【星系出雲の兵站 2】 林 譲治 ハヤカワ文庫JA

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準惑星天涯でガイナスに辛勝した人類。しかしその勝利は、出雲と壱岐の政治・軍事各所に微妙な軋轢を生みだした。コンソーシアム艦隊の作戦行動が政治主導で制限されることを危惧する左近健一大将は、腹心の香椎士郎中将を司令長官とする壱岐方面艦隊を編組。一方、壱岐の軍需工場を巡り、タオ迫水筆頭執政官と火伏礼二兵站監は攻防を繰り広げる。さらに天涯の探査システムが正体不明の小惑星を発見し―シリーズ第2弾。

うわー、泥沼になってきたぞ。一巻では各セクションを手動する面々が皆有能であり、そこで自身の能力を存分に揮える環境と適正を得ていたために、かなり瀬戸際の崖っぷちを綱渡りするはめになりながらも、ガイナスという未知の異星人に対して勝利を掴むことが出来たのですが、勝ってしまったからこそその体制に対して手が加えられてしまうのであります。
勝ってるならその体制のまま現状維持でいいじゃないか、と思う所なんですけどね。一概にそれが正しいとも言えず、状況に合わせて体制も人事も対応させていかなくては現状の推移についていけない、というケースもあるわけなんですが、同時にそれは現場で培われた経験をリセットしてしまうことでもあります。
戦訓などが正確に引き継がれれば、そのリスクは最小限になるのでしょうけれど、生の経験でない引き継ぎというものは、どうしてもオミットされてしまう部分が出てきてしまう。余計な解釈や自分のみたいものだけ見て必要ないと思った部分は切り捨ててしまうこともある。そこから戦訓を残した人の意図とは違う意図が汲み取られてしまうこともある。今回は、まさにその最悪のパターンが出てしまった、というべきなのでしょう。
組織において、上の方にある地位に付く人が無能ということはまずありません。なんらかの能力がなければ、よっぽどの血統主義でなければどこぞで行き詰まってしまう。
なので、香椎司令官にしても軍官僚、参謀本部の幕僚としては極めて優秀だったのはそのキャリアと他者からの評価でも明らかでしょう。彼は幾つも失敗を重ねることになるのですがその中でも致命的に失敗した一つは、その参謀本部でのやり方を現場の艦隊司令官という立場で行ってしまったことにあると思われます。コンソーシアム艦隊司令部の「文化」がどのようなものかは書かれてたかな。トップダウン式か幕僚主導かとか国や時代によって司令部の動かし方というのは異なっていたりするものですけれど、香椎さんは艦隊幹部に意見を出させてそれを調整することで艦隊を主導しようとするのですが、作戦を立案したり方針を導き出す後方の参謀本部ならともかく、司令部或いは司令官が明確な方針を示すことでその達成に向かって作戦内容を詰めていく、或いは判断材料を提示していくという形になるだろう現場の司令部でそのやり方は、確かに拙かろう、なんですよねえ。
何をしたら良いか、何を言ったらいいか題材もないのにわからないもの。
ただ、香椎さんに限らず前の部署のやり方をそのまま次の部署に持ち込み、前の通りにやろうとして噛み合わず、全部機能不全していってしまう、というのはまあよくあることなんじゃないでしょうか。前のところではこれで上手く行ってたのに、なんでこっちでは上手くいかないんだろう、ってそりゃ前のところと今のところでは置かれている状況も環境もシステムも体制も様々なものが違うからに決まってるでしょうに。そこに合わせた適切なカスタマイズがなされなければ、前のやり方なんて機能するはずないじゃないですか。それを、今の所の連中が上手くやれないのが悪いのだ、というふうに考えるようになったら、もう最悪です。たいてい酷いことになります。
成功体験というのは、なにげに人の行動や考え方を縛ってしまうこともあるんですねえ。
香椎さんの場合は、そこまで頑なではなかったと思うのですけれど、状況を打開するための能力がやはりなかったのでしょう。本来敵対派閥であった参謀長と意思統一が図れてしまったために、逆に少数での孤立化に進んでしまい、自分にとって楽な方、都合の良い方へと判断や意見の汲み取りを逃がすようになってしまった。
なんというか、ここまで作戦が始まる前にまずこれ失敗するよね、という状態になってしまうのも珍しいような、それとも逆によくあることなのか。大きな失敗が起こるときって、実はこれくらい顕著な有様になってるものなんでしょうかね。
だからこそ、兵站科の連中が事前にリカバリーに動けていたのでしょうけれど。でもこれも、本来司令部の要因だったバーキンから情報が出されたから香椎さんの第一艦隊司令部の状況が外部にも知れたわけで、第二艦隊や方面艦隊の同じ主計関係の連中でも言われるまでどうなってるか知らなかったのだから、意外と一歩でも離れるとこういうゴタゴタや組織の軋みというのは伝わらないのかもしれない。
一方で火伏の奥さんの八重さんが僅かな公式情報から要人である出張中だった夫の帰宅日時まで詳細に予測してしまえるように、ある種の人間なら見える範囲の情報から凄まじいまでの真実や現状まで汲み取ってしまうわけで、その手のトップクラスのバケモノである火伏兵站監のあの暗躍の仕方はちょっとゾッとするくらいである。香椎さんや左近司令官たち地位にこだわる人種とは、明らかに価値観から異なるロジックで動いてるもんなあ、この人。だから、異なる価値観や文化の人からは何考えてるかわからなくて、そりゃ恐ろしく見えるわ。

ガイナスの側の情報は、さらなる交戦を経てもなかなか明らかにならず、ただその脅威度だけが想定を上回り、いやシャロンレポートからすると想定どおりにか、あがっていくばかり。
いや、ブレンダと八重さんの会談を聞いているとそれ以上に分析は進んでいるのかもしれないけれど。
この敗戦や壱岐での暗殺騒ぎは、一度目の勝利によって生じた組織の淀みの発露ではあったかもしれませんが、逆に火伏の暗躍やタオ氏の決断によってこれで膿が出せたとも考えられるわけで、シャロンの再登板もありそうですし、これでもう一度人類側のターンに戻ってくるのか。
しかし、シャロンにしてもバーキンにしても獅子奮迅する女性エリートたち、格好いいんだけれど一方で恋愛的にはポンコツなのがなかなか可愛いです。意外と男連中、うまいことこの女性たち捕まえるんだから大したもんだし、なかなかの趣味だと感心もさせられるのでありましたw

1巻感想