【アルビレオ・スクランブル】 宇枝 聖/白兎うゆ 電撃文庫

Amazon
Kindle B☆W

そうして世界は救われた。だが友よ、君の戦いはまだ、終わっていない―。
人類とは相容れぬ極限環境に生じた、現生生物全ての天敵=「極限生物」との「戦役」を脱した世界。人類の英雄たる元・少年パイロット、若松疾風は…戦後あっさり引退して、対極限生物機関の食堂付き料理人に収まっていた。乗り越え切れぬ傷を抱え、それでも笑顔を取り戻した彼を、しかし世界は放ってはおかない。再来する新種の「極限生物」。新たな才能を示す、まだポンコツのパイロット候補生たち。そして何より、彼の引退を笑って見送り、最前線で戦い続ける愛すべき人。すべての状況が、彼の帰還を、待っている。傷を抱えた英雄がそれでも立ち上がるとき、全ての戦況は覆る―!?それは、伝説の続きを描くロボット・アクション。

大人の関係だー!
若松疾風と霞目吹雪の関係はもう何年も続いている恋人のもので、二人とも既にいい大人なものですから普通に同棲していらっしゃる。彼らが恋人になるまでの紆余曲折はいわゆる先の大戦までであらかた済んでいるようで、恋愛関係としてこれもうほぼ完成してるんですよね。今更揺らぐような不協和音はどこにも見当たらないし、成熟はしていても停滞はしていないのでなんていうんだろう、しっとりとした甘やかさで安定しているとでもいうのか。
こうなると、ぶっちゃけ余計な茶々が入る余地もないですね。垂井一美と刈巣まりえというなかなか愉快なポンコツパイロット候補者コンビと、疾風は関わることになるのですが見事なくらい教官役と生徒たちの関係に終始していて、これこの娘たちヒロインではないよなあ。
むしろ、このポンコツコンビは話の中ではもうひとりの主人公コンビ、という感じで作中の芯を担ってるんですよね。先の大戦の英雄であった吹雪と疾風は、吹雪の方は現役で現在もトップパイロットなんだけれど、どちらかというと話の外郭から大事なところを支えているような感じで、作品の中心というにはちと微妙なんだよなあ。
それは、ほぼほぼメインの視点で進むポンコツコンビも同様で、飛躍的にスキルアップはしているのだけれど、彼女らが所詮パイロット「候補生」というのは変わらず、ラスト近辺のかなり切羽詰った状況になっても、アル意味そんな戦力化できてない戦力を……投入せざるをえないことになっているだけで泥縄ではあるんだけれど、彼女らがメインになっていないという意味においては健全でも在り、話の盛り上がりの中心を担えてないという意味においては、主役としては少々役者不足でもある。
肝心の疾風は、英雄の復活、という要素はあるものの……うん、肝心の疾風の現役時代、吹雪たちが決戦に挑んだ先の大戦の情報がちょっと必要量足りてない感じなんですよね。だから、過去の英雄として今の人たちが色々な表情で語ってくれはするものの、いまいち実像が見えてこないせいか実感が伴わないんだよなあ。情報がつまみ食い状態になってて、抜けもたくさんあるものだから、過去の英雄の復活という盛り上がり要素に対する「溜め」が足りなくなってしまってて、ちょっとうーん、というところ。原型機云々の話も乏しいし、そこで喪われたものに対する疾風たちの感情についても概容ばかりが語られて、ツッコんだ部分が少ないから、彼らの想いというものがなかなか表層部分しか見えてこない。それらがいささかもったいなかった。
キャラクターの描き方や関係の描写、世界観や極限生物の設定、軍の即応体制の描き方とか現用兵器を扱う現役軍人たちの活躍など、一つ一つの要素は非常に味があって面白く、引き込まれるものがあたんだけれど、それらを総合的に一つの物語へと組み立てていくことに焦点みたいなものが生じなかったせいか、どこか全体的にふんわりととっ散らかって印象が薄らいでしまった感があります。
整理してキュッと絞って艶出ししたら見違えそうなんだけれどなあ。
なんか、ついつい問題点ばかり挙げてしまったんですが、そういう部分がついつい気になってしまうほどに「面白かった」んですよ。正直、あとちょっと噛み合わせがよかったらめちゃくちゃ面白くなりそうな気配というか雰囲気というか、感触がどこを見てもどこを読んでも敷き詰められていたようなものでして、あとこういうとっ散らかったところって書き続けていくと自然と整っていくところでもあるだけに、次回への期待感はかなりのものなんですよね。
二巻では、そのあたり真価を期待したいところであります。