異世界迷宮の最深部を目指そう 10 (オーバーラップ文庫)

【異世界迷宮の最深部を目指そう 10】 割内タリサ/鵜飼沙樹 オーバーラップ文庫

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Kindle B☆W

――可測する前日譚(トータル・リコール)

地上への帰還を目指すカナミに立ちはだかる『風の理を盗むもの』ティティー。呼応するかのように千年前へ変貌するヴィアイシアの街。愛憎に満ちあふれるノスフィーはカナミを『未来(ちじょう)』へ逃がしはしない……。
全ての罪過を償うと誓ったカナミは、『詠唱』の『代償』を糧に未来(かのうせい)の先譚を垣間見る。
――それは、千年と百十一年に及ぶ前日譚。
見栄っ張りの魔人混じりが起こした、他愛もない『ごっこ遊び』。
「なんで……?」「なんで、こんなところまで……!?」
虚ろに満ちる『第五十の試練』の果てで、いま童の原風景が想起する。

ああ……。
これは、そりゃもう表紙ティティにしますよね。
敢えて順番を入れ替えて9巻はノスフィー。そしてティティをこっちに持ってきた、という話ですけれど、納得、納得。納得以上に、これ以上無い選択だったのではないでしょうか。
あとがきでは、「この10巻は彼女そのもののようなものになる」という作者さんの明示があったそうなのですけれど、この「彼女そのもののようなもの」って表現すごいですよね。ロードと敬われたティティの人生そのものを描き尽くす、みたいな言い方でもおかしくなさそうなのに、そうじゃないんですよ。人生そのものじゃない、彼女そのものだというんです、この一巻丸ごとが。
丸ごと、この巻にはロード・ティティが詰め込まれている。人生だけではない、その思いも感情も悲嘆も在り方も生き様も死に様も何を求めていたのかも、何から逃げていたのかも、何から逃げなかったのかも。
多かれ少なかれ、この作品では守護者と呼ばれる者たちは、その存在のすべてが暴き出されて探りだされ発掘され、余すこと無く曝け出し、当人もたどり着けなかった当人そのものを、カナミに寄って引っ張り出されます。ローウェンがまさにそうだった。
死力を尽くした対話によって、ようやく通じ合うことが叶う。それほどに、彼らは深淵の奥底に囚われている。ロード・ティティはまさにその極地に居たと言えるのだろう。
どうやったってたどり着けない極地。ティティ当人も遥か遠くに置き去りに、加速して加速して果てしない向こう側へと置き去りにしてしまったそれは、もう誰も手を伸ばせないはずだったのだ。誰にも触れられず誰にも知られず、狂い果て朽ち果てた末に何の救いもなく消え去るはずだったものなのだ。
だから、カナミの次元魔法は反則みたいなものなのだろう。ついに、空間だけではなく時間まで。忘れ去られた過去から、いつかたどり着ける可能性がある未来まで、観測し体感するに至ったカナミの次元魔法は、もうこれいったいどれほどの領域なのだろう。
いや、カナミの境地はこの際置いておこう。彼の魔法によって奈落の底から掬い上げられたロードの過去。そこに横たわって蹲って顔を伏せて誰にも見えなくなっていたロードと呼ばれる前の小さな少女の願い、祈り、そして未練がついに明らかになる。
一人の女の子が、みんなのために身の程を超えてありえないほどに頑張り続けたその姿が、無理して無茶をして出来ないことをやり遂げ続けて、そうして壊れてしまった有り様が。
悲鳴が、泣き声が、後悔の呻き声が、もがくように響き続ける様子が余すこと無く映し出されていく。その果てに、ようやくようやく、小さな女の子が押し込めた本当の願いが見つけ出される。
一人の女の子の途方もない絶望と小さな希望が込められた、まさにこれは彼女・ロード・ティティそのものの物語。
この娘は、報われるべきだと思う。この娘は救われるべきだと固く思う。こんなに身の程を超えたことを、やりたくなんて全然なかったことを、求められたから、頼られたから、守りたかったから、そんなささやかな優しさを支えにして、やり通したこの娘を誰が非難できようか。
だから、彼女に救われ守られ導かれた人たちが、みなみな彼女の本当の願いを知ったとき、誰も彼女を責めなかったことに、こみあげるものがあった。みなが彼女に感謝し、彼女を追い詰めたことを悔やみ、彼女に与えられた「これから」を祝福してくれたことに、拳を握りしめた。
千と百年の地獄のはてに、彼女は確かに報われたのだ。そして、未来を祝福されたのだ。
もうこれで、半分未練が消し飛んだ、というのもよくわかる、というかこれで未練全部消し飛んでもおかしくないくらいの、救いある区切りでした。
そして、これに匹敵する半分を担うほどに、ティティにとって幼い頃の想い出が掛け替えのないもので、弟のアイドのことが大切なのか。
これまで、ティティの未練そのものが封印され、忘れ去られていたことから、弟のアイドに関してもティティはあんまり大した反応を示さなかったので、この姉弟の関係がいまいちわからなかったのだけれど、こうも鮮やかに描き出されてしまうと地上に戻ったあとのアイドとの対決が今から楽しみでしかたない。いや、アイドとティティ。ロードじゃなくティティとの再会がどうなるか、というところが。
今回の殊勲賞は間違いなくライナー君ですね。これほど頼りになる騎士、カナミの騎士になってくれるとは思いませんでした。なにより、ヤンデレじゃないのが頼もしい! 精神面で危うい部分があったのもかなり解消されたように見えますし、同世代の親友にして絶対的な信頼を寄せられる相棒格、しかもまだまだ成長の余地あり、てすごいですよ。今回もノスフィーを見事に足止めしてみせましたし。カナミとライナーの信頼を寄せて寄せられて、の今の関係、とても好きです。
さあ、ようやく地上に戻っての新たな章の開幕、ということでガラッとメンツが変わることになりましたけれど、そうかーあれから一年も経っちゃってるのか。
ラスティアラたちの現状も心配だけれど、一方でなんか新たなヤンデレ誕生の予感がw
カナミ、さらっと要らん事口にしなかったかしら!? せっかく、ヤンデレのいないニューパーティーだ!と思ったのに、大丈夫ですか?本当に大丈夫ですか!?

シリーズ感想