オタギャルの相原さんは誰にでも優しい (MF文庫J)

【オタギャルの相原さんは誰にでも優しい】 葉村哲/あゆま紗由 MF文庫J

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「オタクにはオタクの青春があるに決まってんじゃん」

「オッケー! じゃ、あたしがカノジョになったげる!」
相原璃子はオタクでギャルで巨乳で水泳部のリア充である! なんかノリと勢いで僕(リアルに興味のないクソオタク)のカノジョ(仮)になってくれやがった相原さんマジ天使! 一緒にいれば楽しいけれど、現実の僕らはギャルとオタクの単なる仲良しオタ友コンビだ。ラブコメ展開に用はない!
「あたしら『青春オタク同盟』! オタク同士で楽しく青春しようぜ!」
二人でアニメ見て! ゲームして! サメ映画も見て! オタクに優しい本屋でオタデート! 今日も明日も明後日も、居心地の良いこの時間が続くんだと――夢を見ていた、僕だけが。
これは好きになるよ、こんなん勘違いするに決まってるわーー!!
相原さんがそこらのオタクにちょっかいかけてくるギャルと決定的に違うのは、彼女がガチのオープンオタというところでしょう。興味を持ってるとか面白半分というレベルではなく、彼女自身ディープでコアなオタクさんであり、主人公のことは同類と見極めて同じレベル同じ深度で話せるに違いないと目をつけて、声かけてきたのであります。彼女自身、別にオタク趣味を隠している風でもなく、なのでコソコソと主人公と会ったり、なんて真似もせず堂々と接触してくるわけですね。そして、決してお喋りが得意ではないし他人とコミュニケーションをとること自体を避けてきた主人公のアキラが、出会った瞬間から軽快な掛け合いをしてしまうほどに、ものすげえ話しやすい娘なのである。一方的にグイグイ来るのではなく、ものすごく気持ちよく会話というキャッチボールをさせてくれる娘なのだ。オタク趣味についても、ゲームなど同じジャンルなら丁々発止で。アキラが触れないコンテンツでも思わず興味をいだいてしまうようなトークで差し込んでくるし、逆に今まで自分が見たことのなかったジャンルの語りを、それはそれは楽しそうに聞いてくれる。
学校だけの関係ではなく、遊びに行こうと誘ってくるし、なし崩しにお互いの家にあそびに行っちゃうし、ほんとグイグイ来るのだけれどそこには強引さはなく、無理やりでもなく、思わず軽く良いよ、と受けてしまう気安さと楽しさがあるのです。
まさにその距離感の野放図と言っていいくらいの詰め方はリア充だのギャルだのというカテゴリーの人種から連想するそれなのだけれど、この相原さんは多分それをどんな人種でも、実のところオタク相手でなくても、誰にでも合わせてその接近を相手が喜んで受け入れてしまうように最適化してしまうのだろう。それこそ、アキラやかつての彼女と友達になった子らのようなコミュニケーション弱者であっても、なんのストレスも感じずにその距離を受け入れてしまうほどに。
そらね、好きになっちゃうよ、こんなに一緒に居て楽しくて幸せでびっくりするくらい身体的にも精神的にも距離近くて美人で可愛い女の子が、隣で自分に向けて笑ってくれてたら。

これは、この娘俺のこと好きに違いない、とか勘違いしても仕方ないと思う。
ただ、偉いのはアキラにしても健司くんにしてもその手の勘違いはしなかったところですね。まあ、相原さん、自分が君にカノジョ紹介してあげるよー、というたぐいのコメントを繰り返ししているので、勘違いする余地がなかった、とも言えるのだけれど、でも「カノジョ(仮)」になってあげるー、とか言われたら、「え? ちょっとなにそれ!?」とか思うよねえ、普通。あれ? もしかして本当は自分に気があるのをごまかしてそんなこと言ってる? とか盛大に勘違いしてもおかしくないよね?
男の子はここで盛大に勘違いするか、盛大に警戒しまくるか、に分かれるように思うのだがこれ如何に。

でもね、さすがにタイトルのような【オタギャルの相原さんは誰にでも優しい】の「誰にでも優しい」というシチュエーションは無いんですよ、無いと思う。アキラは相原さんにとってのその他大勢の一人、なんて扱いではなく、今現在では特に仲の良い男友達という立ち位置でかなり親密であり、友達の中でも特別に近いポディション、というのは誤解でも勘違いでもないはず。それくらいにはいつも一緒に居たし、デートもして家に遊びに行って、なんてしている男の友達の気配はみあたらなかった。健司くんは自分のカノジョ居るしね。
でも、それは好意ではあるけれど友情であり、彼女の優しさの発露なのである。それを、アキラは理解している。理解できるほどには聡く、冷静で、残念ながらバカではなかった。
もし、それ以上の関係を求めれば、このありえない運命のような幸福で楽しい友達関係が決定的に終わってしまうことも理解できていた。まことに、残念なことに。
よくあるじゃないですか、この心地よい関係を失いたくないから告白もせず現状維持を選択する、ってシチュエーション。そういうもんかなほーーん、てな感じで見ていることが大半なんですけどね、でもこのアキラと相原さんの関係については、それを壊したくないというの嫌というほどわかる、伝わっていてしまうのである。それくらいに、二人の関係は楽しそうで気安くて親密で、アキラのようなタイプの人間にとってこんな時間を他人と過ごせるというのは、想像もしなかったことであり、本当に運命に巡り合ったかのような時間だった、というのがもう沁みるようにわかるんですよ。
だから、この関係を壊したくない、という気持ちがこれまで見てきた中でも一番共感したかもしれない。
でも、それなのに、それ以上に……彼の「この娘のこと、好きだ!!」という気持ちもまたこの上なく伝わってきてしまうのである。もう自分ではどうしようもない感情、気持ち、想い。それがどのように生まれ、芽生え、育まれ、彼の中で制御できないうねりとなって回り始めたのかをつぶさに見てきてしまっただけに。そんなものが生まれてしまうのも当然だ、と思ってしまうくらいに相原璃子との時間が楽しそうに見えていただけに。
その相反する衝動と理性の衝突の果てに、理解と認識を乗り越えて、それでも自分の想いに殉じ、たとえ勢いであったとしても勇気を振り絞った少年の青春は、もうなんというか尊いね。
こういう行動を取れる人は、自分尊敬してしまいますわ。んでね、こういう子らは、周りがちゃんと助けてくれるんですよ。助けようと思ってしまう子たちであり、助けようと行動してくれる子と関係が結ばれているのである。友達甲斐のある子らやなあ……。
あと、アキラくん、けっこう殺し文句えぐいの飛ばすよね。あれ、璃子さん側からしても「惚れてしまうやろぉ」というようなセリフがわりとけっこうバンバンと。
くぅぅ、どっちゃにしても相原さんは天使やでえ。なんだよこのかわいい生物わー。

……ところで、葉村さんのこれまでの業績というか作風的に、いつ主人公かヒロインのどちらかが世界の滅びや終焉を司ります属性を発露するのかとドキドキしていたのですが。あれ? 本気で二人とも「破滅」属性を内包してないぞ!? 普通の年頃の男の子と女の子だぞ? 周りのサブキャラたちも普通の高校生に見える!? 
もしかして詠美ルートに入ってたら、世界の終焉を巡る戦いに入っていた可能性が微量に存在するのでは、とあの黒髪ロング美少女詠美さんにそれっぽさを感じていたのですが、どうでしょうw
ともあれ、葉村さんが正真正銘ただのラブコメ書いたのって、これが初めてじゃなかろうか。おおう……。

葉村哲作品感想