【救世主だった僕が三千年後の世界で土を掘る理由】 有丈 ほえる/ちょこ庵 講談社ラノベ文庫

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天空から飛来した侵略者・アルデヒトにより、人間の大地は蹂躙された。人間たちは生きた機械・クチュールマタを戦力に抗戦する。“救世主”と呼ばれたクチュールマタの少年・リュトは、調整のためコールドスリープに入る。そして彼が再起動した時、世界の様相は一変していた――。大地はヘドロに覆われ、“地球人”として超巨大な樹木の上で暮らすアルデヒトたちは、自分たちが外来種であることすら忘却していた。地球に何が起きたのか。人間はどこへ消えたのか。リュトは自らを掘り出した考古学者の少女・ニナとその助教・アイルにいざなわれ、発掘調査に繰り出す! 救世主パワーで土を掘り、失われた三千年の真実を暴く考古学ファンタジー!!
うわぁ、これはなあ……。
個人的には前半すごい傑作感があったんですよね。地球上から消えてしまった人類種。その生きた歴史文化も失われ、痕跡が地下に埋もれた遺跡から出土するばかり。三千年ものコールドスリープから解凍された決戦兵器クリュールマタの少年が出会ったのは、そんな地面の下から人類の文明の痕跡を掘り起こし、そこに眠っている過去の真実、人類の残した歴史を探る考古学者の女性コンビ。
情熱的な考古学者である二人とともに、眠れる人類の歴史を掘り起こし、かつて人類がこの地球上に生きていたという事実を蘇らせる。
それは、生き物の……人間という種の根源的な欲求である「覚えていてほしい」という願いを叶える行為であり、もはや地球上から人類が消え去ったとしても、その生きた証は確かに残り、異なる種とはいえ次世代の「地球人」であるアルデヒトの中に残るのなら、それは滅びた人類の救済になるのではないだろうか。
なんてことをそうですね、小川一水の傑作SFの【導きの星】のクライマックスを思い出しながら感じていたのであります。
クリュールマタの少年リュトを遥かな未来に送り出した博士の、人類を救ってくれ、という意図が、この地球上、宇宙の中から人間が生きた歴史が消え失せてしまうのを救ってくれ、次の「地球人」にも人間がどんな風に生きていたのか、どんな風に生活し、どんな文化を営んでいたのか、どんな事を思いながら、どんな社会を築いていたのか。その知識を、想い出を、証を伝えて欲しい。
そんな消えゆく種の最後の願いとして、リュトを救世主として送り出したのだと、そう感じたからこそ、かつての人類の痕跡に恋い焦がれるようにニナたちの発掘作業を手伝うリュトの必死さに、切なくも尊い想いを感じながら浸っていたんですけどねえ。
そこから、あれよあれとよなんか話が変な方向に。
いや、こう言っちゃうのもなんなんですけど、人類滅び去ってなかったら全部台無しじゃね?
侵略者であるアルデヒト自身ですら真実を歴史上から見失ってしまう三千年という長い年月の重みと意味が、どうも後半に行くに連れて物語内においてチグハグになってってしまったというか。肝心の考古学が、結局ないがしろになってしまったというか。
あの決定的な場面でのニナとアイルの反応も、あまりにもベタすぎてそれはないだろう、と思ってしまったり。いや、そういう反応を示してしまうこと自体は決して不自然ではないんだろうけれど、だからこそもっと不自然に見えないように演出しないと、それまでの彼女らの感情を無理やりぶった切ってシナリオ通りに演じさせた、みたいなぶつ切り感がどうしても感じられてしまいましたし。
あそこでリュトを突き放さないといけない、という都合に無理やり合わされたみたいな。
あと、アルデヒド自身二足歩行で人間とそれほど異なる文化文明を営んでいるわけではないので、人類遺跡からの発掘品で爪切りとかブラシとかが出てきて、それが何のために使われたのかわからなくて悩む、というシーンがあるんですけど……いや、爪切りとかブラシとかそこまで単純な道具がわからないとか。アルデヒトはブラシとか爪切りという道具を使う文化が存在しないのか、と言えばそんな様子は見受けられませんでしたしね。というか、獣人的な風体というだけで人類と肉体的な違いや生活様式の違いなんかの描写は殆どありませんでしたし。これで、アルデヒトが人間の使う爪切りやブラシとはまったく形状や使い方の異なる道具を使って身だしなみを整えている、という描写があるのなら、彼女らがこれについて何に使うための道具なのかわからなくて頭を悩ませる、という描写にも納得感があったのですが。
発掘場面についてはかなり詳しく調べたのか非常に詳細な描写が続いたのだけれど、そこだけ詳しくてもなあ
ストーリー展開は実に真っ当に展開し、人類の遺された思いと自分が目覚めたあとに得た経験と情愛をもって、主人公が選択し結末へと至る、というよく盛り上がるしっかりとした展開ではあったのですが、何しろ自分が期待していたものと全く違った展開というのにどうしても引っかかってしまい、あちらこちらに散見されるちぐはぐさに躓いたこともあり、どうしても微妙という印象に引っかかってしまいました。実際はわりと堅実で面白い物語だったと思うんで、二巻読む時はちとイメージを一端刷新して読むことにします。