閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

【閻魔堂沙羅の推理奇譚】 木元 哉多 講談社タイガ

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俺を殺した犯人は誰だ?
現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘―沙羅。赤いマントをまとった美少女は、生き返りたいという人間の願いに応じて、あるゲームを持ちかける。自分の命を奪った殺人犯を推理することができれば蘇り、わからなければ地獄行き。犯人特定の鍵は、死ぬ寸前の僅かな記憶と己の頭脳のみ。生と死を賭けた霊界の推理ゲームが幕を開ける―。

閻魔様というと、最近だと【鬼灯の冷徹】の閻魔大王さまがデフォルトになっているので全然怖い印象ないのだけれど、時々娘に仕事代わってもらってる、と言われたらよくありそう、と思ってしまう。冷静に考えると裁判官が身内に代理頼んでサボってるのってどうよ、というところなのだけれど。その娘さんときたら、けっこう恣意的に強権振りかざしているし。
口では関心ないふりをしておきながら、実際のところ被害者たちに自分の死が自然のものではない、という事実を気づかせるような誘導をしている節がありましたし。閻魔あい……じゃなかった、沙羅が何も言わなかったらどの人も何も気づかず天国に行ってたでしょうし。
犯人わからなかったら地獄行き、なんてリスクを提示はしていますけれど、結局誰も地獄行きにならなかったからなあ。一人くらいは地獄行きになるかと思ったけれど。冒頭のシーンからすると地獄に落ちた人もいるっぽいけれど。
普通のミステリーと違うところは、探偵役が被害者本人というところなのでしょう。何しろ、殺された当人なので、犯人に行き当たるだけの情報は既に得ている、ということで情報収集活動は一切抜きで、制限時間十分で自分の記憶を回想してそこから真相へと至ることが求められる。
え? 十分とか無理じゃね?
と自分なら焦って何も思い浮かばなくなりそうなのだけれど、本作に描かれる四人の登場人物たちはみんな脳みそフル回転で着実に記憶だけを頼りに真相へとたどり着いていくのだから偉いものである。
まあそこまで複雑な謎があるわけではないので、ミステリーとしては簡単な類なんだろうけれど、逆に当事者としては記憶だけを頼りにって結構ハードル高そうなんだけどなあ。しかも十分。
さすがに金田一少年の事件簿みたいな計画殺人ではなく、登場人物の大半も決して悪人ではないので自分への悪意をたどっていくというやってみるとしんどいだろう真似をせずに済んでいるのも大きいのだろう。特に、最初の事件は盛大に殺人されているのだけれど、それ以外の三編はまた色々と趣向が違っていますからねえ。
ともあれ、被害者たちの死によってむしろ周りの人たちにも多く不幸が訪れる結果を思えば、彼らが地獄行きのリスクを賭けて脳髄を絞って考えただけの甲斐はあったのでしょう。自分が助かるため、というところに留まらない善意が各編から伺えたのも読後の感触の良さの要因なのかもしれません。
一番面白かったのは、やはり主人公が破天荒すぎる第四話でしたね。いやもうこういう人、関わるとめちゃくちゃ大変で大半の人は耐えられないのだろうけれど、そういうもんだと受け入れられたり、慣れたり、同じタイプだったりするとこう得難い相手になっちゃうんでしょうかね。自分はもう絶対ごめんですけれど。
にしても、生き返らせてハイ終わり、ではなくいちいちちゃんとフォローや救援をまめにしてくれている沙羅さん、ほんと行き届いてます。なんかサディステックで冷たい感じの人を装っていますけれど、イイ人認定でいいんじゃないでしょうか。