたちとさほど変わらない状況なのかもしれませんけれど。
不死の副作用については辛かったなあ。何よりも辛かったのは、仲の良かった周りの人たちでしょうけれど。でも、そうか「文字の時代」か。そのテーマにおいては、文明の発展とリンクさせている以上に、このリンの想いが日記によって残ったように、受け継がれたように、文字によってあとの世代に想いが託されていく時代が来たんだなあ、と思うと感慨深い。
それとは別に、村の人たちのことを一人ひとり数百年に渡って1人も忘れること無く、昨日のことのように思い出して思い出話が出来る先生とニナのそれが、本当に尊いのだけれど。
ずっと覚えていてくれる、ということのどれだけありがたいことか。二人が村の人間たちから崇め奉られるのではなく、ずっと敬意とともに親しまれているのは彼らのそういうところなんだろうなあ。

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