ロード・エルメロイII世の事件簿 5 「case.魔眼蒐集列車(下)」 (TYPE-MOON BOOKS)

【ロード・エルメロイII世の事件簿 5.case.魔眼蒐集列車(下)】 三田誠/ 坂本 みねぢ TYPE-MOON BOOKS

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魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)で起きた殺人事件は、誰も思いがけない方向へと展開した。新たな戦士の襲撃によってロード・エルメロイII世は倒れ、かの列車もまた大いなる脅威に遭遇する。この危地を脱するため、グレイは過去視の魔眼を持つ代行者カラボー、スパイを自称する少女イヴェットと協力することになるが……。暴かれる魔眼。謎の英霊と死徒の落とし子。天体科(アニムスフィア)の一族たるオルガマリーが気づいた秘密とは。複雑にもつれあった事件の中で、ついに魔眼オークションが開催される――!

死徒ってそう言えばFate世界では月姫世界よりも世界の在り方的な見地から弱体化している、という話でしたっけ。だから、いわゆる死徒二十七祖という呼称も存在せず、月姫世界に居た二十七祖に該当する死徒は存在するものの、二十七祖みたいな括りでは呼ばれていない、と。
それでも、アインナッシュは仔ですらわりと外縁の方ですらどえらいピンチに陥るほどの魔域とかしているわけで、弱体化といっても本当に相対的なものなのだろう。
ってか、魔眼蒐集列車の支配人である死徒って、リタ・ロズィーアンっぽいのか。何気にこの魔眼蒐集列車編って、二十七祖相当の二人が登場……って、両方とも当人は出てないのか。
それでも、クラス的にあれだけれど本物のサーヴァントまで登場し、オルガマリーやカウルスくんのような他の作品から出張ってくるキャラもあり、代行者まで登場し、と何気に盛りだくさんなんだよなあ。
某神父とは関係ないけれど、エルメロイ先生の親友を自称するメルヴィン・ウェインズはあれ愉悦部っぽいし。ただ某神父が生真面目ゆえに性癖を拗らせてしまったのに比べると、こっちは軽佻浮薄であるがゆえに自分の性癖について深刻かつ真面目になりすぎず、適度な楽しみ方に終始しているように見える。人でなしではあるんだけれど、自分から率先してやらかすのではなくあくまで傍観に徹しているようだし、屈折はしていてもウェイバーに友情を以って接している、というのは嘘じゃあないんだろうな、とは思えるんですよね。
まあ魔術師というのは多かれ少なかれ屈折しているものですが、そうなるとやはりウェイバーくんことロード・エルメロイ二世先生は魔術師としては素直なんですなあ。歪んでないとは言わないまでも、歪みに対してさえも率直というべきか。
憧れのイスカンダルへの彼のこだわり、執着というものはウェイバー・ベルベットという少年の人生そのものを大きく歪めてしまったのは間違いないところなのですけれど、面白いことにその歪みは固着することなく、執着が魂を濁すまでに至らず、あそこまで偏屈に変貌してしまいながらもこの人、常に直面してきたことに対して物事を素直に受け止めて、自分自身を修正し続けているのである。
そのイスカンダルの拘りそのものも、歪み凝り固まった状態におかずにそのスタンスを更新し続けている。
もし彼がもっとイスカンダルに対して凝り固まっていたら、ヘファイスティオンとの出会いはもっと破滅的なものになっていたのではないだろうか。お互いに相手を決して認めることが叶わず、絶対否定の応酬と成りかねなかった。
その意味では、ヘファイスティオンはまさに凝り固まったからこそ、サーヴァントとしてこの度呼び出されてしまった、とも言えるのかもしれないですけれど。いや、彼女の場合、生前からずいぶんと拗らせていたみたいだから、サーヴァント云々は関係ないかも知らん。
イスカンダル麾下の中でも孤立しまくってたっぽいからなあ。作中ではその役割故に陣営の中でも特殊な立ち位置だった、という風に語られているけれど、そういう問題じゃないよね。
さて、本作は大胆不敵に大きな括りで囲ってしまうなら探偵ミステリー枠に突っ込めるわけですけれど、シリーズ化した探偵ミステリーものでは途中から探偵のライバル役が出てくるもの。黒幕であり探偵に勝る智者であり、暗躍する繰り手であり、盤上の駒を動かすプレイヤー。
そうした存在が、ついにこのシリーズにも登場してきたわけで、さてもさても、その正体はともかくとして、登場する場所の意表のつき方たるやさすが、というべきかまったく想像していないところからでした。
というか、犯人が予想外過ぎた!
さすがは登場人物が総じて魔術師ばっかり、というミステリーである。もちろん、論理的なルールが破綻するような展開は絶対にないにしろ、その施行されているルールがどのようなものか気付かされなければ、まず察することは不可能に近い。今回の場合は、メタ的な意味で予断してしまう部分があっただけに、そこを極めて鋭く突かれてしまった、という意味でも完全に白旗でした。まったく気づかなかった、という意味でも。
ただ、黒幕敵役悪役が出てきてくれた、と言っても向き合うべきはそれではない。エルメロイ先生にしてもグレイにしても、敵が出てきたからこそ向き合うはより自分そのものになる。
在り方を問われる、というべきか。
その際に視線を向けるのは、敵ではなく自分であり、同時にそれは師であり弟子である。結局、自分ひとりでは完結できず、他者を以て自らに影響を及ぼす。それを成長とも呼ぶのだろう。
グレイはそもそも、魔術師の師としてエルメロイ先生を師事しているのではない。じゃあ、なんの内弟子をやっているのか、というとそのへんはっきりと明言されてはいなかったはず。なぜ、彼の側にいるのか。彼に引き取られてときの事情と理由は存在しても、それが現在もそのままの状態、あるいは停滞したまま、ではないんですよね。
今回もまた、師の葛藤とその克服を見て、改めて自らの在り方を問いかけ、答えを手繰り寄せていくグレイ。そんな彼女を見ていると、エルメロイ先生が決して魔術の師として特筆すべき能力を持っている、だけではないことを噛みしめることができるんじゃないだろうか。
ただ、力を伸ばすだけの先生なら、弟子みんなからこれだけ慕われるものでもないだろうしねえ。それも、魔術師である弟子たちに。
しかし、円卓議決ってプロトアーサーの聖剣だけじゃなくて、こっちの聖槍にも円卓議決の封印存在するんだ。なんだかんだと、必殺技の詠唱は燃えます、燃えます。

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