【最果ての魔法使い】 岩柄イズカ/咲良 ゆき GA文庫

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はるか昔、人類を滅亡寸前まで追い込んだ魔獣を自らと共に封印し、伝説となった魔法使いがいた。だが、彼は千年の封印から目覚めた後に絶望する。魔法は忘れ去られ、世界は再び崩壊の危機をむかえていたのだ。そんな世界で彼に手をさしのべた少女・フィルとの出会いが、千年の孤独ですり減った彼の心に新たな火を灯す!
「あなたは一体…何者なんです?」
「僕の名前はアルカ=ニーベルク、ちょっと凄めの魔法使いさ」
悠久の時を越え、伝説の続きが今紡がれる!最強の魔法使いによる救世の物語、開幕!!第10回GA文庫大賞『優秀賞』を受賞した傑作ファンタジー!

ああ……良い。
なんかこう、冒頭から現代に目覚めてしまってからのフィルとの交流から最後の決戦に至るまで、全部に種類の異なるグッとくる尊さがあって、良かった、良かったよ。
そもそも冒頭からの千年前の魔獣との決戦で大事な人すべてを失いながら、彼らの犠牲を無駄にしないために千年に渡る長き封印で身も心も魂すらもすり減らしていきながら耐え続けたアルカのその献身的な姿に、初っ端から主人公に入れ込んでしまいますよ。
世界を救うために自分を送り出して犠牲になっていった大切な人たちの記憶が長い年月で薄れていくのを、必死に何百年かけて記憶を取り戻す魔術を生み出して修復し、しかしそれでも繰り返しの使用で効果が薄れていって、もう好きだった幼馴染の顔も名前すらも失って、ただ大切だったという記憶を胸に頑張って頑張って、ついに封印を維持しきれなくなって魔獣が復活してしまった現代に目覚めてみれば、千年経った世界は先に復活した魔獣によって滅亡の崖っぷちに追い込まれていた、というだけでもアルカのあの優しい性格からして衝撃の大きさ、悔いの激しさが伺いしれるのですが、そこで出会った健気に滅びかかった世界で、自分よりも小さい幼子たちを守って生きる少女フィルとの交流で、この世界でもう一度生きることを、この滅びかかった世界をもういちど守るのだという決意を育んでいく姿が……尊いのです。なんだ、この尊い主人公は。
この未来の世界ではかつての魔獣との決戦で魔法使いの殆どが死に絶えてしまい、魔法自体が失伝して伝説上の、それこそ架空の技術となってしまっていて、今は錬金術をベースにしながらもゼロから築き上げた科学によって反映しているんですね。
だから、アルカのような強大な魔法を扱う存在はもちろんおらず、その強力な魔法はまさにこの滅びかかった世界においては戦略兵器にも通じる存在になりえるものだったわけですが、かといって魔法ばっかりが強いというわけじゃなくて、科学技術の発展によって成立した現代の叡智はアルカの想像を遥かに上回るものでもあり、かつて魔法では出来ないこと、成し遂げられなかったことを文明単位で成立させていて、アルカの度肝を抜き、驚嘆させ、時に感動すらさせることになります。
魔法と科学、どちらが凄いというわけじゃなく、どちらもが人類がその手で育み手にした叡智であるという位置づけで、両方持ち上げられてるんですね。これがほんと良かった。
そんな科学の叡智の一つであるサポートAIのナビ。この自称心を持たない機械に過ぎない案内人が、またいい味出しまくってるのであります。
いや、絶対心持たないとか嘘だろう、という反応が随所にあって、特にフィルのことは父親のように見守ってるんですよね。そして、アルカに対しては「娘になにちょっかい出してんだこら」と鬼になる父親モードによくなってて、完全にお父さんだよこれ。
そうでなくても、人の心がわかってないと絶対に言えないような心遣いとか助言とかもしてくれるし、アルカの秘めたる覚悟を察する戦友と言って過言でない姿勢もあり、普段の無機質な喋り方とのギャップも相まってそのギャップがたまらないキャラクターでありました。

ラストシーンは、アルカの悠久の旅路の果てにたどり着いた境地、そこから溢れ出した想いの洪水がまた熱くて、切なくて、なんかもうたまらない描き方してくれるんですよね、この作品。
彼の優しさ、決意、想い、覚悟が一方通行なんかではなく、千年経った今もなお繋がっていた。その結末が本当に尊くて、あの「彼女」が送り出してくれるシーンは涙腺決壊ものでした。あれ、あのシーンで彼女の「名前」が口ずさまれていたら、威力十倍じゃきかなかったかもしれない。
あれ、名前があるなしで遥かなる過去の色彩の鮮やかさが全然違ったと、アルカの想い出にある光景がアルカだけのものではなく、読者であるこちら側にも共有共感できたんじゃないか、とちと勿体なく思うくらい、あのシーン良かったんですよねえ。

エピローグの優しい空気に癒やされながら、切なくも温かい読後感を噛みしめることの出来る、素晴らしい作品でありました。