【ゴブリンスレイヤー 8】 蝸牛くも /神奈月昇  GA文庫

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「来てしまいました」
そう、彼女は言った。
辺境の街のギルドにやってきた至高神の大司教――剣の乙女は、ゴブリンスレイヤーたち一党に王都までの護衛を依頼する。街道には、狼に乗ったゴブリンが群れているという。

一方、王都では霊峰に天より火石が落ちてきたことで、災厄の兆しが囁かれていた……。
一党が訪れた時に起きる事件は、《宿命》か《偶然》か。その行方は、最も深き迷宮、最果ての深淵、死の迷宮《ダンジョン・オブ・ザ・デッド》へと連なってゆく――。

「もし四階より下へ行くのなら……帰っては来れませんから」
蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー第8弾!
「来ちゃった♪」ってそれ、今から修羅場はじめます、な号砲セリフなんですけど!?
幸か不幸か、そのセリフを意図的に解釈するような人は居なかったのですけれど、剣の乙女さまのあの凄まじい秋波はなんなんですかね!? ゴブスレさんに好意を示す女性陣は何人かいますけれど独占欲めいたものを見せた人は居なかったんですよね。そこはそれ、正妻として牛飼娘さんがどーんと君臨しているのもありますし、女神官も受付さんも好意はMAXなんだけれどあんまり女性としての自分を押し出して気を引こうみたいな考えは見せてこなかっただけに、剣の乙女さんのあの若干ドロっとした粘度のある秋波はいっそ新鮮ですらある。あれで、決して意図的に色気出したり秋波送ったりしているわけではなさそうなあたり、生々しいんですよねえ。
かと言って、彼女もゴブスレさんを男として求めているのかというと、これもまたどこか違うようにも感じられるわけで。ゴブスレさんは、彼女にとっての極々個人的な救世主であり、特別な存在として崇めている……というのも少し違う気もするのだけれど、心酔している?とでもいうのだろうか。そこまで栃狂ってるわけでもなさそうだけれど。ともかく、特別な存在として自分を守ってくれる存在として強く強く意識してるんですよね。
ただその特別視って、彼がゴブリンを殺すものであるという点に寄与しているのであればゴブリンスレイヤーさんはかつてのただただ純粋にゴブリンを殺すだけのモノであった頃に比べると不純物を多く内包し出しているのも確かなんですよね。
今回だって、ゴブリンを殺すこと以外でただの冒険を楽しいと感じているというのを素直に吐露していますし、戸惑いながらもいつものパーティーを自分の仲間たちと紹介し、自分が受けた依頼を一緒にこなしてくれるのを頼みにいくことに疑いを抱かなくなっていますし。
それは、ゴブリンスレイヤーにとって成長なのか、退化なのか。
果たして剣の乙女さまが、ゴブスレさんと牛飼娘の仲睦まじい様子を見て何やらドロドロとしたものを胸の奥で滾らせていたの、あれを単なる女の嫉妬心や独占欲から来る負の感情のようなものと捉えていたんだけれど、もしかしたらもっと純粋な不安感からくるものだったのかもしれないとふと思ったのでした。
ただひたすらゴブリンを殺すシステムとして純粋に昇華された存在にとって、日常やその側に寄り添う存在なんてものは不純物であり、剣の乙女に安息を与えてくれるはずのゴブリンを殺すモノがその在りように鈍りを生じさせているのではないか、という彼女自身意識して考えているわけではない無意識の中から生じた不安感から滲み出たネガティブな感情だった、という想像も叶うわけで、そうだとしたら未だ彼女の歪みは彼女を押し潰していることになるのだろうか。
でも、最終的にこの巻で彼女、剣の乙女は他力本願ではなく、自分の意志と勇気を以ってゴブリンへの恐怖に立ち向かってるんですよね。
かつてゴブリンに蹂躙された傷を抱えながら、新たな道を歩みだしていた令嬢剣士の再登場。見違えたその立派な姿は、傷は癒えずとも心破れたままでも、人はその傷の上に新たな自分を築き上げることが出来るのだと証明しているようで、人の強さというものを改めて感じさせてくれる。
剣の乙女もまた、令嬢剣士のその姿に思う所あったのだろうか。事情を知らぬ人たちに追い詰められてしまった瀬戸際に、ヒーローのように現れて恐怖からすくい上げてくれたゴブスレさんのその姿に、これまで抱いていた以上の何かを感じ取って得ることができたのか。
いずれにしても、大きな挫折を経ながらも前に進む人たちをこうして見ることが出来るのが心地よい。
女神官ちゃんも理想の女性像に追いつける気がしなくて悶々とし、また思い入れある鎖帷子を盗られて泣きじゃくり、と久々に年相応の幼い弱った姿を見せてくれたことが、逆に彼女の成長を感じさせられて良かった。おっかなびっくり女神官慰めながらお姉さんぶってる妖精弓手のお嬢ちゃんがまたこれはこれで微笑ましかったのですが。この娘、根っからの妹気質なだけにこうしてお姉さんぶってる姿がなんか可愛らしいんですよねえ。
ダンジョン探索の初体験が旧ラストダンジョン、という初物にしてはレベルが高すぎるところに潜ることになってしまった女神官。相手はゴブリンとは言え、場所が場所だけに今回も緊張度高かったのですけれど、なんか最近わりとゴブリン相手でもギリギリというかボロボロになることが多い一行である。今回なんてほんと絶体絶命の大ピンチでしたし。どれだけレベルが高く、連携がとれるパーティーとなっても、相手がゴブリンであっても、一つ間違えれば全滅するという緊張感が未だに衰えないのはすごいなあ、と。
すごいと言えば、勇者ちゃん、なんかすごいのと戦ってたんですがー。それ、邪神じゃないんですか、邪神!? あの勇者ちゃんの天真爛漫で天衣無縫でありながら、物事の要の部分をよくわかってる聡明なキャラクター、最近特に好きになってきてしまいました。
あと、国王陛下、なに暴れん坊将軍してるんですかー! ノリノリすぎる、この陛下。妹ちゃんの暴走の一因って絶対この兄だよね!?

シリーズ感想