【常敗将軍、また敗れる 2】  北条新九郎/伊藤宗一 HJ文庫

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「あ、やっぱりティナじゃない」
突然そう声を掛けてきたのはティナと同じフードを被った小柄な人物。ティナだけはその声に聞き覚えがあった「初めまして。私はリィス・ヴァサームント。ティナの姉です」
姫将軍であるシャルナ、傭兵団長アイザッシュと共に常敗将軍ダーカスに付き従っていたティナだったが正に最悪の人物と出会ってしまった。
同じヴァサームント一族のリィス。生まれてから一度も勝ったことの無い腹違いの姉である。『常敗将軍』ダーカスを中心に繰り広げられる一大ファンタジー戦記第2弾!

ううー、これはやはり面白いぞー。
常に敗北し続ける傭兵将軍がなぜこうも名高く、伝説のごとく扱われ、多くの信頼を寄せられているのか。前回とはまた違う形で伝説の傭兵の在り方を見せつけられる物語でありました。
前回は十年近くかけた仕込みを駆使しての大どんでん返しで事前の準備は大事というのを思い知らされる内容ではあったのだけれど、今回はそういう仕込みは一切なく、急遽頼られて駆けつけた戦だけに数少ない手札を駆使して臨機応変に対応していくことになる。
当然、状況は想定外の連続であり、予定通りに進むことは非常に少ない。ダーカスにくっついてきたティナたちは、先の戦で初陣を飾ったもののまだまだ精神面は子供のまま。ダーカスは実質子供の引率をしながら、大規模な内乱における重要な戦線を最前線の移動から担うことになってしまった一都市の防衛を任されることになってしまったわけですけれど、相変わらずというかそもそもが勝てる戦ではないんですよね。戦力差は圧倒的、そもそもダーカスがいる場所は広がっている戦線の一部に過ぎず、そこの陥落は本来なら味方の側の軍の作戦に組み込まれてしまっているのである。
もはや、勝敗は度外視。最重要視すべきは、勝ち負けではない場所なのである。だからこそ、ダーカスという男にお鉢が回ってくるのですが。
面白いのは、前回もそうだったんですけれど、ダーカスは決してわざと負けるような真似はしてないんですよね。与えられた手札を駆使して、最善を尽くそうとしている。その最善の中には「勝利」はちゃんと存在しているのである。勝つに越したことはないんですよね。もちろん、勝ってしまうとまずい場合というのも状況いかんによってはあるのかもしれないけれど、ダーカスって意外とそういうリスクの高い真似はあんまり選択してないようなんだなあ。負けるにしても、味方の被害は最小限。犠牲や被害も計算のウチ、なんていう小賢しい真似はしていないのである。許容しなくてはならないと弁えながらも、それを良しとしてはおらず、全力を尽くしているのだ。
それでも、儘ならないのだけれど。
今回なんぞはかなり裁量を任されてはいたけれど、それでもティナの暴走や領主の怖じ気などで手足を縛られたような形での戦を強いられる羽目になりましたしね。
驚くべきは、これほど苦しい状況でありながらもダーカスが、連れていた子供たちに対して「教育」を欠かさないところなのでしょう。今も活躍している高名な傭兵の中には彼の直弟子、教え子というべき者も少なからずいる、というのも納得の指導で、身内からもおそらく若死にするだろうと目されていたティナが見識を得るに至ったのも、まだまだ未熟だったアイザッシュが指揮官として一皮剥けるお膳立てを丁寧に仕立てていたのを見ると、人を育てるのが上手い人なんだなあ、と。
彼の最大の武器というのが人脈だというのは前回から伝わってきていたところなんだけれど、彼の場合有名所にツテをつくるというよりも、無名だったりまだ若かったり埋没してたりしている人物を後押ししたり支えたり育てたりすることで、そういう人材を各界の一線に立てるように後押ししてるって感じなんですよねえ。そして、請われれば助けることを惜しまないから、ダーカスに対する信頼は絶対的なものになる。ある意味素晴らしく真っ当な、そして感嘆すべき人脈作りなんだよなあ。
今回の戦いも、振り返ってみれば見事なくらいに全戦全敗。片っ端から負けまくり。どれも予定通りに行かずに思わぬ要素によって敗戦を余儀なくされる展開。全部がダーカスの手のひらの上、なんてことは全然なくて、ひたすらダーカスは負けの対処を余儀なくされるのである。
にも関わらず、終わってみれば全部負けたにも関わらず、ダーカスが最初に依頼された内容はきっちりと達成しているのである。
終わってみれば、戦争そのものがひっくり返っている。
なにこれ、どうなってるの? と、全部つぶさに見てきたにも関わらず、魔法にかけられたかのような不思議な有様に。いや、一つ一つ事象を追っていくと何も不思議なことなどないんですよね。起こるべくして起こった顛末となっている。
だからこそ、まさにマジック。これこそが、常敗将軍の伝説なのである。ダーカス自身、決して突出した英雄的なキャラクターではなく、実直で優秀だけれど飛び抜けたところのない、結構俗っぽいおっさん、的な風情なのもなんかえ?なんでこうなったの? という感覚に拍車をかけてるんでしょうねえ。
戦略的目的を達成するのに、必ずしも戦場における勝敗は絶対的な意味を持っているわけではない。勝利自体が目的なのではなく、勝利によってもたらされる内容が重要なのだ。だから、その目的達成のために勝敗以外の要素が用いられるのなら、勝利は必須ではない。敗北しようと、目的が達成されるならそれで十分なのだ、というのがとても良くわかる物語でした。
ただ、繰り返しになるけれど、そのためにダーカスはわざと敗北しているわけではないし、犠牲を最初から計算しているわけでもない。自ら最前線に立って傷だらけになり、味方の死なせず被害を出さないようにすることを身を挺して証明し続けてもいるわけだ。だからこそ、どれだけ敗北を重ねようと一緒に戦った味方の信頼は揺るがないし、部下や兵卒からは慕われる。
軍師ではなく、将軍である所以がこのへんなんでしょうなあ。うんうん、面白かった。これはどんどん続けば続くほどうなぎのぼりに面白くなりそうな期待のシリーズであります。

一巻感想