【Unnamed Memory 1.青き月の魔女と呪われし王】 古宮 九時/chibi  電撃の新文芸

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「俺の望みはお前を妻にして、子を産んでもらうことだ」
「受け付けられません!」
永い時を生き、絶大な力で災厄を呼ぶ異端―魔女。強国ファルサスの王太子・オスカーは、幼い頃に受けた『子孫を残せない呪い』を解呪するため、世界最強と名高い魔女・ティナーシャのもとを訪れる。“魔女の塔”の試練を乗り越えて契約者となったオスカーだが、彼が望んだのはティナーシャを妻として迎えることで…。伝説的webノベル、書籍化!


……もう好き!!

あらすじにある通り、伝説的webノベルなんですよね、これ。今隆盛を誇っている「小説家になろう」が本格稼働するよりも前。ウェブ上で小説を発表するのも、自分でホームページを作ってそこで掲載するのが主流だった時代に現れ、読者の心を鷲掴みにしてシャイニングウィザード決めてしまった名作中の名作なのです。古宮さんが【監獄学校にて門番を】で電撃文庫からデビューした時も、ペンネーム変わってるけど【Unnamed Memory】じゃないかーー! と狂喜しながら飛びかかったものでした。
あの頃から、はよ【Unnamed Memory】書籍化しましょうよ、しないの? しないの!? なんでしないのー!? とジタバタ転げ回っていただけに、本作がついにとなった時には捕れたてのエビのようにピチピチと跳ねたものです。
これねー、ほんとねー、オスカーとティナーシャのカップルが好きなんですよ。めっさ好きーー。大好き。個人的にはこの二人はカップルとして至高の一柱だと思っている。
悠久を生きる魔女としてどこか超越的な存在であり、超然とした在り方で時間の流れをたゆたっているティナーシャなんだけど、オスカー相手だとあのすっとぼけて冗談か本気かわからない物言いに調子を崩され、良いように振り回されて頭抱えて叫ぶはめになる。そんな二人のやり取り、掛け合いがなんだかんだともう傍目には滅茶苦茶仲良い風にしか見えなくて、打ち解けきった間柄にしか見えなくて、「よし結婚しよう」「しないから!」「まあまあそう言わず」「しないよ!」という感じの掛け合いにひたすら至福を感じるのであります。
でもティナーシャ、別に押しに弱いというわけではないんでしょうけれど、こうして一気に読んでいると段々と絆されているというか、距離感なくなってってるんですよね。オスカー、多分ティナーシャの外見年齢変わったときだろうけれど、あそこらへんからガチのマジの本気になってるっぽいのですけど、オスカーがわりと無造作に触れてきたりティナーシャを膝に乗せてご満悦してたりするの、拒絶もせずに自然と受け入れたりしてましたからね。あれ、絶対意識して受け入れたとか内心で許可出したとかじゃなくて、触れられることにまるで忌避感抱かず無意識に当たり前に受け入れちゃってたっぽいもんなあ。いやね、普通女の人が髪梳かれたり、膝の上に座ったりとか受け入れませんから。在りえませんから。
それでいて、本気で結婚とかしないから、別に好きでもなんでもないし、と思い込んでいる風なのがティナーシャのボケボケしている可愛らしいところでありまして。
まあそれはオスカーがそもそも言い方軽すぎて、好意は多分にあるだろうけど呪いがあるから選択肢なくてだろう、と思われても仕方ないところがあったわけですし。
それに、ティナーシャは悠久を生きる魔女。普通の人間とは流れる時間が異なっているが故に、同じ時間で生きることは出来ない、というどうしようもない事実は度々語られ、ティナーシャ自身がそれを明確に自覚し、意図的に距離を置こうとしていること。かつてオスカーの曽祖父の時代に一時期城で暮らしていたことが、なおさらティナーシャと普通の人間の時間の違いを強調する材料となっていて、オスカーの求婚を拒絶する大きな理由となっているのでありました。
まあ、それだけじゃないんですけどね。ティナーシャが独りであることを選び続ける理由は。だいたい魔女があかんのであったら、同じ魔女のルクレツィアをオスカーに紹介して押し付けてやる、とかかなりえげつないこと平気で言ったりしないでしょうし。まあ、ルクレツィアが恋人たくさんいるタイプの人というのもあったのでしょうけど。
結局、オスカーはティナーシャの心を手に入れるために、途方もない幾つもの壁を乗り越え、彼女自身が抱える傷に触れなければならなくなるのですが、この王子の図々しいというか図太いというか、無神経とは程遠い繊細さがあるにも関わらず、手段がこの上なく大雑把でゴーイングマイウェイはところはちょっとした無敵感があって、どんな状況でも痛快に解決してくれるような安心感や頼り甲斐が満載な人なんですよね。
これ、何気にティナーシャにも当てはまる部分があって、行き詰まるとわりと大雑把に力任せに解決しようとするきらいがあるような気がするので、けっこう似たものカップルな気がするのです。もっとも、オスカーの方がなんていうんだろう、厳重な鍵がついた扉をチャチャッと器用に解錠して開けられる状態にしてからわざわざ扉蹴破って中に押し入る、みたいな印象があるので、強かというかしれっとした余裕のある感じなのですが。その差が振り回す方と振り回される方を確定している気がするぞ、うん。
こうして読んでいると、覚えている展開とけっこう違う部分もある気がするので構成変えたり加筆修正もかなりしてるんでしょうね。
しかし、オスカー、イラストだとイケメンすぎる気がするなあ。いや、実際イケメンなんで間違ってはいないはずなんですが、もっとこう……食えなさそうというかすっとぼけてそうな鋼鉄メンタルがにじみ出てそうな顔つきなイメージってそれどんな顔つきだよw
まだまだこの名前のない物語ははじまったばかり。この世界観を、オスカーとティナーシャの世界をもっと深く堪能し耽溺することが出来ることを期待し望むばかりです。いやあ、もうほんとに二人の押し問答というかやり取り見てるだけで多幸感がたまらんですわー。

古宮九字作品感想