【ご近所の平穏を乱す奴が相手なら、アラフィフ勇者の最強スキルを使わざるをえない!】  嬉野 秋彦/ジョンディー エンターブレイン

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コネも金もなく王都で仕事にも就けずにいた青年ビム・ユンカースを拾ったのは、“ひだまりの館”に勤める美女ブルーベルだった。同僚は美女、仕事内容は魔王大戦後、失われつつある“技術”をもった老人たちに仕事を斡旋すること。その中でユンカースの役割は老人たちの仕事を補佐することだったが、彼が同道することになるメンバーはかつて魔王を倒した勇者、魔女、賢者のパーティだった!それゆえ斡旋される仕事も、現役騎士団すらも太刀打ちできないであろう魔物退治ばかりで―!?一癖も二癖もあるけれど、最強の“技術”を持つアラフィフ勇者パーティと、平凡な青年のレジェンドストーリー!!

これ、まんまシルバー人材派遣センターだ! 
ここで働いている老人たちは、アラフィフとタイトルにはあるけれど実際は50歳をみんな超えています。現代だと50代なんてまだまだ働き盛りと言っていいくらいには平均寿命が伸びているのですが、まだまだ文明が発展しきれていないこの異世界では大戦後数十年が経った今でも平均寿命は60を超えず、45歳をすぎれば老人と呼ばれるような社会なんですね。なので、彼らかつての勇者パーティーの面々は人生の晩年へと差し掛かっているわけだ。
もちろん、こんな世界では社会福祉が現代レベルで整っているわけではなく、年金制度があるわけでもない。人間、死ぬまで働かないといけないわけで。その意味では、この老人を雇用するという目的の人材派遣公社は王妃が出資している半公共機関みたいなものらしいけれど、立派な福祉事業なんですよね。
もっとも、そこに元勇者や賢者や魔女なんてのが所属していて、その組織の天辺が実質実権を持った女王陛下な王妃様だという以上、それだけが目的の組織ではないのだけれど。
しかしまー、世知辛い話ではあるんだ。魔王大戦の英雄である勇者パーティーが最晩年を家族もなく孤独に迎えているわけですから。
それを寂しい人生、なんて言ってしまうのは傲慢なんでしょうけれどね。家庭を持たなかったのも権力を求めなかったのも、彼ら自身が選ばなかった道であり、人の幸福なんてものはそれぞれが己で決めるものであって、他人が外から見てあーだこーだ言うもんじゃないですからね。ザッキさんやルードさんたちは、今の有様を当たり前のように受け止めていますし、家庭を持たなかったことを後悔しているわけでもない。ただ、心残りがあるとするならば、自分たちの技術の後継者すらもいないまま消えていくことだったのかもしれません。しかし、それも積極的に探し求めている、ということもなく自分たちの人生の終焉とともに失われていくことを、そういうものだと受け入れている。
ミロスさんは、子供を作れなかったことに幾許かの未練を抱いているようですけれど。ともあれ、若い連中に期待はしていないけれど、諦めてそっぽを向いているわけではない。もし運が良ければ後継者に巡り会えるだろう、くらいの気持ちではいるようなんですよね。狷介とも偏屈ともとれますが、これはこれで素直でもあるんだろうなあ。

そんな彼ら老人の前に現れた若者・ユンカースくんは田舎の農村出の朴訥な青年で何の特技があるわけでもなく、都会に出てきた目的も官庁の事務職狙い、というある意味現実的な手堅い生き方を目論んでいる奴なのである。だから、別に体力があるわけでも実戦経験があるわけでも秘められた力があるわけでもなく、変な野心があるわけでもなく、あると言えば家族経営の農業じゃ将来親が歳とって働けなくなったらやってけなくなるから、今のうちに都会で働こう、なんていう計算高さがあるくらいのガチで普通の青年である。いや本当に、ザックたちの荒事に担当職員としてつきあわされるようになっても、別になんの覚醒もしませんしね。
ただ、彼が凄いのはその図太さというか厚かましさというか精神的な鈍さというか、ザックにしてもルードにしてもかなり当たりきつい爺さんたちなんですけれど、毎回けっこうキツイ目にあって辞めたい辞めたい言いながらも、次の日になるとわりとケロッとして引きずった様子がないんですよね。それどころか、慣れてきたらズケズケと結構言いたいこと言って堪えた様子が全然ないのである。タフだなあ、と感心しかけたんだけれど、タフって打たれ強いとか我慢強いというイメージなので、そういうのとは違う感じなんですよねえ。そもそも、痛みを感じていないんじゃないか、というタイプの図太さというか。
おまけに、何かと言うと余計な一言が多くて、地味にユンカースくんの方が相手にダメージ食らわせているようにも見えますし。この子、地元にもあんまり友達いなかったんだろうなあ。無自覚にかなりザクザクと相手の心を切り刻むようなこと言ってますし。
ただ、その図太さというか厚かましさがわがまま老人なザックさんにはちょうど良かったのか、わりとしぶしぶユンカースの言うことを聞いているのを見ると、微妙に不良老人とその孫みたいに見えてくるから不思議です。
元勇者からしたら、何の見込みもなさそうなユンカースくんなんだけれど、その継がせようのないはずの技術というには感覚的すぎる「スキル」の後継者候補にユンカースくんのことを、ほんのちょびっとでも候補にあげている時点で、なんだかんだと彼のこと気に入ってるんじゃないか、と思えてくるわけで。微笑ましいには程遠いまでも、思わず微苦笑を浮かべてしまう老人たちと若者の関係なのでした。
彼ら勇者パーティーのみならず、人材派遣センターへの依頼者である農園の経営者の老夫婦の先行きと、彼らの元を飛び出していった孫の人生という、老後というものを考えさせられる沁み入る話で、なんとも味わい深いものがあって面白かった!

嬉野秋彦作品感想