【六道先生の原稿は順調に遅れています 三】 峰守 ひろかず/榊 空也 富士見L文庫

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文芸編集者の滝川詠見は、作家にして妖怪の六道〓馬(そうま)を担当中。新刊発売に文学賞受賞と、場数を踏んだ二人には、新作の立ち上げもお手のもの―ということもなく、相変わらず原稿は遅れていた。そんな折、六道先生の書いた昭和回顧エッセイが評判に。それなら先生の半生を描いた自伝小説も面白いのでは、と新作企画が立ち上がる。さっそく縁の地へ取材に向かう詠見たちだったが、やがて六道先生の記憶にない“六道〓馬”の足跡が見つかって…?編集女子と妖怪作家の、怪奇×お仕事物語、集大成!?

これまで編集者と作家のパートナーシップを中心に描かれてきた本作ですけれど、改めて詠見の立場から編集者とは、という在り方を見つめ直すような第三巻にして完結編でした。
と言っても、編集者としてどう働いていくか、どう作家と接していくか、どうやって協力して作品を作り上げていくか、という部分についてはこれまで六道先生との共同作業の中で探り探り見つけ出していき手応えを得てきたものですから、むしろここからは「編集」という仕事の苦しみや意義、クリエイティブに携わる仕事でありながら自ら創造するわけではない立場に対するモヤッとした思いに、詠見が向き合うことになるお話でもあったわけです。
尊敬する別の出版社の先輩女編集者の、折からの出版不況からくる志を折られた無情な末路。詠見の趣味であったハンドメイドアクセサリーが講師の人から認められ、プロとして働かないかと誘われることで生じる、モノを創るということへの自らの関わり方への疑問。
小説家視点から、本を作る、物語を描き出す、小説家として働き社会と関わってく、という主題について描かれていく作品は多々ありますけれど、そんな自分に置き換えて描ける小説家のお話と違って、対面にいる編集者を主役とした作品、そして編集者の立場や視点から業界や小説家たちとの関わり方を描いた作品って、比べるとやっぱり少ないと思うんですよね。
そこからすると、本作は穏やかながらその辺徹底して編集者視点で描かれた物語で、その意味でも新鮮なものでした。
自伝的小説を書いていくことで、自分のアイデンティティそのものと向き合うことになり、存在意義と自分の相反する側面に直面し、自己そのものを揺るがすことになる六道先生に対して、これまで生きてきた「小説家六道馬」を全肯定し、その存在を証明し認めることができたのは、この場合女性としての滝川詠見ではなく、文芸編集者としての滝川詠見以外はなかったんでしょうね。
物語の中で、あくまでこの二人が作家と編集者という関係で在り続けたのは、進展がなかったというよりも、それこそが重要であったから、と考えるべきなのでしょう。
もっとも、そんな作家と編集者という関係の中でもプライベートとして醸成されていく気持ちの部分は当然存在していて、ここからどう変化していくか、進展していくか、発展していくかについては六道先生の決定的な変質も加わって、ご両者に応相談というところでしょう。
見たところ、むしろ詠見よりも六道先生の方にこそ多く意識する部分があるようで、早晩なんらかの変化はあるのではないでしょうか。
でも、世間一般的には六道先生って孫が居てもおかしくない年齢ということになっているので、表向きには老いらくからの関係になってしまうのかw

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