【ヴァルハラの晩ご飯 3.金冠鳥と仔鹿のグリル】 三鏡 一敏/ファルまろ  電撃文庫

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イノシシのセイです! 世界樹倒壊の危機も、ヴァルハラの動乱も落ち着いて、平和な日々が戻ってきました。でも、そんなボクの前に、恐るべき強敵が現れたんです。その名は―ヴァルハラ大農園を管理する鹿のイクス!
彼の肉を食べたオーディン様が「ンまぁ~い!!」となってしまったからさあ大変!
ボク、『晩ご飯』をクビになっちゃうことに…。もちろん死に続ける日々にはうんざりだったけど、このお役目から外れたら、ブリュンヒルデさまに会えなくなっちゃう!待ってろ、イクス!ボクは必ず、君より美味しくなってみせる!
第22回電撃小説大賞“金賞”受賞作の『やわらか神話』ファンタジー第3弾!
本来、死とは恐ろしくおぞましく、また尊くかけがえのないものである。しかし、本作においてセイの死んでも復活する能力のおかげか、主人公本人からしてホイホイと毎食の晩ごはんへと自ら死んで食材となり調理されて食べられる毎日。
セイ本人は自分が食材になることについてしんどいとは思っているものの、決して深刻に考えていないし仕事として一廉のプライドを持っている(単にブリュンヒルデの近くに居たいからというだけの理由ではない、かもしれない)。
ジャンルとしても、これはコメディなのだから死んでも復活できるならそれは別に深刻に考える問題ではないのだろう。と、思っていたのだが。
冒頭でロキが見た冥界での真実。セイの持つ能力が蘇生でも復活でもなく創生であることから生じるあの結果たち。
それは、あのロキがおぞましさに息を呑んだことからもわかるように、ひどく……「グロテスク」な有様だ。それは死への冒涜である。この場面を、冒頭に描かれたことは大きな意味があるのだろう。これ以降、本巻ではこの問題には一切触れることなくあくまで明るいコメディものとして最後まで通したことが逆に「忘れるな、これが真実だ」という楔を打ち込まれたようだった。
真実を目の当たりにしたロキの苦悩は、普段の彼の様子からはうかがい知ることは出来ない。あれを目にして悩んでいながら、セイ本人には知られないようにしているあたりに、この作品に出てくるロキが誠実で友達思いの本当にいいヤツだというのが伝わってくるだけに、或いはこれこそがロキの行く先を決定づけたのかもしれないと思うと、なんとも複雑になってしまう。
イイやつだからこそ、友達思いだからこそ、ロキの中に叛意が芽生えつつあるのだろうか。
ロキってば、冥界であれを見ていながら、晩御飯としての立場を後輩に奪われて迷走しているセイに、諸々をおくびにも出さずにちゃんとアドバイスしてくれてるんだもんなあ。
なにげに創生以外にも、セイのわけのわからない能力がどんどん開花していってて、それは目先の問題を解決するために使える手段として、セイは特に深く考えずに利用しているのだけれど、これって明らかに不穏な要素なんですよなあ。
イノシシと思っていたセイだけれど、両親だというイノシシ夫婦は本当は実の親じゃなくてセイは養子だというのがロキの調べて明らかになってしまったし。
じゃあ、セイってそもそも何者なの? という問題がじわりじわりと物語の中で鎌首をもたげはじめているようだ。

それはそれとして、三巻ともなるとワルキューレ9姉妹も出揃ってそれぞれ個性を発揮しだしていて、ヒロイン戦線賑やかになっていたものです。まあでも、どうやっても妹たちは賑やかしだし、ガチなのはブリュンヒルデなんですけどね。あそこまでガチでセイにべったりだったら、別にセイがキッチン担当から離れても会えなくなるとか絶対なさそうなんだけどなあ。知らぬはセイ当人ばかりなり、か。

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