【嘘つき戦姫、迷宮をゆく 3】 佐藤 真登/霜月 えいと ヒーロー文庫

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迷宮「最難関」の試練に挑む! 凶悪な刃を持つ魔物の正体とは? 街への魔物の逆走を止められるのか! ?

ムドラを仲間に加え入れ、四人パーティとなったリルドール一行は縦ロールと魔法を駆使して怒涛の勢いで迷宮を攻略していた。だが、次の目標を確認していたリルドールは、今の迷宮では五十階層の試練には挑戦出来ないことを知る。五十階層主の討伐に失敗すると、とあるデメリットがあり、国が挑戦させてくれないのだという。
実力も上がり、既に上級者となっていたリルドール達は、今探索している東の迷宮から、既に五十階層以下が解放されている南の迷宮へ、探索の場所を移すことを決める。次の迷宮に向けて準備をしていたリルドール達は、小さい頃にコロネルの世話をしていたという男・クルクルと遭遇する。
コロネルは偶然の再会に喜びはしゃぐのだが、リルドールは、妹分が自分よりも懐いている男をやっかむ。
そして、四十九階層を見てから新天地へ旅立とうと、最後に東の迷宮へ向かうのだが――。
カニーー!! カニーーーィッ!(号泣
宇宙一格好良いカニの登場である。カニの怪物というかもうカニ以外の何者でもないカニなんだけど、こんなに凄いカニが居てもいいのかと心臓を撃ち抜かれてしまうカニなのである。
50階層主カニエル見参!!
某おじさんのセリフからすると、五十階層主という連中はどいつもこいつも(各迷宮に一体ずつ存在するらしい)カニエルみたいな生き様在り方をしているモンスターのようなので、おじさんじゃないけれど自分もファンにならざるを得ないんですよね。
意志もなく知性もなくただ与えられた役割を本能のままに果たす魔物とは一線を画する、それは原初より知性を宿し個性を持つ迷宮の最難関にして、人類に与えられた最大の試練。それが彼ら五十階層主。ただそれだけでも敬するに値する敵なのですけれど、カニエルは本来与えられた役割に収まらなかった敵でもあるんですよね。
某おじさんに唆されたとは言え、世界の滅びまで役割に殉じて何もなせずに消えていくのではなく、自由を望んだモンスター。ただ迷宮を出て空を見たい、という願いに駆られてシステムへの反逆を試みた、というだけならただの逸脱者で終わったかも知れない。
でも、彼はその過程で自分に課せられた魔物というカテゴリーすら乗り越えていくのである。主人公たちがそうするように、絶対的に立ちふさがる壁を前にして、自分の夢を踏み潰そうという強大すぎる敵を前にして、彼は倒される魔物ではなく、主人公のように、英雄のように、人間のように、その想いを爆発させるのである。この世界において、思いの強さは「魔法」へと成り代わる。一人ひとりが胸に宿した強き想いが魔法へと変じ、その想いがさらに強まれば強まるほど魔法は変化し進化していく。その未来を願いを祈りを掴む証である魔法を、彼は諦められないことで挫けないことで絶望を覆すことで、掴み取るのだ。
だからこそ、挫折を乗り越えて今一度立ち上がったリルドールたちと、カニエルの決戦は英雄と倒されるべき魔物との戦いではない。互いに譲れない願い、夢を胸に燃やし滾らせ、それを叶えるために刃を交える対等の敵同士の決闘であったのだ。
お互いをとんでもない奴だと讃えすげえやつだと尊敬し、その上で打ち倒そうと自分の全身全霊を振り絞る、己が誇りを切っ先に掲げて、今いる場所を飛び越えて、限界なんか突き破って、ありえない可能性を手繰り寄せる。それをお互いに成し遂げながら、競って鈴嶺の頂きに登るような戦いがここには在ったのであります。
熱い、なんてもんじゃぁなっかったんだ!!
この作品の階層主たちは決して倒され打ち捨てられる敵なんかではなく、贄なんかではなく、死闘を繰り広げたリルたちに笑いかけながら、彼女たちの背中を押していってくれる連中なんですよね。
その勇気を讃え、その意志を後押しし、その願いを祝福して送り出してくれる奴らなのである。だから、その決戦のあとはどこか寂しく、それ以上に胸が暖かくなるのです。
カニエルは、その意味でも本当にとびっきりでした。

最初に彼に全く太刀打ちできず、自分たちを逃がすために犠牲になった兵士たちのこともあり、盛大に挫折を食らったリルさまですけれど、むしろ生まれたときから挫折し続けていたとも言えるリルはもう二度と本当の意味で心折れることはなかったのでしょう。彼女の八つ当たりも、よくよく聞けば決して感情的になっただけのものではありませんでしたし、それ以上にちゃんと遺族に自分から挨拶に行くこの娘は立派ですわ。
そして、そこで目撃した能力の強さとは全く意味を異にする人としての強さ。リルの中にはっきりと刻みつけられることになった強さの意味は、表面上の強さの意味しか知らないコロにとっても、とても重要な意味を持つことになるのでしょう。ある意味、今回本当の意味ではじめて挫折したのはコロの方だったのかもしれません。
でも、コロが教えられている強さというのも間違いじゃないんですよね。クルクルおじさんってそりゃもう悪い人では在るんだけれど……コロとかに教えているアドバイスとか人生訓って、何一つ間違いではなく、真摯ですらあって、コロを成長させるという点に関しては全力なんですよね。それも間違った方に歪めて成長させるとかそういう目論見一つなく。自分の信念や思想を押し付けるでもなく、極々自然な在り方を指導してるわけで。
これほどの悪人はおらず、実際に暗躍しまくっているにも関わらず……この人への信頼はまったく揺らがないし、頼もしさは確かなものなんですよね。作品通じて、クルクルおじさんが一番好き、という人は少なくないはず。
今回はついにカスミの挿絵もつきましたし、カスミチーム全体の出番も増えてきましたし、ある意味作中一番の怪人なエイスもそろそろ挿絵ほしいなあ。次巻あたりあるのかなあ。
しかし、この巻の表紙にもなっているヒィーコとムドラ。ヒィーコのツインテール縦ロールはまだしも、ムドラのアホ毛ロールはかなり苦しくないですか!? なんか、ガチなアホい毛になっちゃってますよ!?
いや、この二人に関しては変身ヒーローみたいで、その魔法すごく好きなのですけど……ヒィーコ、髪伸びてないですか!? 彼女の肩口あたりまでのウルフヘアだと、全然表紙絵の長さには足りてないと思うんですけどw
まあ、彼女の場合は「伸びた」で表現できそうだからいいんですけどね。
リルの方は伸びるじゃなくて「生える」だからなあ……縦ロールが生えるw
縦ロールの使い方も四足歩行モードや水面歩行、水中潜航モードだけじゃなく、ついに飛行モードまで発現させてしまって、本当にどこに行こうとしてるんだリルドールw


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