【航宙軍士官、冒険者になる】 伊藤 暖彦 /himesuz  エンターブレイン

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帝国航宙軍兵士アラン・コリントの乗艦する航宙艦は超空間航行中に未知の攻撃を受け、アランはたった一人の生存者となってしまう。航宙艦は航行不能となり、アランは脱出ポッドで目前の惑星に不時着することに。彼は絶望するも、降り立った惑星には驚くべきことにアランの遺伝子の系譜に連なる人類が繁栄し、さらにはこの惑星の人類は“魔法”なるものを使っていたのだった。アランと、彼に共生するナノマシン“ナノム”は、科学技術を駆使して“剣と魔法の世界”を調査しつつ、サバイバル生活を送ることになるのだが…。異星ファンタジー超大作、登場!
SFの世界観からファンタジー世界へ、というのはやはりワクワク感が募ります。現代人レベルだと元の世界と切り離されてしまうと途端に無力となってしまい、神様などからチートを貰うか頭の中に詰め込んでいる知識を応用するくらいなのに対して、大宇宙航海時代の兵士ともなれば母船から切り離されても内臓コンピューターみたいなナノマシンみたいなもので未知の現象に対しても分析や人間には不可能なレベルでの微細な制御などを担ってもらえるので、持ってるアドバンテージが全然違うもんなあ。それも、母船とコンタクトが取れたらさらに違ってくるのでしょうけれど。
そもそも彼ら帝国航宙軍の軍人というのはスターシップトゥルーパーズみたいに、バグズと呼ばれる侵略性宇宙生物と千年以上に渡って戦い続けている超戦闘国家の出自ですし、バグズと生身で格闘戦が出来るように身体改造されているわけですから、そりゃ強いですわ。普通のSFなら装甲服とか戦車とか人型兵器とかに搭乗して戦うような相手でしょうし。いやまあ、そういう装備もちゃんとあるんでしょうけれど。
いきなりSF世界からファンタジーまっさかりな惑星へと遭難してしまったわけですけれど、そもそも航宙艦が撃沈された理由や方法がまったく不明なままなのが、これ物語がファンタジーな惑星上で収まるつもり全然ないんじゃないだろうか、という感じなんですよね。宇宙の各所に、まるで配されたように人型の人類が繁栄している、という設定もなにか大きな要素を感じさせるところでありますし。
ちなみにこの帝国って、祖が地球ってわけではないんですね。我らが母なる地球はわりと最近、帝国の航宙艦に発見されて汎人類連合的な要素のある帝国に吸収されてしまったみたいですし。その地球は今、観光地みたいにもてはやされて、地球の文化も帝国では大流行していて、末端の兵士であるアランも流行りのあれこれを携えてる、というのはあんまり無理なく地球の文化圏の物品や慣習なんかが使われる理由としてはうまいなあ、とちと感心したり。

さて、肝心の主人公。突然、宇宙から未知の惑星へと遭難してしまったアランくん。母船との連絡も途切れてしまい、もう二度と宇宙には上がれないと覚悟を決めた彼なのですが、母船からの脱出寸前に応急刷り込み型の士官教育……実質の価値観の洗脳が行われたせいか、かなり絶望感に苛まれるような状況なのですが、あんまり堪えた様子もなく前向きにここで生きていこうとしているのである。
その悩む様子もあまりない姿は随分とサッパリしていて、それが作品そのものにもサッパリとしたカラッとベトつかないイメージをもたらしている気がします。薄いとか軽い、とはまた違うんですよね。言葉も通じない現地人であるヒロインのクレリアとの試行錯誤で意思疎通を図りながら、何もかもが未知の世界で手探りで自分が生きていく足場を作っていく様子はサバイバルものとしてもじっくりと丁寧な作りですし、アランの快活さと親しくなった人たちと利益や幸運を自然に共有しようとする姿勢は、やっぱり見ていても気持ちの良いものでしたし。
クレリアが置かれている状況というのは、かなり重たく悲惨なもののはずなんですけれど、彼女が自分の行く末に対する悲嘆から立ち直り、復仇に拘らずに自由に生きていこうとどこか伸び伸びとした様子で思い定めたのには、アランくんのあのさっぱりとした明るさに影響受けたんだろうなあ、というのも伝わってくるものがありましたし。
しかし、アランくんがクレリアの素性を知ってもまったく態度変わらなかったのって、ある意味宇宙時代の人間らしい貴族階級というものへの無頓着さがあるんだろうか。身近に縁がなくても貴族王族というものがどういう存在なのか理解している現代人だと、全く反応示さないとなると単に無神経なだけじゃないのか、と思ってしまうけれど、そういう文化を実感としても歴史上のものとしても持っていない宇宙時代の人間なら、あそうなんだーで流してもおかしくない感触ではあるんですよね。
アランくんがそういう無神経なタイプでは全然ない、という信頼感もあるのでしょうが。いくらSF世界の人間と言っても、上官部下の上下関係はあるわけですしセレブみたいな特権階級だって存在はしていたら、貴族王族について無頓着なんてことはないんだろうけれど。

ともあれ、物語はタイトル通り、アランくんが冒険者としてスタートしたまさにスタート地点に立った段階なので、果たしてSF要素……特にバグズの存在などどう絡んでくるかわからないけれど、是非本作ならではの面白そうな展開を期待したい。