【魔術の流儀の血風録(ノワール・ルージュ)】 北元あきの/POKImari 講談社ラノベ文庫

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戦争末期の壮大な魔術実験の結果、世界でもっとも魔術師たちが跳梁跋扈する楽園――マギウス・ヘイヴンとなった東京。
その治安を守るために作られた、特別高等魔術警察の警察官――すなわち特高魔術師たちは、魔術師が起こす事件や犯罪に日々立ち向かっている。
特高魔術師のひとり・綾瀬覚馬は、まだ高校生でありながら、〈人斬り覚馬〉の異名をもつ凄腕の魔術師として活動していた。
そんな中、北米系の魔術師ギルドから、アッシュという少女が人材交流としてやってくる。
覚馬やその同僚の少女・穂積たちと、なごやかな日常生活を送るアッシュ。
だが、おりしも街に連続魔術師殺し事件が起きる。
そして、その犯人の姿は、アッシュに酷似していて……!?
ほぼほぼ香港ノワール!!
わかっていて期待してた通りだけど、見事なまでに暗黒小説!
東京は特に大きな組織である三大魔術ギルドに仕切られていて、これがほぼマフィア。特高はいわば小規模の抗争を繰り広げられながら一定の安定を見せている暗黒街の秩序のバランスを取るバランサーであると同時に、三大ギルドの一つである八咫烏から多くの人員を出してもらっている関係で、いわば縄をつけられた組織であり、一方でその首輪から抜け出すのを虎視眈々と狙っている獣でもある。警察とは名ばかりの、この街の第四戦力なのである。
故に、上では恫喝と暴力が飛び交うマフィア特有の「政治」が交わされ、その鉄砲玉として魔術師たちが死命を散らす。まさに、血風録の様相を呈している。
主人公が「人斬り」なんて異名を持って名を知らしめている時点で、お察しなわけですが。
警察モノ書きたかった、ざっくりいうと警察モノです、ってあとがきでは主張してますけれど、警察、警察とは! 新選組とかも広義では警察ですか!?
特別高等魔術警察公安打撃一課とか看板背負って、腰には佩刀、斬り捨て御免で一歩間違えれば街全体を巻き込む大抗争が起こりかねない局面へと文字通り切り込んでいく、とかもうアレじゃないですか。
三大ギルドの幹部と特高の上司が定期的に雀卓囲んで麻雀打つ「麻雀会」とか、ギスギスを通り越して半分殺し合いになりかけの恫喝の応酬が挨拶代わりに繰り広げられてて、ここどこのロアナプラ?って感じで怖いのなんの。
当人だけじゃなく、関係者親族まとめて皆殺し、が当たり前の世界観。隙あらば、或いは筋と命令あらば警官相手だろうと路地裏での闇討ちなど日常茶飯事。それを捌いてこそ一端の公安打撃課。ただし政治的に足切りして遣い潰せるように正式な職員ではなく、実習生扱いというデロデロの使い捨て要員。
殺伐としすぎてて、ワクワクしてきます。
相変わらず、この北元さんの描くノワールっぷりは際立っていて、お肌がピリピリしてきます。
そんな殺伐として、人が人として扱われない世界の中で、主人公たちが何によって立っているのか。なにをして、人間として生きているのか、というのが血の絆なんですよね。
それが、北元作品では毎度のごとく幼馴染との比翼の関係であり、しかし生きるために互いに血塗れも汚れも厭わぬ血みどろの、血盟ともいうべき絆なのであります。
本作は、いわばその血盟を失ってしまった死人と、路地裏に打ち捨てられたゴミ屑でありながら血盟ゆえに人であることを保っているものとの、相容れぬ戦いだったのでしょう。お互いをこの上なく理解し、親しみながら、その一点……生きているか死んでいるかの違いによって袂を分かたれなくてはならなかったものたちの相克。
少々勿体なかったのは、アッシュという少女との関わり方が世界観や主人公やアッシュ自身が立たされてた環境の重さに対して、踏み込みきれずに中途半端になってしまったところですか。
敵さんと覚馬とのつながりに対して、アッシュとのそれは釣り合いが取れていたのか。アッシュを護り助けて、その先へと指針を指し示すのは覚馬のキャラクターからして歪みのないものだったのでしょうけれど、如何せん知り合って仲良くなって友達になって、それ以上のナニカがもう一つ足りていなかった気がします。
これは、覚馬に対しての血盟の対象であるところの、幼馴染の穂積に関してもいささかあるところで。穂積にとっての覚馬と、覚馬にとっての穂積の存在というものは、本人同士の気安い関係とは裏腹の、二人のとっての人間としての証であり核であり芯のようなもので、神聖不可侵なんですよね。
しかし、そうだなー、この二人の関係って先に書いた血盟、には至ってないんですよね。お互いに置かれた立場故に、覚馬は彼女から背を向け、穂積も覚馬に遠慮してしまっている。永遠を誓えるほどにお互いに魅入られながら、本当に唯一無二になることを怖れている。それを認めてしまえば、この業界魔術結社とマフィアの暗部をハイブリッドさせたようなところなので、まず間違いなく血の雨が振り、死ぬまで刺客に追われ続けることになりかねない。その愛を受け取ることは、彼我の一族郎党一切と切り結ぶ、まさに屍山血河を築く覚悟が必要で、それを穂積に歩ませる決意が彼の中にはまだ出来ていない。
そういう血盟以前の段階、瀬戸際でお互い決壊寸前の気持ちを持て余している、という部分を触りだけ垣間見せて、あとアッシュの事件が中心だったので深く穂積の方には容量を取れず、こっちも結局それほど踏み込めず、というところに落ち着いてしまった感じなんですよね。
アクションのキレよし、敵役との哀切と無情が漂う乾いた情念の交接もまた、薄汚れた夜の雰囲気が深々と流れていて、雰囲気の良さはとびっきりだったのですけれど、以前の作品に比べてヒロインとの情感の密度がもうちょい欲しかったなあ、というところでありました。
そういうのは、まさに続編からどんどん深みにハマる形で泥沼に追い込まれていくでしょうから、十分期待し得るところですねえ、いやはや。

北元あきの作品感想