【妹さえいればいい。9】 平坂読/カントク ガガガ文庫

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相生初に続き、第15回新人賞受賞者たちの作品が続々と刊行された。那由多に憧れる笠松青菜もどうにかデビューを果たすのだが、待っていたのは酷評の嵐だった。伊月はそんな彼女の姿に自分のデビュー当時のことを思い出し、励ましの言葉をかける。一方、いよいよ放送が近づいてきた『妹のすべて』のアニメ制作ではさらなるトラブルが相次ぎ、京はいよいよ就職活動が始まり、千尋の前にもお掃除ロボットではなくちゃんと人間のライバルが登場する。大人気青春ラブコメ群像劇、妹がいっぱいの第9弾登場!!
アシュリー先生とマキナさんの大人の関係、と一言で言ってしまうには勿体無い人生の大波に翻弄されて砂浜に流れ着いたもの同士のなんとも言えない関係、好きだなあ。
同志でもあり共犯者でもあり敵対者でもある、友達であって他人であって人生の最も深い部分が交錯したもの同士。惚れた腫れたでは語りづらく、一定の距離を置きたい関係であり、しかしどこか離れるのが勿体なくて多分大切であるかもしれない関係。こればっかりはまだまだ若い連中では届かない境地なんかしら。いやまあこれも人それぞれか。平坂先生はこういうなんとも言えない距離感の人間関係ってこれまで書いてきた作品見ても、なんとなく好きっぽい気がするなあ。

さて、今回は妹尽くしの回でありました。妹さえいればいい、というタイトルにも関わらず、何気に妹が妹であることを隠している千尋と、時々登場する春斗の妹ちゃんくらいだった本作。
ある意味、妹としての立場は弟であると思われていることを除けば安泰であった千尋くんなのですが、デビュー作を酷評されて凹んでいたところをアドバイスしたら懐いてしまった青葉と、新人お爺ちゃん先生のお孫さんである小学生が、「お兄ちゃんお兄ちゃん」と伊月を慕ってベタベタしだす、つまり疑似妹の出現に伊月がデレデレしまくり、お兄ちゃんと呼んでくれる女なら誰でも良い(意訳)、というなかなかのクズっぽいコメントについに千尋追い詰められる、の回であります。
自分こそが本当の妹なのに! 自分こそがもっとお兄ちゃんに妹として可愛がられるべきなのに! というなんかもう妹を拗らせている嫉妬の仕方が、わかるんだけれど気持ちわかるんだけれど、冷静に考えるとそれはどういう嫉妬なんだ?と疑問に思ってしまうところでもあるんですよね。
そいつ、彼女持ちの義理の兄だぜ? 異性として意識して女として嫉妬している、のではないのが味噌というか肝というか。あくまで妹として妹として認められていないために妹可愛がりされてるニセ妹たちに妹的な嫉妬を募らせているわけで。ありそうでなかなか見ない嫉妬なんではないだろうか。
TRPGで弟キャラではなく妹キャラとして演じていたところから、本当の自分をさらけ出してしまう展開にはなかなか唸らされました。これ、最初から筋書きとして図ってたのか。

一方で京の就職活動も本番化。いろんな企業に面接に行くわけですが、うちに来いと言われているGF文庫にはコネは良くないと避けちゃうところは潔癖と言うか不器用というか。コネじゃなく実力を評価されてのことなのにね。ただ、就活始めた時点では編集者になる、ということにまだそれほどの意志を持っていなかっただけに、流されるようにGF文庫にお世話になるのはしっくり来るものがなかったのかもしれない。土岐さんの流されまくった挙げ句に座礁したみたいにGF文庫に入った経緯を先に聞いていたら違っていたかもしれないけれど。
ただ、明確に編集者になりたいと意識したあとの動きとしては考えさせられるものがあるんですよね。たまたま遭遇した蒼真くんの事件、そこで感じたこと投げかけられた言葉は京ちゃんの人生そのものを左右することになるのでしょう。彼女の生き様を決める出来事になったのかもしれない。神戸さん、その業界の理屈を彼女に理不尽にも見える形で示してしまったのは悪手ではなかったかと。
時として、作家さんとは会社ではなく人についていくことだってあるんだから。逃した魚は大きいどころじゃないかもよ。