ニートの少女(17)に時給650円でレベル上げさせているオンライン2 (角川スニーカー文庫)

【ニートの少女(17)に時給650円でレベル上げさせているオンライン 2】 瀬尾 つかさ/kakao 角川スニーカー文庫

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レベルアップは突然に。サラリーマンと17歳の同棲MMOライフ、第2弾!

MMOを愛するサラリーマン・石破真一は、居候ニートの水那と相変わらずのネトゲライフを過ごしていた。
クリスマスイベントの無能運営に文句を垂れ、職場の上司からの文句にこらえて、ついに迎えた正月はもちろんネトゲ。それと水那、お前はいいかげん風呂上がりは服を着て……
「わわわっ、見るなばかあ! し、真一のすけべっ」
なぜか乙女な反応を見せる水那。
それはちょっとした変化だったが、水那が目指す夢への挑戦(レベルアツプ)の前触れだったなんて――
「なあ、真一。あたしがいなくなったら、寂しいか」

レベルアップは突然に。ニート少女と同棲MMOライフ第2弾!!
主人公の真一、これだけ頭の中ネトゲばかりで形成されている重度のネトゲ廃人にも関わらず、実際のゲーム内ではトップランカーな攻略組には到底届かないエンジョイ寄りの緩いギルドメンバーって、これだけ廃人なのにゆるゲーマー扱いしかないって、ガチ廃人ってどれだけの頂きなのか!! 6000、7000メートルクラスの鋭峰に挑むガチの登山家クライマーみたいなものなのか。何%かの割合で遭難して帰ってこなかったりするレベルの挑戦者たちなのか。
真一ってちょっと頭がおかしいくらいのレベルの廃ゲーマーっぽいのだけれど、それでも社会人である以上時間の拘束は当然のようにあるわけで、やはり働いたら負けなんですよねw
ガチの攻略組だった絵里子が度々プレイヤースキル、ゲーム内の能力値じゃなくプレイヤー本人の操作の上手さや戦術眼の高さを絶賛されてて、それこそ彼女1人の存在だけでダンジョン攻略イベントクリアの難易度が桁なんこか変わるほど、といくらいの戦略兵器扱いされているのだけれど、この娘ほんとどれだけ時間ゲームに費やしてたんだろう。よく女子大生になれたもんだ。そしてよく進学できたもんだ。リアルタイムでさらなる進学はやばい感じになりかけてるけれど。試験は受けろー!

とまあひたすらネトゲばかりやっている話である。前巻の感想でこれはモラトリアム期間を描いた物語だ、なんてことを書いたような気がするのだけれど、モラトリアムがネトゲで埋まっておられるw
とは言え、ネトゲしてるだけでも人間関係は変化していき、情緒は生まれ、人の中身には成長という綿が詰め込まれていく。
いつまでも現状維持ではいられない。変化が顕著なのは学生時代だけれど、社会人になっても周囲は変わらないように見えて、着実に変わっていってしまうんですよね。歩いていくスピードは人によって違う。歩いていく方向も違う。いっとき、同じ時間同じ速さ同じ方向に向かって進んでいても、やがてそれらは段々と食い違っていくものなのだ。
一歩も動けなくなってうずくまってた水那を拾い上げたのは真一である。かつての憧れであり初恋だった人が自分に預けていった、いや捨てていった水那をすくい上げ、しかし彼はさほどの干渉を水那には及ぼしていない。急き立てるでもなく励ますでもなく、時給650円で自分のゲームのアカウントを育てる、という役割を与えて住むところと食べるところとを提供しただけ。猫を飼うように何もせず、ただ一緒に居て、一緒の時間を過ごしただけだ。
だから、水那が立ち直ったのも彼女自身の意思であり力であり、水那が他人とまっとうに付き合えるようになったのも絵里子という友人のおかげだ。そして、自分の力で未来を切り開いていくことを彼女が選んだときも、巣立ちを選んだときも、真一は何も言わなかった。ただ受け入れただけだ。彼女を拾ったときのように、彼女が出ていくときもその事実を受け入れただけだった。
でも、それこそが水那にとっての最良だったのだろう。自分の母親にすら受け入れられなかった異端にして異形の自分。それを、彼はあるがままに受け入れてくれた。
彼こそが、ホームだったのだ。
それだけは、間違いなく石破真一の選択である。誰もをあるがまま受け入れていたわけではない。水那の母親とは、再会のときまだ抱えていたであろう淡い想いを、未練を封印し、決定的な決別を示している。
彼が受け入れたのは、水那なのだ。だから、強がりだろうとなんだろうと、置き去りにされてしまう、自分を置いてさっていってしまう彼女の意思を受け入れることが出来たのだろう。
だからこそ、石破真一は徹頭徹尾、水那の居場所でありホーム足り得たのだ。帰るべき場所になれたのだ。
流れる時間を異にしてしまった人同士、同じ時間を歩めない。だから、歩くスピードを早めてしまった彼女たちは、目的地を見定めてしまった彼女たちは、一目散に走り去っていく。変わらない主人公を置き去りにして、去っていってしまう。
それは、作者の物語の根幹の一つだ。
そのまま別れ別れのまま遠い空を見上げるだけだったり、主人公自身が自分のスピードを早くして先に行った彼女たちのもとに追いついていく、そんな作品はあったけれど……。
そう、変わらない彼のもとに還ってくる話は初めてかもしれない。
……異なってしまった流れる時間を、異なったまま重ねて一緒に過ごす方法があるとすれば、それは「家族」になることなんじゃないか。
だからこれは、旅立った彼女が我が家に帰ってくる物語。ホームで在り続けてくれた彼のもとに戻ってくる物語。翼を広げて羽ばたいたままでも、置き去りにせずに一緒に居る選択を示した物語である。
そうか、こんな答えが出てくるところまで来たんだなあ……。

瀬尾つかさ作品感想