戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 8 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉9】 SOW/ザザ HJ文庫

Amazon
Kindle B☆W

マイッツァーを狙った機械兵の襲撃により、スヴェンが機械であるとルートにばれてしまう。二人が状況を理解する間もなく、ダイアンとブリッツドナーまで現れ、混迷を極めるトッカーブロート。普段ならこの混乱を収める側に回るジェコブも、突然の父親登場にその場を立ち去ってしまう…。スヴェンが看板娘になっておおよそ一年。ついにすれちがい始めたスヴェンとルート。聖女が裏で動き出す中で、スヴェンとルート、二人の未来の行き先は―。トッカーブロートの「驚天動地の九日間」、幕開け!!
ルート、男を見せる。
いやね、これまでスヴェンの正体について薄々察しながらも、それについて一切言及しようとしなかったのはスヴェンがそれを知られたくなかったから気づかないふりをしていた、という理由だけではなくルート自身、触れることで現状を壊してしまうことを恐れていた部分は多分にあったと思うのです。
なあなあの関係で良しとしていた、とも言えますし、核心に踏み込もうとしないルートはヘタレていたとも言えるのでしょう。ただまあ、様々な事件に見舞われたとはいえ、まだスヴェンが現れて一年。時間で考えるなら、一組の男女の関係が進展するに早いとも遅いとも言えない期間ではないでしょうか。だから、ルートのその知らんぷり、な態度はまだ非難されるほどの段階ではなかったと思うんですよね。
ただ、スヴェンの父親を名乗る存在が現れて、曖昧だったルートとスヴェンの関係についてはっきりしなさいよ、という主旨の指摘を切り込んできた上で、スヴェンの正体がこれまでの暗黙の了解とは異なり、これ以上なく明示されてしまったわけです。
ここまで事態が急変した以上、以前のままではいられない。何らかの意思表明はしないといけない。
にも関わらず、この巻はじまった当初のルートの態度は、スヴェンの正体など知らないかのように以前のまま。これはさすがに、スヴェンが立場的にも気持ち的にも宙ぶらりんにさせられて、可哀想過ぎる! と随分と構えてしまったのですが……さすがに彼もそこまでヘタレ尽くしたドぐされ野郎ではなかったようで、スヴェンには内緒でサプライズの企画を周囲の人達を巻き込んで企てていたのです。
って、それでも女の子を不安にさせた時点で女心をわかってない朴念仁、という汚名は頭から被っておかないといけないと思うのですが。
ルートってば、スヴェン相手だけじゃなくソフィア姐さんにまでドキツイのカマしちゃいましたからねえ。いや、マジで姐さんが自分に懸想してたことまったくこれっぽっちも気づいてなかっただなあ。でなければ、あんな残酷な役目、ナチュラルにお願いしたりしないでしょう。ってか、このサプライズで一番サプライズされてしまったのって、スヴェンよりもソフィアさんの方だよね、絶対。
あそこですぐに再起動して、ルートのポカをフォローする姐さん、マジ男前である。大丈夫だ、姐さん。あんな朴念仁よりもずっと大事にしてくれそうなイケてる男がすぐそこに居るじゃあないですか……。イケてるかどうかは定かではないか。あと、まともでもないし頭おかしいし人としてどうかというレベルでマッドサイエンティストだけれど。とても家庭人として役に立たなさそうだし、ほんとアレだけれど。
でも、ちゃんと人の心を持つイイ男なんですよねえ、ダイアン教授。
まさか、この人がルートに対してスヴェンのこと、あんな風に忠告してくれるなんて場面を見るとは思わなかった。それも、スヴェンの心を、気持ちを慮っての助言であり叱責ですよ。それを、あのダイアンが言うような展開が訪れるとはねえ。
ダイアン教授といえば、登場当初から悪役ムーヴ、絶対にこいつがシリーズの黒幕に違いないという怪しい態度、マッドな思想、胡散臭い言動、真っ黒な暗躍、という姿を見せっぱなしで、いつルートたちを陥れる動きを見せるのか、いつスヴェンたちを苦しめる企みをはじめるのか、いつ黒幕として敵対行動をはじめるのか、とずっと警戒を解けないままシリーズ続いてきたのでした。
にもかかわらず、ついにこの最終局面に至るまで敵側に回るわけでもなく、しかしはっきりと味方になるわけでもない、という不思議な立ち位置のままここまで来てしまったわけです。その意味では、非常に興味深いというか面白い立ち回りをし続けたキャラだったんですよねえ。これだけ曖昧な立ち位置にいながら物語の枠外にいるのではなく、何気にルートたちよりも物語の核心部分に立ち続けてもいたわけですから。
どうやらソフィア姐さんに対する好意が、単なる玩具を愛でる人でなしの興味や好奇心の類ではなく、胡散臭い言い回しとは裏腹にこれはガチで好きなんじゃないのか? と思われるような態度を見せ始めたあたりから、ようやくこれは黒幕じゃないんじゃないのか、と疑念が晴れてきて、でも本当の本当に確信を持って大丈夫敵側じゃない、と思えるようになったのはダイアンの過去が明らかになり、目的が明らかになり、そしてこの世界の本当の敵が明らかになった前巻でようやくでしたからねえ。
そう確信出来てから、ダイアンのソフィアへの態度を見ると何気にずっと一途で献身的であったようにも見えてくるわけで、いやまあなんだかんだとソフィア姐さんがガチで毛嫌いしていたのが絆されていったのもわからなくはないのである。
ソフィア姐さん、今晩はガチで羽目外してしまいそうだなー。この人はやらかす、絶対やらかすw

ブリッツドナーもドサクサに紛れて家族と再会。紆余曲折ありつつも、ようやく家族と一緒の時間を過ごせることになり、スヴェンとルートの関係もついにあるべきところへと辿り着き、と大きな変化を幸福にして平穏な方向へと迎えることになったパン屋とその周囲の愛すべき人たち。
しかし、大きな物語としてはこれぞ前哨。まさにここから、世界は究極の局面へと突入するのである。
そして、スヴェンの抱いた「人間になりたい」という願いもまた……。
戦うパン屋が戦う必要なくなり、機械仕掛けの看板娘が機械ではなくなる、そんなタイトルが雲散霧消するような結末が訪れるのか。クライマックスとなる次巻が待ち遠しい。

シリーズ感想