帝都フォークロア・コレクターズ (メディアワークス文庫)

【帝都フォークロア・コレクターズ】 峰守ひろかず メディアワークス文庫

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きまじめ書生と噺家崩れの優男が妖怪の伝承を追う、帝都発あやかし伝奇譚!

激動の大正。帝都東京に見える怪しき影は、二人の青年。黒のマントに詰め襟学生服、生真面目な銀髪の青年・射理也(いりや)。そして、女物の鍔広帽に着流しを纏い、軽薄な笑みを浮かべた噺家崩れの淡游(たんゆう)だ。
求職中の少女・静が見つけた新たな職は、『彼誰会(かわたれかい)』なる奇妙な組織の書記担当。彼らの目的は「百年使える妖怪事典の編纂」だという。
静は同僚の射理也、淡游と共に、日本各地に残る妖怪伝承を集めることになる。だがやがて三人は不思議な事件に巻き込まれていき――?
『絶対城先輩の妖怪学講座』の峰守ひろかずが贈る、帝都発あやかし伝奇譚。

柳田國男って、そんな偉い人やったんかーー!? ここがもう一番の驚きでした。民俗学者なんていうと、やはり自身の足でフィールドワークしてまわる権力や金銭には縁が薄い人種、と思ってしまうじゃないですか。そういうイメージで固定されてしまってる現代があんまりよろしくないんでしょうけれど。それにしても、貴族院の書記官長って、当時の官僚制度の中でもかなり高い地位なんですよね。これだから、戦前の帝大関連の人は侮れないのだ。
それでも、実際自分の足でフィールドワークして、日本の民俗学というジャンルを確立するに至る研究をされたと思ってたし、実際に全国各地を調査旅行してまわったようなのだけれど、この人の経歴を見ると高級官僚として働き、また国連でも活動していたり、と相当忙しい身分だっただけに自分一人で調査して回るには時間も余裕もなかっただろうし、そう考えるとエージェントを雇って現地の情報を収拾してきてもらう、なんてことも実際していたのかもしれない。
そんなこんなで、某御大尽の肝いりで全国のフォークロア……民間伝承などを集めてまわるために雇われた三人の男女の、大正時代という近代化の波が全国津々浦々にまで押し寄せつつも、まだ色濃く古い世界の名残が残っていた時代の不思議探訪譚がこれである。
同じ作者の【絶対城先輩の妖怪学講座】と趣旨的にはよく似ているのだけれど、何しろ現代と大正時代とではやはり違うんですよね。リアルタイムで旧時代の闇が払われていっている真っ最中、という感がある。静たち三人組は、言わば近代の側から消えていく闇を記録して残していこうという立場の人間なわけだけれど、面白いことにこの三人、同時にその消えゆく闇の側に深く関わる、というかむしろ彼らこそがそちら側、という人たちでもあるんですよね。そこを皮肉ではなく、消えゆく側であったはずなのに、うまいこと近代化していく光あたっていく側へと馴染んだり、潜り込んだり、と生き残る、或いは適応したような対象としても描かれている。
彼ら自身が、闇は消えてなくならない。形を変えても、ちゃんと生き残って未来へと続いてく、というのを証明しているのである。そんな彼らが、失われていく民間伝承を記録し残して伝えていく側としても活躍するわけで、それが回り回って絶対城先輩たちが喜んでかぶりつくだろう資料を残したり、自身たちが血を残し記憶を残していくことで、妖怪のようなものや異能者みたいなのが現代でもなんだかんだと元気に潜んで生き残っていく、という形になっていくのであると思えば、また面白いものじゃないですか。
最終話で静さんが「弱くて古くて小さくて、いつかは消えていく側で充分です!」と啖呵を切ってましたけれど、それを堂々と誇れるのなら、むしろそういう方がしぶといものなんですよね。

しかし、噺家の淡游さんが喜々として、日本語じゃない「フォークロア・コレクターズ」なんてのを自身で標榜して名乗ろうとするのも面白いなあ。言葉に対して敏感、というのはときに保守的になるものであるとともに、逆に革新へと走るものなのかもしれません。

あと、時代が時代だけに、さらっといずれ著名となる文豪たちが生の人物としてそのへんうろついてたり、すれ違ったりと行き会うことがあるのは、この時代の醍醐味ですねえ。こう、同じ時代を生きている、という感じがすごくしました。

峰守ひろかず作品感想