七つの魔剣が支配する (電撃文庫)

【七つの魔剣が支配する】 宇野朴人/ミユキ ルリア 電撃文庫

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春―。名門キンバリー魔法学校に、今年も新入生がやってくる。黒いローブを身に纏い、腰に白杖と杖剣を一振りずつ。胸には誇りと使命を秘めて。そんな魔法使いの卵たちを迎えるのは、桜の舞う満開街道と魔法生物たちのパレード。が、希望に胸躍らせるのも束の間。キンバリーの孕む数々の脅威が彼らに襲い掛かる。気まぐれに生徒を飲み込む地下迷宮、怪物じみた上級生たち、亜人種の人権を巡る派閥の対立―。そんな魔境を仲間と生き抜く中、オリバーは一人の少女と縁を結ぶ。腰に日本刀を提げたサムライ少女―ナナオ。二人の魔剣を巡る物語が、今、始まる。
ひゃあ、ひゃあ、ひゃあ。
またごっついのが来よったでぇ。
ああしかし、痛恨である。アルデラミン完結巻来てるのに、まだ読んでない。最終巻どころか第二部から積んだままなのである。そうこうしているうちに新シリーズが来てしまったじゃないですか。
とはいえ、そっち読み終えるまでこっちを待てというのも酷な話。なので、そろりと新作に手を出してしまったのでした。
ひゃあー。
まずもって地獄である。キンバリー魔法学園。学園モノとなるとそれは青き春の物語であるはずなのだけれど、控えめに言ってここは地獄だ。あとがきにもこうある。「魔法使いのための地獄である」と。無論、望んで地獄に落ちてく度し難い者どものための楽園だ。
卒業までに二割が落命するというとんでもない場所、と入学式では公に宣言されているけれど……いやいやいや、ちょっと待って? これ二割で済むの? 逆に八割は死んでない? 魔法使いは頑丈なので、多少内臓引きずり出されたり体半分になりかけたり、半身ぺちゃんこになっても治療が間に合えばなかなか死なないらしいけれど、それでも死ぬだろう、という難易度が一年生から降り掛かってくる。難易度というよりも理不尽が降り掛かってくる、というべきか。先輩がたが言うところでは四年生くらいまでは大丈夫だよー、とのことだけれど、大丈夫でこれってどうなんだろう。
そもそも……出てくる先輩、四年生時点でほぼまともな人いないんですけれど。在学七年生まであって、上にまだ5・6・7年生がいるはずなのに4年生でこれである。能力的に図抜けているとか化物じみている、という話ではない。
そもそも「人」じゃなくなってるんですけど!?
狂気の沙汰が当たり前、ただ人間やっているだけでは生きていけない、目的を達せない、そも魔法使いとは人外の領域の生物である、というのを地で行くような人外魔境。それがこのキンバリー魔法学園。これで、なんで表向き普通に授業してハリー・ポッターの魔法学園のごとく日々が過ごされていくのか、真剣に理解できない。平穏と狂気が当たり前のように並存しているのである。
まだ入学したばかりの一年生たちはその意味では正しく人間である。魔法使いであってもその在りようは人間であり、一般的な学生であり、普通に笑って泣いて喧嘩して、自分の中の善性と負の感情のバランスに苦しみながら、人間関係と将来への展望に悩み楽しみ、学校の生活を謳歌する少年少女たちである。
であるがゆえに、上級生というその末路なのか進化なのか、未来の姿形をあからさまに目の前に並べられると、これがああなっていく、という明らかな実証を前にして怖気を震うしかない。
そして、その兆候は皆にあるのだ。
この物語のメインキャラクターとなるだろう六人の少年少女たち。アルデラミンでもそうだったけれど、5,6人の少年少女たちを一つのグループとしてまとめて、物語の中核に放り込んでそのグループのキャラたちを以って物語の推進力としていくの、宇野さんの真骨頂になったなあ。六人という数はけっこう多いはずなんだけれど、この一巻で初対面の六人の関係を醸成し凝縮し踏み込ませて、一気に仕上げてしまった手腕には感嘆を否めない。この子などんな娘、どんな少年か、というのを一気に見せるだけではなく、掘り下げて初登場時点から早速成長させるわ、発展させるわ、どん詰まりからすくい上げるわ、なんちゅうか数巻分の密度があったんじゃないか、という進展を見せてるんですよね。それも駆け足じゃなく、地に足をつけた、どころかグイグイと下に中に掘り下げる形で。
それをして、前提である。それをして、スタート地点へとようやく辿り着く、という体なのである。
スタート地点でこれほどの規模と密度の舞台設置をしてしまうというのは、一体全体トータルではどれほどのスケールを臨んでいるのか。想像するだけで身震いしてくる。
そして何より構成である。
今回、幾つものある種のネガティブな感情、魂が堕するに足る停滞や狂騒を、すごく丁寧に解きほぐして、解き放ってるんですよね。善性と真っ当なロジック、そして心意気と素朴な格好の良さ、真心や誠心、人生を賭すに足る友情、そういう心地よい正の在り方によってそのまま放っておけば、むごたらしい末路、或いは人が堕ちるべきではない魔の領域へと転げ落ちてしまっただろう幾つかの心や魂を、体当たりでぶつかって、すくい上げている。或いは、自覚を促し、自力で再生するのを支えている。
とても良い、気持ちの良い、良き方へと転がる回転を促す物語になっているのです。地獄のような学園で、しかしこの善き良き仲間たちが力を合わせて乗り越えていく、そんな若者たちの陽の光に照らされた物語……。
と、見せておいてこれである。
これである。
一転反転瞬転変転。転転転と転がって、見上げてみればそこに飾るは凄まじきまでの「暗黒面」。
凄絶なまでの漆黒暗座の未来絵図。真っ当ならざる奈落の魔剣。
果たしてこれは真っ当な人間からは程遠い。どころか、人であることを踏み外すことが魔法使いの在りようとするならば、正しく狂人たちの物語なのである。7年だろうと教師だろうと、4年生だろうと、魔法使いであるならば、すなわちその誰もが正しい資質を持っている。その資質を活かすものだけが、この地獄で生き残れる。この地獄を堪能できる楽しめる。ここを、楽園と興じれる。
それは、新入生だとて変わらない。入りたてピチピチの一年生だとて、何一つ変わらない。
何一つとて変わらない。
魔法使いである以上、彼らもまた「人でなし」たる資質持ちの同類なのだから。

ひゃあ、ひゃあ、ひゃあ。
全く以て、ゾクゾクするほど愉しい愉しい地獄の始まりだ。
七つの魔剣が支配する、阿鼻叫喚の楽園の始まりだ。


宇野朴人作品感想