【ファイフステル・サーガ 2.再臨の魔王と公国の動乱】 師走トオル/有坂 あこ 富士見ファンタジア文庫

Amazon
Kindle B☆W

「許せないわ。わたしたちの結婚式であなたを殺すなんて」
フライスラント軍の撃退に成功したカレルだが、その武勲とセシリアとの結婚を快く思わない何者かの暗殺が計画される。
「こうなったら未来を変えるべく行動するしかない」
犯人の手がかりを求めてカレルはドワーフの国へ向かうが、黒幕の策略はすでに二重三重に仕掛けられていた!そして公国に広がる動乱は、二人の英雄を引き合わせることに!
「カレル、おまえにはせいぜい苦労してもらうとしよう。なに、少しぐらいなら手伝ってやる」
カレルとヴェッセルの邂逅は歴史を大きく動かす―!
自分が死ぬ未来を夢で見る、ってここまで有用なのか。毎晩のように自分の死を体験しなくてはならない、というデメリットがとてつもなくデカイのだけれど、それさえ耐えれば自分が死ぬ場面を通じて今、自分がどのように狙われているか、というのは場合によっては相手の陰謀が動き出した途端にカウンターに動き出すことが出来る、ということなので相手からしたらたまったもんじゃないんですよねえ。
普通に考えたらどう転んでも失敗しないような手を打ったにも関わらず、陰謀をひっくり返されたフィクトル総督からすれば、なんでやねん!? となるのもよくわかる。
でも、かと言ってカレルの方だって余裕綽々とは程遠かったんですよね。自分が結婚式で毒殺される、という死因はわかっても犯人はわからないし、辛うじてわかる情報から真実を手繰っていくしかない。実際、カレルが想定していたよりも周辺の状況は圧倒的に悪かったわけですしね。事前にいくつもの陰謀の「起こり」を潰せたものの、察知できなかったものも含めて過半の窮地は起こってから対処しなければならなかったわけで、本当に綱渡りもいいところ。偶然ダイス目が良かったような「幸い」もあったわけで、カレル自身これはもう無理だぁぁ!と頭抱えるような窮地だったんですよね。
よくまあ捌けたものである。運も能力も全力全開に振り絞りきって出涸らしも出ません、というくらいの必死の立ち回りでしたから、いやもうほんと頑張ったねえ、と背中を擦ってあげたくなるほどでした。セシリア攫われたときにはもう終わった、と想いましたもんね。これどう挽回するんだよ、て。
これだけの頑張り踏ん張りど根性を、カレルも世界を救うため、なんて曖昧模糊とした原動力ではとても支えきれなかったでしょう。ここで彼が踏ん張れたのは、セシリアのため。一人の女の子を守るため、好きになってしまった娘と添い遂げるため、という男の子らしい原動力は好ましいものでした。男の子の寄って立つもの、というのはそれくらいが一番パワー出るんですよねえ。
それでも、どうしても届かなかったところを、ひょいと現れたヴィセルが助けてくれたのには驚きでしたけれど。あれ、この二人の邂逅ってこんなのでいいの? というくらい「ひょい」とカレルの前に現れましたからねえ。まあ、このときカレル進退窮まっていたのを思うと、まさに救い主だったわけですけれど。
ヴィセルって、性格悪いし黒幕気取っている通りの稀代の策謀家なんだけれど、根本的なところでシスコンというか理想家の妹女王マリアンにダダ甘でだったり、頭おかしいメイドのイエッタに振り回されてわりと涙目になってる頻度が多かったり、なにやらお兄様の信頼度が絶大になってるマリアン女王がかなり無茶ぶりしてきそうでそれに振り回されそうだったり、私人の部分でかなりポンコツ風味が漂ってる人なんで、この人カッコつけててもなんか微笑ましく見えてしまうんですよね。
あ、ヴィセルさんがまた黒幕気取ってるー、みたいな。
カレルくんにはせいぜい苦労してもらうよ、なんてキメ顔でうそぶいてる直後にめっさんこ周囲から寄ってたかって苦労背負わせらてヒーヒー言わされる未来像を予告されちゃってたりとか、何気に作者からも愛されてるんじゃないだろうか、この人。
かなり印象が変わったのが、コルネリウス隊長で戦うことしか興味のないバトルジャンキーという、一巻での扱いにくそうな描写に、便利は便利だけれど寡黙だし性格尖りすぎてるしキャラとしては動かしづらそうだなあ、と思ったらまさかの子供好き、という要素を一つ盛り込んだだけでガラッとキャラの印象そのものをひっくり返してくれましたからね。助けた子供に懐かれてる隊長に和んでしまったw
予告されていた灰エルフ編は三巻へ持ち越し。一巻のラストで意味深な登場した灰エルフの人、結局出番なかったしw でも、今回のこの二巻で既存のキャラの掘り下げと関係の熟成がかなり進んだので、決して無駄ではなかったのではないでしょうか。
政略結婚というはじまりになってしまったカレルとセシリアですけれど、今回の一件を通じて本当に信頼しあい心通じ合う、というよりもお互いを求めあえる、ああこの人のこと好きだ、と実感しあえる関係になれたわけで、こういう人間関係の収斂は見ていても味わい深いです。特に、主人公とヒロインともなればなおさらに。

1巻感想