ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四 (富士見L文庫)

【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四】 秋田 みやび/しの とうこ 富士見L文庫

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ぼんくら陰陽師・北御門皇臥のプロ嫁として日々努める芹。嫌みな姑の史緒佳との関係も、意外と上手くいっていた。得意先の紹介で出張祈祷に出かけた芹たちだったが、突然の大雨で帰れなくなってしまう。幸い懐も温かいので、近くのオーベルジュに一泊することに。梅の花に囲まれた素敵な宿に美味しい料理…と思いきや、待ち受けていたのは、今まさに始まらんとする降霊会と元北御門の門人、そして自称霊能者で―?ぼんくら陰陽師の腕が試されるとき!?現代退魔お仕事物語!

自分がまだ子供だった頃に十代後半とか二十歳になったくらいの親戚とか身内の若いお兄さんお姉さんだった人が、ふと気づいたら三十とか四十越えてたりすると、思わず「マジか!」と声に出してしまう現象、よくわかります。
いや、今だと自分がマジか!と言われる方になってしまったのですが。
見た目が変わってるとかそういうんじゃないんですよね。結構三十路くらいだと見た目そんな老けてなかったり、というのは実のところ珍しくはないのです。でも、だからこそ逆に再会した時「あんま変わってないよねー、今いくつだっけか……マジか!!」になるのですが。
「え? あんたもう40なの? マジか!」と言われることもままあります。
今回登場の薙子さん、北御門の内弟子やっていたころはまだ十代から二十歳になる頃だったわけで、その頃皇臥くんはちびっこだったわけで、再会した薙子さん何年ぶりに会うのかと計算したら自然と年齢も数えてしまうわけで、そりゃあびっくりするわねえ。
とまあ驚くのは向こうも同じで、6つ7つも年下の弟分だった子供が再会したら弟子連れてるばかりでなく、嫁さんまで連れているわけだから、なおさらびっくりするものである。というか、自分の歳を顧みてしまうのである、ショック。
芹だって、まあ穏やかではいられない。なんせ、血は繋がっていないとはいえ彼女は姉のようなもので、家族同然だった人で、北御門の家人たちの過去をよく知っている、あるいは共有している、と言った方がいいか、そういう人なのだ。祈里や護里ら式神だって、「なぎこなぎこ」と呼んで親しんでいる。
とまあ、普通ならここで芹が気にしてもやもやしだすのは、旦那であり夫である皇臥くんと薙子さんの関係であり、二人が共有している家族の時間、過去の想い出に嫉妬したり鬱屈を覚えたり、というパターンなのだけれど……。
面白いことに、芹が引っかかってしまったのは北御門の姉である薙子ではなく、北御門の「娘」であった薙子の方だったんですよね。
折しも、降霊術で降ろそうとしている霊が皇臥たちが急遽宿泊することになった宿泊施設付きのレストランの前オーナーの、まだ幼稚園にも通わないくらいの小さな男の子の霊であり、母親に会えない寂しさが未練となって残ってしまっているタイプの子だったわけである。
芹自身、母親を早くに亡くしてその寂しさを抱えていた身。ちょうど、霊の寂しさと芹の想いがバッティングしてしまい、ややこしいことになってしまったわけだけれど、ここに「母親への思い」というものが重なって浮き上がってきてしまったわけだ。
芹ちゃん、ライバル関係みたいにうそぶきながら、その実姑である史緒佳さんのこと、そんなに慕うに至っていたのか。
そりゃあ、今回の出張でも今までしていなかった化粧の仕方なんかを丁寧に教えてもらったりして。友達とわいわい言いながら慣れ親しんでいくものとは違って、「母親」から教えてもらう化粧の仕方というのは女性にとっては特別なことなのでしょうか。幼い頃に死に別れてしまった芹にとっては、史緒佳から教えてもらったそれは、この歳になって初めての母親から教えてもらう特別な時間であり出来事だったんですなあ。史緒佳さん、チクチクと嫌味言いながらなんだけれど全然ものいい嫌らしくないし、今回なんか化粧品など試供品とか言ってたけれど何気に芹のために買い揃えてたものなんですよね。こう、度々芹の心をずきゅんと射抜くような心遣いや優しさを垣間見せてくるものだから……ちょっと皇臥くんよ、嫁さんのハートキャッチ、明らかに自分の母親に負けてるんですけど!
ついに、芹から「告白」された! と思ったら、皇臥くんじゃなくて「私、お義母さん大好き」ですもんねえ。ご愁傷様です、旦那さん。
出張から帰ってきたら妙に嫁が懐いてきて、パニクって恐慌状態に陥っている史緒佳さんも、なんというか皇臥の母親らしくて、なんか安心しましたけれど。このお義母さんほんと癒し系ですわ。
いやいや、皇臥くんの方も本人まったく自覚ないですけれど、ちゃんと芹ちゃんから意識されだしているので、日々の努力を怠らないように。なんか色々と駄目っぽいけれど。

しかし、降霊会だの自称霊能者だのと本物の陰陽師が関わると、詐欺事件をひっくり返すみたいな話になってしまうものですけれど、今回はあちらもなんだかんだと詐欺師でも偽物でもなく、幽霊の存在も実在していたので、なんか真面目に男の子の幽霊の未練を晴らすためにみんなでその方法を探し回る、というある意味真っ当な除霊になってて、逆に真っ当な除霊というか地縛霊を成仏させる話というのは新鮮でありました。
薙子さんたちの方も色々と裏はあったものの、真摯なお仕事っぷりでかつての身内が落ちぶれて、みたいなことになっていなくて良かったです。というか、薙子さん北御門に来た時の事情もさることながら、北御門を出たあとの来歴もパワフルというかバイタリティ溢れるというか。年の離れた弟くんに対して、姉というよりも母親のように守ってきたのが伝わってくる話ばかりで、若いみそらで大変だったろうに。そういう所も、同じく苦労してきた芹としては共感するところだったのかもしれません。
薙子さん本人よりも、弟の影臣くんの方が北御門に対して隔意を持っていたようだけれど、妙に八城と意気投合してましたし、なんというかなんだかんだと久々に身内と再会したときのぎこちなさと段々と昔みたいに打ち解ける和やかさみたいなのが相俟ってる上に芹と弟子くん、薙子さんの弟くんという、それまで面識がなかった者が介在してそこに相手側に対する複雑な思いなんかも絡んでいるが故の、昔通りとは違うお互いに家庭を持った同士の新しい関係、みたいなのってこれもまた一つの親戚づきあいという感じなんですかねえ。
そして、今回も伊周のレッサーパンダの存在感、パねえかったですw

シリーズ感想