100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる (ダッシュエックス文庫)

【100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる】 ざっぽん/はるのいぶき ダッシュエックス文庫

Amazon
Kindle B☆W

かつて多くのダンジョンを攻略し最強の魔術師として恐れられたバラムは、弟子の裏切りによりギルドによって討伐されてしまった。それから100年後。駆け出し魔術師のミュールは、新たな魔法を使うために魔術書を探していた。目当てのものが手に入らず落ち込んでいたところ、胡散臭い露天商の男に、奇妙で貴重な本を格安で譲ってもらうことになるのだが…。なんと、その魔術書こそバラムが封印され転生した姿だった!!バラムは裏切った弟子へ制裁するため、人並み外れた魔力を持つミュールに目をつけ、一流魔術師に育てることを決める!!最強の転生魔術書と美少女魔術師のコンビが創る魔法世界の新しい歴史が、今始まる!!
へえ、単純に技術が失伝して退化してしまったわけではないのか。
古典のライトノベルからして、魔法というものは古代魔法王国なんてものが栄枯盛衰して、現代ではかつてほどの強大な魔法は失われてしまっている、という魔法技術の変遷は定番と言っていいものなんだけれど、本作の場合わずか百年での出来事であると同時に、当時使われていた魔法が使われなくなっているだけではなく、存在そのものが失伝していたり、魔法に関する知識そのものが衰退したりしているのです。記録からも記憶からも、昔の魔法に関するあれやこれやが失われてしまっている。
現代魔術師が弱いことにも、ちゃんと原因がある、という展開なんですな。最近の若いもんはなっちゃおらん、という未熟さや勉強不足を過去の亡霊が上から目線で嘆いて無双する、なんて話ではないんですなあ。
技術なんてのは覚えればすむもの。知識なら学べばいい。バラムが少女ミュールに見出したものは、魔力の多寡などではなく、魔術師としての矜持、学究の徒としての探究心、深淵と呼ばれるダンジョンの奥底へと挑む探求者であり冒険者としての意気そのものでした。
挑むは秘められた世界の謎。迫りくる危機への対処と解明。そのためには、誇りを持って仲間たちとともに目標へと挑む高い意思が必要なのです。意識高い系とか言うなかれ。そのために、ミュールたちは泥をすすって危地へと挑む覚悟が、何より真実を知ってなお折れない覚悟が必要だったのですから。
元々高い望みをもって魔術師の試験に挑んでいたわけではない平凡な少女でしかなかったミュール。バラムの封印された魔術書を手にしたのも偶然であり、それによって得た力で最初の頃は何をするでもなく、ただ流されるままに状況に甘んじていた彼女は、面白いことにバラムの魔術書の力が途方もないものであること、バラムの持つ知識が今の時代にはありえないものであること、そして秘められてた真実がこの上なく恐ろしいものであることを理解したとき、その特別さに増長するでも持て余すでもなく、その特別さゆえに成さなければならないことを自覚し、覚悟を得て、やるべきことを見据えると同時に、好奇心冒険心を育てていくのである。
まさに、ライトスタッフであることを証明していくんですよね。これは、教授する側のバラムにとっても嬉しいことだったのでしょう。悪名高き魔術師にも関わらず、バラムの態度って一貫して良いお師匠様なんですよね。あらすじでは、バラムは自分を裏切った弟子に対して怒っているような書き方をされてますけれど、実際には含む様子もほとんどなく、むしろ弟子の優秀さを認めていただけに彼が先導しているはずの現代の魔法の現状に対して困惑を抱いている、という描写がしばしば見られるほどで。
そもそも、なぜバラムがギルドに討伐されるはめになったのか。それに関しては彼が明らかにしたマナに関する仮説が原因みたいなことは匂わされているものの、そもそも討伐されたことに関して殆ど恨みがましいことをこぼしていないあたりからも、なんか複雑な事情があったんじゃないかと伺えるんだけれど、どうなんだろう。
ともあれ、彼自身多くの優秀な弟子を指導し、様々な研究を進めていた魔道の探求者であったためか、向上心の強い子には親切なんですよね。ミュールのみならず、彼女のパーティーに加わることになった他の二人の娘さんに対してもかなり好意的ですし。特にエリート扱いだけれど実際は才能ない超努力家なエステルに対しては目をかけている節もありますしね。このエステルの資質、特に心の強さに関して正確に見抜いて、同時に脆い部分も察して彼女の心を支えて立て直すようなフォローを卒なくしてのけるミュールは、何気に人の扱い方とか人を見る目とかずば抜けてる感じなのよね。ラファエラもかなり扱い難しいタイプだろうに、軽々と添えているしそもそもバラムからしていわくがありすぎるくらいありすぎる存在なのに、あれだけうまくやっているわけですから、ミュールという主人公にしてヒロインの一番の強みというのが、実のところバラムによって与えられた魔法の力ではなく、彼女自身の聡明さとコミュ力にあるんじゃないかという気がしてきた。
ともあれ、ひたむきに頑張る女の子三人が勇躍立ち向かう世界の真実、という構図は唆るものがあるので、次回以降も期待が膨らんでしまいます。