【嘘つき戦姫、迷宮をゆく 1】  佐藤 真登/霜月 えいと ヒーロー文庫

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嘘つきな令嬢が、縦ロールを武器に迷宮で成り上がる! 美少女たちが戦う熱血冒険ファンタジー!

見栄っ張りで嘘ばかりつく貴族の令嬢リルドールは、自分で仕掛けた決闘で敗北し、実家を追い出されてしまう。迷宮都市で謹慎処分を受けるのだが、リルドールは挫けない。
周囲を見返すため、冒険者としての成り上がりを決意し、街で出会った少女コロネルとともに迷宮へ挑む。温室育ちのリルドールは自分よりも才能のあるコロネルに嫉妬し、現実に打ちのめされ挫けそうになるも、自分が持っている、とある「武器」に気がつく。
艶めく髪は女の命、ドリルロールは美の結晶。
女の誇りが詰まったこの髪に、貫けぬものなどありはしない。
見栄と強がりしかなかった少女が自分の嘘を真実へと変える覚悟を決めたとき、縦ロールは最強の武器として変化し、無敵の輝きを放つ。
これは、ただの小娘だった少女が英雄になるまでの熱血冒険ストーリー。

ウェブ版既読済み。完結まで読破しましたけれど、自分が今まで読んだ中でも屈指の傑作でありました。もうとにかく熱いのなんの。
というわけで、再度あの熱量を味わいたく電子書籍化されたのを機に一揃えすることにしたのですが。読んでびっくり。なんか、加筆分が凄くないですかこれ!? 特に世界観に関する部分については別物かというくらいの肉付けがしてあって、この特殊な世界のありようがしっかりと感じられるように語られてるんですよね。
本作において、迷宮と世界の関係というのは非常に重要である意味作品の根幹を為している部分でもあり、ここの肉付けというのはそのまま物語そのものの厚みへと繋がってくるだけに、これは良き増量分だったんじゃないでしょうか。
それ以上に驚きだったのは、結構キャラデザインとか変わってるところですか。コロネルなんて確か銀髪じゃなくて赤毛でしたもんね。銀髪はヒィーコの方じゃなかったかしら。加えてセレナです。一番変わったの彼女じゃないの!? なんかロリ化してるし。ウェブ版では自分、20代前半のお姉さんのイメージで見てたんですよね。黒髪で背も高めのお姉さん的な。ライラとの年齢差考えると、本作での15歳というのはともかくとして、もう少し下の十代後半だったのかもしれませんが。作中で年齢って出てたっけ。

ともあれ、久々に最初期のリルドールを見ることになったのですが、ほんと最初の頃のリルって酷い小娘なんですよね。見栄と自己顕示欲と虚栄心でガチガチに心を鎧って、現実に背を向けて高慢ちきに他人を見下すことで自分を持ち上げようとする、どう言い繕っても最低としか言えない貴族の小娘さまなのである。
でも、この小娘さまは馬鹿で愚かでみっともないろくでなしではあったのですけれど、自分の矮小さを痛いほど理解しているからこその、愚かさでもあったのです。バカさ加減であったのです。
そうでもして、虚栄心で身も心も覆っていないとこの娘は耐えきれなかった。常に惨めに敗北し続ける現実に向き合えなかった。そうやって、わかっている自分のみっともない有様から目を背け逃げ続けるしかなかった弱さが、惨めさが、さらに彼女を追い詰め破滅へと追いやっていく。
もし、リルドールが冒険者ギルドでコロネルと出会わなければ、間違いなくリルドールは自分でも理解していながら止めることの出来ない破滅へのアクセルを踏み込み続けるしかなかっただろう。
だからそれは、紛うことなき運命の出会いだったのだ。そう、運命の出会いだったのである。リルドールにとってだけではなく、コロネルとリルによって成人としての名を与えられた少女にとっても。
コロネルから注がれる純真な憧憬は、リルの虚栄心を満足させ誰知らずとも追い詰められていたリルの心に一滴の余裕をもたらすのだけれど、コロの戦闘面での優秀さはレベルばかり高くて実戦では対して役にも立たないリルをまたぞろ追い詰めていくのである。ほんと、もう何にでも追い詰められて自滅型の破滅へとひた走ろうとする貴族様である。
でも、彼女の見栄っ張り、虚栄心はともすれば自身の矮小さに打ちひしがれて蹲り身動きすら取れなくなりそうなリルの心を奮い立たせる最後の、なけなしの燃料であり炎であり原動力でもあったわけです。それをなくしてしまえば、リルドールは本当に何も出来ない引きこもりの無能な小娘になってしまう。
リルの破滅を食い止めるために放たれた、せめて籠の鳥でも何も出来ない娘になろうと平穏に暮らすほうがマシだろうと、身内から放たれた彼女の見栄を、心を折るための刺客によって追い詰められ、自分の卑しさを、醜さを、おぞましさをもう目を背けることが出来ないくらいまざまざと暴き立てられたリルドールを、それでもなお立たせたのは。
コロネルからの憧憬だったのです。それも、無知で見当違いの憧れでも尊敬でもない。リルドールという少女の弱さを、愚かさを知った上でなお、その弱さのなかの輝きを、コロが知っている、身につけている強さとは質の違う強さを、リルの中に見出してくれた上での本当の意味での憧れだったのです。
純真で真っ直ぐな、そして誰よりも、リル自身ですら信じられなかったリルの強さを肯定してくれる、そんな憧れを目いっぱいに注がれて、稀代の見栄っ張りがここで見栄をはらずになんとする!
歪んだ見栄は、その当人を不幸にするでしょう。ですが、正しき憧憬に中てられて奮い立つ見栄は、正しく人を立たせるのではないでしょうか。
本当にクソつまらない雑魚にすぎなかった人間が、本当の輝きを手にする瞬間のなんて熱く眩しいことだろう。
自分がつき続けたつまらない嘘を、心の底から信じてくれた人がいるのなら、その嘘を真実とすることに何の迷いがあろうものか。
そんな類の覚悟こそが、魂の叫びこそが、己の内から掻き毟るように湧き出した願いこそが、この世界においては魔法となって発現するのである。
彼女の場合は縦ロール。よすがであり誇りであった縦ロールこそが、彼女の最強の武器(物理)となって彼女の大進撃を穿っていくのである。
まだこの頃は縦ロールの使い方も最初ということで大人しいというか常識的? いや、縦ロールが武器としてぐるぐるドリドリぶん回され回転している時点で常識的からは大いに足を踏み外しているのだけれど、これでまだ序の口なんですよね。リルさまのドリルの進化、その使い方のぶっ飛んだ発想はまさに怪物的変遷を辿っていくわけだが、まあそれはまだ将来の話。
この時点ではまだコロのシングル縦ロールブースターのほうがビジュアル的におかしいのです。あれ、位置的にブースター点火したら思いっきり地面にグルンって頭ぶつけそうなんですけどね!! コロってばよっぽど首が強いに違いないw
ただ、でもね。この一巻で一番好きなシーンは。縦ロールで派手に暴れるシーンではなく、才能の欠片もないレイピアの練習を、リルが愚直に続ける場面なんです。縦ロールの魔法は大切にしながらも、出会った時にコロについた嘘と見栄を本物にするために、諦めずに投げ出さずに下手くそなレイピアの練習を続けるシーン。ヒィーコが本当の意味でリルという人を好きになった場面。ここに、リルドールという人の大切な全部が詰まっているようで、この先の彼女の在り方を追い続ける上でも大事な、そしてとても好きなエピソードなんですよね。それを、この一巻のエピローグ、締めで描かれたのはなんとも嬉しい限りなのです。
次の巻では完全新キャラも登場するようですし、シリーズ屈指の人気を誇るおっさんやこの巻でもチラ見的に登場した同世代の冒険者チームの面々もじきに本格登場するはずですし、書籍版のここからも実に楽しみ。期待さらに膨らみます。