【ゴブリンスレイヤー 5】  蝸牛 くも/神奈月 昇 GA文庫

Amazon
Kindle B☆W

「…………取り戻さないと」
「……何を、ですかな」
「すべてを。喪った物を、すべて」
ゴブリン退治から消息を絶った令嬢剣士を探して欲しい――剣の乙女の依頼を受けて、北方の雪山に向かうゴブリンスレイヤーたち一行。

しかし、襲撃される寒村、謎の礼拝堂、今回のゴブリンの群れに違和感を覚えるゴブリンスレイヤー。
「……学習した、だと?」

仲間の痛手を越えて洞窟探索を終えた一行は、あるものを見つける。
「外なる、智恵の神。覚知神……」
何者かに統率されたゴブリンの巣くう古代の砦にゴブリンスレイヤーたちが挑む!
蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー第5弾!
ゴブリンにも色々いるもので、種としてこれだけ多様性を有していて、成長の余地があるのならこれはこれで脅威ですよなあ。
今回のゴブリン。小鬼聖騎士か。これ、見方によっては「国」と呼ばれるに足るものを形成しようとしていたとも取れるわけで、果たして発見が遅れて放置が進んでしまっていたらどうなっていたのか。
もっとも、ゴブリンの社会生物としてのポテンシャルは、少なくともこの作品の世界観におけるゴブリンだと非常に低いので、とても高度な組織が複合して成り立つ国家なんぞ作る前に破綻してしまいそうだけれど。
運悪く、経験不足も相まってゴブリンの群れに蹂躙され消えてしまう初心者パーティーは珍しくなく、シリーズ冒頭の女神官が初めて所属したパーティーにはじまり、作中でもなんぼでもそんなのは出てくるのだけれど、今回登場した令嬢剣士はそのまま人間として壊され潰れて消えてしまうような人ではなかったわけだ。
その身と心に受けた傷を怒りと憎悪に転換し、復讐の鬼と化した令嬢剣士。その姿はまさにかつてのゴブリンスレイヤーに瓜二つ。そうなんだよなあ、かつてのゴブスレさんはゴブリン殺すゴブリン殺すしか言わないゴブリンを殺すためにだけ生きている破綻者であったのだけれど、今となっては隔世の感がある。それだけ、ゴブスレさん人らしくなってるんですよね。ゴブリンに執着しながらも、そこには狂気ではなく理性が宿り、その怒りと憎悪からもドロドロとした汚泥のようなものが拭い去られて、正しき怒り、みたいな感じへと変化していることが伺い知れる。
そんな風に彼を変えるに至ったのは、やはり今のパーティーメンバーたちなんですよね。女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶の四人、初登場時から変わらぬキャラクターなんだけれど、今回最初期ゴブスレさんモドキと化してしまっていた令嬢剣士と共に行動することになったことで余計に彼らの人間性が浮き彫りになった気がするんですよね。触れればすぐさま爆発する張り詰めた風船のような有様になっていた令嬢剣士への接し方と、それを見守る女神官とゴブスレさんの想いの汲み方を見ていると、「好漢」という言葉が思い浮かんでくるのです。心根に淀みのない、ほんと気持ちのいい人達なんだよなあ。ゴブスレさんが人間に戻されてしまったのもよく分かるというものです。
彼には牛飼娘や受付嬢など、変えるべき場所戻るべきところを司る娘さんたちがいたおかげで毎度人の世界には戻ってこれてはいましたけれど、ゴブリンを殺す現場においてはやはり狂気に身を浸していたはずです。そんな現場において人の温もりや打てば響くような粋を与え続けてくれる人たちが仲間として居続けてくれるという影響のどれほど大きかったことか。今や、ゴブリン退治ですら一人でやるのではなく、一人では出来ない皆の力を借りてやる方法を自然に優先的に考えるようになった、というだけでもそれが感じ取れるのではないでしょうか。
かつての初冒険の時のトラウマを乗り越えるように、甲斐甲斐しく令嬢剣士に接する女神官。彼女の押し付けがましくない優しさも相まって、人でなくなっていた令嬢剣士が人間の心、人間の在りようを取り戻していく様子には感慨深いものがありました。令嬢剣士のゴブリンに何もかもを奪われた、その象徴でもあったろう魔剣の奪還に、ゴブリンを殺す以外のところでゴブスレさんが優先して取り組んでくれたところなんぞ、この人の不器用な優しさが伝わってきて、いやあもうイイ人たちだなあ、としみじみと。
結構戦力的にも編成的にも令嬢剣士ってこのメンツの中でも良いハマり方をしそうなので、ちょくちょくでも再加入してくれても嬉しいなあ。何気に妖精弓手と女神官との女型優肇螢でうまくまとまれそうですし、男女比的にもバランスよさそう。

シリーズ感想