ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎 (講談社タイガ)

【ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎】 三田誠 講談社タイガ

Amazon
Kindle B☆W

呪いを招く特殊文化財を専門とする、神祇鑑定人・九鬼隗一郎。就職活動に失敗した夏芽勇作の運命は、彼と出会ったことで、大きく変化してしまった。魔術に傾倒した詩人・イェイツの日本刀、キプロスの死の女神像、豊臣秀吉が愛した月の小面。実在する神祇に触れ、怪奇な謎を解くうち、勇作自身の秘密も引きずり出されてしまう。呪いと骨董と人の想い。相棒が導き出す結末は…!
冒頭から全裸で登場したから、というわけではないのでしょけれど、九鬼さんのこの匂い立つような男の色気が凄まじい。四十前後の年齢ながら引き締まった肉体に鬼瓦のような容貌、そこに眼帯が片目を覆っている。いわゆる優男が醸し出す色気ではない。
だが、男臭いというとまた異なるのである。その物腰は静謐で美しく、言葉遣いは年下の後輩にも丁寧で誰に対しても礼儀正しい。所作や振る舞いそのものに整った美しさが感じられるのである。
女だから男だから、という性別関係なく、思わず魅入ってしまうような何かが感じられると同時に、その深奥まで引きずり込まれそうな山奥の湖のような神秘性すらも感じられてしまう。
かと言って、近寄りがたい人物かというとそうでもなく、表情はあまり変わらないながらも勇作くんの印象だと思いの外感情豊かでその端々から垣間見えるそうで、昼食を取っているシーンなどなるほど黙々と食べているようで何気に一つ一つの食材、料理の品の味や見た目を堪能して楽しんでいる様子が伺えて、ある種の可愛げすらも感じ取れる。
しかし、かと言って人畜無害の人物かというと、当然のごとく正反対なのであろう。彼は誠実である、依頼人や関係者の身の安全に気を配り、最悪を避けるようにきちんと立ち回り、一方で法や業界のルールを逸脱すること無く、秩序に反すること無く事件を収めていく。
でも、恐ろしい人物なのだ。特殊文化財というモノに魅入られ、それを最上至上として他を顧みることなく動けてしまう男なのだということを、勇作は彼とともに事件を解決する過程でそれを実感していくことになる。
魔術とは、呪術とは、呪いとは、すべて思い込みの産物である。
と、九鬼さんをはじめとした深くこの業界に関わる人々はそう明言して憚らない。その上でこうのたまうのだ。
そのような「思い込み」に頼らざるを得ないほどに追い詰められたり、深淵に嵌った人々に対しては同じくその思い込みを介した仕儀によってしか解決できないことがある、と。
魔術の実在の定義ってのは、こうしてみると解釈一つ、立ち位置一つでこうも変わってくるものか、と深くうなずかされる。魔術が実際に存在するか、なんて本当に視点一つなのだろう。現実においてだって、考え方によっては魔術に定義されるであろう事はいくらでも存在するのだ。安易に超常のものと捉えてしまうには、魔術という枠組みはあまりに広く底なしなのである。
それでも、理を以って語れるからこそ「術」なのであり、その解体もまた理を以って成せるのである。その理が、常識の範疇にとどまっているかはいざしらず。
このあやふやにして否定も肯定もせず、いやどちらもしているのか。この思い込みによって成立し、だからこそ現実にすら作用しているこれら、各事件における特殊文化財が巻き起こす、或いはそれに囚われた人々が織りなす出来事は、なればこそ面白く興味深く。関わる人々の踊り狂う様がまたゾッとするような人間模様になっていて、唆らされるんですよねえ。
また、その呪によって悪いことばかりが起こるのではなく、地下アイドルのあの娘が知らず成立させていたように、言祝ぎに値することまで起こってしまっていたりするわけで。
最初の刀剣にせよ、女神像にせよ、そして最後の月の小面にせよ結局は人間の想いが道具のありようを決定づけているわけで、さて道具に人間が振り回されているのか結局人間が道具を振り回しているに過ぎないのか。いずれにせよ、それを引き起こす特殊文化財に九鬼さんがああものめり込んでしまっている、というのは理解出来るし、彼がそれを制御するために自分を枠組みの中に置いている、という理性は尊敬に値するのである。確かに、ついていくの大変だろうけどなあ。
いずれにしても、この「魔術」という概念に対する地に足の着いた解釈やアプローチからの、おどろおどろしい特殊な現象の発生、その根源に潜む人間模様を描き出し、そこに人間讃歌めいた肯定を……人間の悪しき部分を浮き彫りにさせながらも、最終的に人の善性や信じるに足る部分を描き出すところなんぞは、三田誠先生らしさが刻み込まれている作品でした。歯ごたえのある面白さだった。

しかしこのジンカン。宮内庁神祇鑑定人という名義からしても、ちゃんとした宮内庁の職員の話なのかと思ったら、元は宮内庁の部署だったにも関わらず、現代における組織とか予算とかの問題から組織外の放り出された外部の「宮内庁指定業者」なのである。下請けである。
どの業界も世知辛い世の中でありますなあ。

三田誠作品感想