俺もおまえもちょろすぎないか (MF文庫J)

【俺もおまえもちょろすぎないか】 保住 圭/すいみゃ MF文庫J

Amazon
Kindle B☆W

ちょろいとちょろいが出会ったとき――爆発的な化学反応が起こる!

付き合ってください!――少しでも“いい”と思ったらすぐに告白してしまう少年・星井出功成。そんな彼の前に一人の少女が現れる。初鹿野つぶら――彼女は、超がつくほど生真面目な性格で、どんなことでも真正面から受け止めてしまう子だった。誰にでも告白するナンパ男と思われている功成のことも、何か理由があるのだろうと一つ一つきちんと話を聞いてくれて……「好きだ!」そんな彼女に“俺のことを理解しようとしてくれた”と感動した功成は、すぐに告白! 対するつぶらは「私で喜んでもらえたのが嬉しい……この気持ちを理解したいのでもっと教えてくださいっ!」と、なんと付き合うことに!? 2人の恋路はまるで転がり落ちるように進展して――いく?
面白い、というか興味深いという方がしっくりくるヒロインつぶらのキャラ造形でありました。
この子、チョロいと言っても別に惚れっぽいとかそういうのじゃないんですよね。ただ、恋愛方面の知識がほぼ白紙に近い無垢な状態のところに、相手の話を聞き流したり適当に受け止めることをせずに、生真面目に愚直と言っていいくらいに受け止めるのである。
で、相手の話を自分の中で吟味し、周りの人の説明や書籍などの媒体によって知識を習得していくと同時に、そのときに感じた自分の中の想い、生じた感情というものを徹底的に自己分析していくのである。
ラブコメであろうと純粋な恋愛モノにしても、異性との交流によって沸き起こってくる感情って、いちいちそれがどういうものかを考えなくて、「ドキドキ」などありのままそういう「感じ」のものとして捉えて、相手に投げ返すにしても自分の中で育てていくにしても、その感情そのものを深く掘り下げていくなんてことはあまりしないじゃないですか。
あっても、「これは恋という感情なのか」という定義付けくらいのもの。それが当たり前で、それで概ね問題は生じない。というのも、その手の感情について大抵の人は共通認識を有していて、そこに当てはめて自分で納得していくんですよね。
ところが、その手の恋愛の知識をまったく持たず人々の共通認識としてある感情についても知らない「つぶら」は、その生来の生真面目さから、自分の中に生じたこのファジーにして曖昧なものを、徹底的に解体しその原因、その正体、何がどうなってこのような感情が生まれ、その感情とはすなわちこうこうこう言う形で形成されたものなんです、とそれはもう具体的に言語化してしまうのである。
そして、それを律儀に全部その相手である功成に報告し、申告し、説明して、彼の言動によって生じた自分の中の感情、想いというものを全部詳しく教えてくれる、という形になってしまっているのである。
そりゃもう、これだけわかりやすく具体的に説明してくれたら、彼女が一体何を考えているのか、何を思っているのか、どう感じたのか、という未知に悩む必要はまったくないし、それ以上にこれほど明確なレスポンスが返ってくる、というのはお付き合いしている関係の異性としては、そりゃ嬉しいですよ、感動しますよ、もっともっとこの子のためになにかしてあげたい、何かを与えたい、と思ってしまうでしょう。
これ、単にこの娘がチョロいんじゃなくて、相手をチョロくさせてしまう、という意味でもつぶらという娘の、なかなか見ないキャラクター性というのは特筆に値するんですよね。
ぶっちゃけ、色々と理由があったとはいえ、この男の方の功成ってかなり無自覚な自分本位のところが目立つんですよね。相手のことを本当の意味で殆ど考えていないんじゃないか、というのをこれまでの告白テロの様子から伺えるのである。正直、告白自体よりもあとの告白撤回行脚の方が悪質で、相手の女の子の事を全く考えていない自己満足だけの所業にしか見えないんだけれど、それを衒いなくやってしまうあたり、つぶらと付き合ったから変わった、というわけではないのだと思ってしまう。
自分のことをわかってもらいたい、と願いながら、それならその前に相手のことをわかろう、という発想もなかった功成にとって、自然にこれでもかというくらいの密度で自分のすべてを曝け出し伝えてくるというつぶらという存在は、まさにクリティカルだったんじゃなかろうか。
逆に、その頑ななまでの生真面目さから、相手から恐れず逃げずボールを投げて来てくれないと反応の仕方も対応の仕方もわからなかったつぶらにとって、馬鹿みたいにガンガンぶつかってくる、そして面倒臭がらず鬱陶しがらず、自分の投げ返した言葉を、反応を、ちゃんと受け止め返してくれる功成という存在はこれ以上無く噛み合う相手だった、ということなのだろう。
ただ、お互いにチョロかったから噛み合ったのではない。お互いに足りない部分と過ぎたる部分がピッタリと当てはまったからこそ、何もかもが上手く噛み合ったのだ。その意味では、とんとん拍子に進展しながらも、急増らしい不安定さがなく、実に安定感の在るカップルでありました。