天才王子の赤字国家再生術2~そうだ、売国しよう~ (GA文庫)

【天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~ 2】 鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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「私と一緒に帝国を奪りませんか?」
次代の名君として臣民に慕われつつ、楽隠居を目指して日々売国を画策する小国ナトラの王太子ウェイン。
僅かな手勢で隣国との戦争に勝利し、その名を内外に響かせた彼のもとに突然舞い込んだのは、後継争いに揺れる帝国の皇女ロウェルミナとの縁談話だった!?
うますぎる話に警戒するウェインだったが、周囲は帝国との関係が深まるとお祭り騒ぎ。しかも非公式のお見合いに訪れた皇女から提案されたのは、野望に溢れたもので――。
「超断りてえええええええええ! 」
天才王子による七転八倒な弱小国家運営譚第二章、ここに開幕!
ううん、面白いよう、面白いよう!
以前、帝国に身分を隠して留学していた件、多少のコネの取得や帝国の内実の情報収集、制度などの学習なんていう当たり前の成果とは異なる、でっかい伏線が仕込まれてるとは考えていましたけれど、この二巻で早速皇女ロウェルミナとの縁という形で打ち込んできました。ただ、このロウェルミナ皇女ことロワが、ただのヒロイン、ただの外交上の足がかりでは全然収まらないポテンシャルの持ち主だったんですよね。良い意味での刺激的なキャラクターでした。
ニニムなんか、ロワとウェイン王子って似たもの同士と評していて、確かに性格のネジ曲がり方や裏表の激しさとか似てるんですけれど、ニニムが想定していないレベルでこの二人ってそっくりなんですよね。
もっとも、この二人が似てるのって、元の素養はあったんだろうけれど、ロワの方がウェインのマネをしている、或いは大きく感化されたというところがあると思うんですよね。
だからこそ、ロワにはウェインの秘めたる目的を察することができたんだろうし、なんていうんでしょうね、自分の一番の望みを自分のために費やす生き方を選べたんじゃないでしょうか。
ロワやウェインにとって、国とは愛し守るものでありながらもそれに囚われていない。
皇帝になりたいという野心、のんびり悠々自適に暮らしたいという野心に邁進しながら、そのためにそれ以外のすべてを捨て去ろう、なんて全然思っていない。
二人共、多くを取りこぼさないようにしながら、でも一方で世界の在り様を壊しかねない大きな変化をもたらそうとしている。それは、とてもとても些細な願いを叶えるためで、そのために二人共人知れず、凄まじい戦いに挑んでいる。
それは、価値観や常識、という社会の根幹を根こそぎぶち壊そうという戦いだ。
ただ一人を余すことなく幸せにするためだけの戦いだ。それによって、自分も幸せになれる、からこその戦いだ。
だから、ロワとウェインは同志であり共犯者でもあるのだろう。時として、お互いを利用しあい、ときに蹴っ飛ばしあい、大迷惑を押し付けあったりする、でも余裕があれば助け合い、そして最終目標はとても似通っている、そんな同じ方向に肩寄せあってぶつかり合い戯言をぶつけ合って、手を握りあいながら進み続ける、そんな二人なのである。
というのは、ロワの理想なんでしょうかね。現実として、皇女はまだ彼の傍らに肩を並べられずに悔しがり歯噛みしながら、前を行く彼の背に頬を紅潮させながら目をキラキラさせて、懸命に追いすがっている、といったところか。
人が当たり前のものとして受け止めていたものを、ぶち壊してその先を手に入れようとしているロワの意志と願いをニニムは知っている。
ニニムの想いは尊いものだ。彼女の従者としての覚悟は透徹としていて美しいとすら言えるかも知れない。ウェインの妹姫にニニムは自分のお義姉さまになると思っていた、と告げられた時の決然とした宣言、そしてウェインの唯一無二の心臓であり続けられることへの誇りと喜びはいっそ神聖とすら言えただろう。
決して結ばれることのない、しかし誰にも引き裂かれない絶対不可侵の主従の絆。それは、ニニムにとって揺らぐことのない最善にして至上、完全なる幸福な在り方だったのだ。
既存の価値観、常識のなかで折り合った、たどり着ける最高の高みであったのだろう。
ロワが、そんな価値観、常識を越えた先を目指していると知るまでは。いや、そんな彼女の原動力となっているのが、被差別民である自分と王族であるウェインの二人の関係への憧れにあると知るまでは。
ニニムの心情は語られていない。でも、ロワの告白を聞いたあとの彼女の沈思には彼女の揺らぎを感じるのだ。
果たして、ロワが想像したようにウェインが目論んでいるものを、ニニムが気づいているかどうかはわからない。

ニニムの心臓の誓いは、ある意味停滞ではなかろうか。主君ウェインが望む世界を作り上げるための計画に、彼女の在り方はただ立ち止まったまま見送っているだけではないか。
ロワは、必死についていこうとしているのに。ロワはウェインだけを見ているのではなく、ニニム自身も一緒にと望んで、憧れて、そのために邁進しているのに。
彼女は現状に満足して、完結してしまっているんじゃなかろうか。

ロワの告白にニニムが察するものがあったかはわからない。あのお茶会のときにロワは、この件について探りを入れていたようだけれど。
わからないけれど、でもロワが帰ったあとのニニムの沈思は、繰り返しになるけれど、あの神聖な宣誓への揺らぎに思えてしまうんですよね。
それほどの影響を与えただけでも、ロワというヒロインの作用はとてつもないものでした。
もちろんそれだけじゃなく、直接の彼女……取り澄ました顔をさいごまで崩さずにキャラ保ってたのに、ニニムに突かれただけであっさり素の顔を見せてしまったところなんぞ、可愛いなんてものじゃなかったですし。あれで、あの告白ですもんね。あれをウェインじゃなくて、ニニムにある意味直接言っちゃうところなんぞ、かなりズルいですよ。あそこらへんで、皇女の本音にキュンキュンさせられてしまいましたし、ちゃんとあの二人をセットで、とか自分も入れてもらいたいとか、健気というか可愛げありまくりというか、色々とたまらんでしたし。ニニム好きすぎるでしょう、この人。
だからこそ、ロワだったからこそ、彼女のあの告白だったからこそ、ニニムの揺らぎの物思いだったように思うのです。
小国の王子が国際的な動乱を前に表向きな快刀乱麻に、実際は顔芸しまくりながら半泣きの綱渡りで乗り切って、動乱の主役へと立ち上っていく、という謀略戦記的なドラスティックな展開も非常に面白い作品なのですが、個人個人の関係や心情にしっかり踏み込んだ描写もこうしてみるととても丁寧に掘り下げて、その上で激しく動かしてきていて、期待していた以上に面白い話になってきました。
いやいや、あのウェインとロワのお互いに振り回し合いながら、凄まじい読み合いと駆け引きを繰り広げて主導権争いをしているところに、バカのバカゆえのあまりにも予想外の想像の斜め下を行く展開に、計画が全部盛大にぶち壊しになって、王子と皇女の稀代の策士二人が白目剥いてひっくり返るような有様になってしまうところとか、もう笑うしかなくてほんとに爆笑ものの面白さでしたよ。
現実は小説よりも奇なり。バカは本当に何しでかすかわからない、を地で行く展開で面白かったー。想定通りいかないところからの、カバーリングにアドリブでの謀略立案能力が、この王子並外れているのを思い知らされた形ですけれど。あそこまで思惑外されてえらいことになったところからの立て直し、まさに神がかってましたし。
皇女も能力的には引けをとってないのですけれど、彼女の場合大国の皇女でありながらも、後ろ盾がなくて自前の戦力が殆どない徒手空拳、というところで小国なりとも一国の王子で摂政で自国の組織を自由に使えるアンド情報収集の分野で極めて優れた組織を抱えている、というアドバンテージが差をつけた感があります。もっとも、下手な手を打たずにさっさとウェインと一蓮托生になってしまうあたりに皇女の強かさを見ますけれど。
んで、ここで突き放さずに留学時代の約束をしれっと守ってるあたりに、王子のイケメン力が見てとれてしまうんですよねえ。そりゃあねえ、ロワもそんなんされたらねえ。
色んな意味でロワが持っていってしまった感がありますので、ニニムもちょいとこれは考えどころじゃないでしょうか。ウェイン王子にとってニニムの存在が絶対であることは変わらないだけに。
ある意味安穏とできるからこそ、現状とどう向き合うのか。
無事に出る第三巻は、件の差別が激しい大陸西側が中心となる話のようですし、なおさらに注目です。

1巻感想