戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉7 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉7】  SOW/ザザ HJ文庫

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新章突入!過去の亡霊と決別を。スヴェンの前に広がったのは、強盗犯が立てこもるトッカーブロートの姿だった。立てこもり自体はルート(と、突入したスヴェン)によって無事解決したものの、これは最悪の始まりでしかなかった。“善意”の市民団体による抗議活動で客は減少、証人として出頭した裁判所では、ルートが戦時中に行なった作戦が槍玉に上げられる。さらに、死んだとルートが思いこんでいたマリーまでも姿を現し、ルートは再び過去の亡霊に悩まされることに…。パン屋を諦めかけた相棒にスヴェンがとった行動とは!

マリー、以前からこっそり動いていてかなり入念に調べ回っていたので、もっと社会的に一撃必殺のクリティカルショットをキメてくるのかと戦々恐々としていたのだけれど、思いの外こう……大きく振りかぶりすぎてあっちこっちに隙のある攻め方をしてきてしまったなあ。
これ、彼女自身がルートをどうするのか決め切れないまま高ぶった感情を抑えきれずに攻め込んでしまった、というところなのか。マリーの経歴からしてその優秀さは折り紙付きだっただけに、彼女が本気でルートを抹殺するつもりだったなら、事態が動き出した時点でもう取り返しのつかない致命的なところにルートが追い込まれてもおかしくなかったのに、こんな穴だらけの裁判に持ち込んでしまっているわけですからね。ルートの弁護士が裏で相手とつながってた以上、スヴェンが居なかったらやばかったのは確かですけれど。
ルート自身が、マリーが直接訪ねてきて虐殺事件について語れと言ってきたら自分は正直に告白した、と述懐しているように、ただルートが犯した罪を、軍が起こした事件を弾劾するだけならやりようはいくらでもあったはず。それを、こんな形でルートを陥れるように動いてしまったのは、彼がパン屋を営んでいるという事実を否定し、貶めたかったのであろうし、以前変装して会いに行ったときにまったく気づいてもくれなかった事に、想いの分だけ憎悪が滾ってしまったのだろう。
それはすなわち、それだけルートへの想いが深かった、ということでもあるんでしょうね。愛するが故に憎むしかなかった。
彼女の観点で抜けていたのは、もうすでにルートが1人ではなかったこと。彼の営むパン屋が欠かせない日常の一部として、周囲から受け入れられていたこと。
もし、最初の頃のルートなら、自分ひとりで完結していて外につながりを持っていなかったルートなら、あっさり諦めてこの結末を受け入れていたのでしょう。でも、これまで彼がパン屋として働いてきた日々は、それが失われればその分、彼のパン屋に関わってきた人から日常や幸せを奪ってしまうまでに、密接に繋がるに至っていたのだ、と落ち込むルートにスヴェンが叩きつけていたんですよね。
ロボ娘であるスヴェンの方が、そういうのちゃんとわかってるのがこの作品の醍醐味であり、多分最初の頃では出来なかっただろう、スヴェンがルートを叱って立ち直らせるなんて真似が出来たのは、それだけスヴェンもまた成長してる、って事なんでしょうなあ。

と、本筋こそルートの抱えていた罪が過去から追いかけてきた、というものでしたけれど、それを枝葉にして国際情勢の裏側で蠢いているのが、今回露呈した平和教と呼ばれる正しさを振りかざして息巻く者たちとゲーニッツの思想を継ぐものたち。前者はそのあり方の質の悪さが迷惑を振り切って思想テロになってるし、後者は後者である意味ゲーニッツという重石が外れている分余計にやばいことになってそうだし、さらに暗躍している者もいる、となるとこれかなり混迷が深くなってるなあ。
果たしてこれ、どこまで「パン屋」が関わる話になるのか。

シリーズ感想